2018年10月22日(月)

アイ・キューブ 主婦の視線で商品開発支援
(アントレプレナー) 広野郁子社長

コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/6/14 22:32
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商品開発には時代によって変化する消費者の嗜好の把握が欠かせない。アイ・キューブ(芦屋市)は感度の高い主婦ら230人を会員に抱え、企業の商品企画担当者が直接対話できるサービスを提供する。社長の広野郁子氏(54)はリクルートを退社し主婦となり、三菱電機に勤めた後に起業した。「主婦の視線」を使いこなし、新たな市場を切り開いている。

広野郁子社長

広野郁子社長

起業は2001年。家電や食品メーカーなど、これまでに100社を超える商品開発のコンサルティングや支援を手掛けた。オムロンヘルスケアといった大手からの引き合いも強い。社員やスタッフは生活感度の高い女性が中心。「女性の視点をビジネスに翻訳する」ことが、企業に気付きを提供できる秘訣だ。

「経済的に自立できる女性になりなさい」。幼い頃から母親に繰り返し言われた言葉が、広野氏の心に強く残っている。勉強に励み、大学は文学部の教育学科を選んだ。欧州発祥の自由な教育方式に興味をいだき、持ち前の行動力でドイツの教育学校をアポイントを事前に入れずに訪問したこともあった。

1986年に大学を卒業し、リクルートに入社。その当時、給与面など男女の働く条件の格差が大きいことに衝撃を覚え、就職活動では男女同一賃金を掲げていた同社に強く引かれたという。「持ち前の行動力、生命力で採用されたのだと思う」と笑いながら振り返る。

社内では住宅関連の営業などを担当した。最初はアポイントすら入らない日が多かったが、不動産会社のリストを手作りするなど工夫をこらすと業績が向上。部内のMVPなども取得した。

退職のきっかけは結婚と出産だ。当時は育児休暇の制度が十分には整っておらず、約3年間、専業主婦として過ごした。同じ立場の主婦の友達と話をするなかで感じたのは、優秀な女性が家庭の中にたくさんいるということ。女性のやる気や才能が多く眠っていると確信。「彼女たちの才能をいかせるビジネスがしたい」という思いが芽生えていった。

転機となったのは、家族の転勤で静岡に引っ越した96年。三菱電機の静岡製作所にマーケティング担当として入社し、新商品の開発に携わった。チームで新しい冷蔵庫についてのアイデアを出し合っていた際、技術者が「いかに冷凍温度を下げるか」にこだわっていた点に違和感を覚えた。

冷凍食材を管理する主婦としては、解凍する時間があまりかからず簡単に調理ができるほうが望ましい。一般的な冷凍温度はマイナス18度と言われていたが、広野氏はマイナス7度に設定した商品を提案した。

当時の冷蔵庫開発の常識を否定する提案に強い反対も出た。ここでも持ち前の行動力で説明を丁寧に繰り返し、最終的に商品化のゴーサインを勝ち取る。主婦の視線の正しさが証明され、ヒット商品になった。

広野氏の実力を認めた上司から「優秀な女性を束ねる会社を立ち上げてみたら」と提案され、起業を決意する。勝算はあった。「女性は横のつながりを自然と深めるパワーがある」からだ。

実際、自身の人脈から社員や会員を広げていくうちに、一緒に働きたいという女性が続々と集まった。「一度職を離れたが、自分の経験を社会で生かしたいと思っている女性は多いのでは」という広野氏の予感が的中した。評判が広がり企業からの依頼が続々と増え、17年8月期の売上高は1億6000万円、社員数12人の規模になった。

決してぶれない広野氏の信条が「消費者の視点にとことんこだわる」ことだ。「今までにないデザイン性に優れた冷房設備をつくりたい」というメーカーの依頼があったときは、先進的なデザインで定評のあるイタリアに出張し、視察で現地の家庭を何軒も訪問。日本とイタリアで計2400人以上に調査を行うなど、納得がいくまで徹底して調査を尽くした。

ネットに情報があふれるほど、口コミサイトや購買履歴だけでは読みとれない消費者の生の声の価値は高まっている。技術力の高い日本では「どれだけ商品の性能を上げられるか」に意識が向きがちで、使う人の気持ちは二の次になりやすい。だからこそ「生活用品を使う主婦の目線を企業に届けることが、商品開発の鍵になる」と話す。

一人ひとりのスタッフが無理のない働き方を選べるとあって、第一線から退いた主婦の雇用にもつながっている。近年は女性の就職を後押しするイベントに呼ばれる機会も増えてきた。「今は人生100年時代」。これだけで終わるつもりはなく、新たな事業にも積極的な姿勢をみせる。社会で女性の活躍が声高に提言されるなか、仕事に向き合う女性たちを広野氏は今日も自然体で応援する。(土橋美沙)

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