2019年8月25日(日)

在日家族 前向く姿描く 鄭義信「焼肉ドラゴン」(もっと関西)
カルチャー

2018/6/15 11:30
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在日コリアン家族の泣き笑いを描いた舞台「焼肉ドラゴン」が映画化され、22日から公開される。戯曲を書いた劇作家の鄭義信(チョン・ウィシン)が初めて監督を務め、脚本も手掛けた。兵庫県姫路市の在日集落で生まれ育った鄭は「日本人や韓国人を問わず、普遍的な家族の物語」と、作品に込めた思いを語る。

撮影現場で3姉妹の長女役の真木よう子(右)と話す鄭義信(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

撮影現場で3姉妹の長女役の真木よう子(右)と話す鄭義信(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

時代は万国博覧会に沸く1970年前後、大阪国際(伊丹)空港近くに実在した在日集落が舞台だ。彼らは「土地を買った」と主張するが、空港に隣接する国有地を実際は不法占拠し、バラックを建てて暮らしていた。

物語の中心となる焼肉店は、ともに再婚である父母と血のつながりが微妙な3姉妹、長男が暮らし、常連客がたむろする。日々ドタバタ劇を繰り広げるが、滑走路の増設で立ち退きを迫られ、人々は別々に生きる場所を求めていく。

■演劇で受賞多数

舞台作品としては2008年、新国立劇場と韓国ソウル・アート・センターが合同で制作し、読売演劇大賞など数々の賞に輝いた。日本では客層の大半が50~60代で、高度成長期へのノスタルジーとして作品を見る人が多かった。一方、韓国ではほとんどが若者だったという。「韓国は(リーマン・ショック直前の)経済成長の途上にあり、家族関係が崩壊しつつあった。現在進行形の物語として若者の共感を得た」と鄭は分析する。

映画「焼肉ドラゴン」は在日コリアン家族の喜びや悲しみを描く(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

映画「焼肉ドラゴン」は在日コリアン家族の喜びや悲しみを描く(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

11年、16年の再演の際に映画化の話が浮上した。同じく在日コリアンの家族を描いた崔洋一監督「血と骨」(04年)などの映画脚本の経験はあったが、監督は初めて。「3次元の舞台を2次元の画面に収めるにはどうすればいいか戸惑いもあったが、周囲の助言を受け撮影を進めることができた」と振り返る。

自らを「記録者」と呼ぶ鄭は「焼肉ドラゴン」を含む「在日3部作」など、歴史に埋もれる在日の実相を多くの戯曲に書き残してきた。映画化の意義について「演劇は見る人が限られるが、映画化でより多くの人にその記録を見てもらえるようになる」と話す。

鄭は姫路城の堀の石垣に造られた在日集落で生まれ育った。父親は戦時中、日本軍の憲兵だった。そのことから戦後、村八分同然になったという。朝鮮半島に帰ることが難しくなり、くず鉄屋を営んでいた。

焼肉ドラゴンでも父母が半島に帰ろうとするが、済州島で「4.3事件」が勃発し、帰還を果たせなかったと語られる。1948年に発生し、数万人の市民が犠牲になったとされ、韓国で近年までタブー視されてきた大虐殺事件だ。日韓双方の暗部を描いた作品から、鄭自らの家族への思いがにじむ。

■差別の痛み表現

映画化にあたっては舞台の筋を踏襲したが、追加したシーンも多い。例えば、長男が通う私立中学校で、日本人の生徒たちから苛烈ないじめを受ける場面。鄭自身は大きな差別を受けた記憶はないが、周囲にはいじめや差別を受ける者も少なくなかったという。「映画だと焼肉店の外の世界も描くことができる。在日の『痛み』も表現したかった」と意図を語る。

試写会で舞台あいさつする鄭監督(右端)と、三姉妹を演じた女優陣(大阪市)

試写会で舞台あいさつする鄭監督(右端)と、三姉妹を演じた女優陣(大阪市)

こうした悲劇の歴史や差別を背景としながらも、作品は笑いをちりばめ、明るいタッチで描かれるのも舞台と同様だ。「人生は悲劇と喜劇が2本のレールのように進んでいくもの。この家族が明日を信じて生きていくんだと思ってもらった方が皆、明るい気持ちで劇場を出られる」と笑顔を見せる。前向きな姿勢は映画の冒頭とラストで語られる父の言葉に集約される。「たとえ昨日はどんなでも、明日はきっとえぇ日になる」

在日の歴史は差別と切り離せない。鄭は差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)の広がりを憂慮する。「韓流ブームの後に反韓、嫌韓が揺り返しのように起きている。ヘイトを口にする人は簡単に『韓国に帰れ』と言うが、在日は理由があってここにいる。そのことを映画を通じて知ってもらいたい」と強調する。映画は韓国をはじめアジア諸国での公開も予定する。今後の監督業については「機会をもらえればぜひ」と次を見据える。

(大阪・文化担当 西原幹喜)

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