2018年6月19日(火)

米朝合意に潜むワナ 透ける北朝鮮ペース

米朝首脳会談
朝鮮半島
2018/6/13 19:47
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 【シンガポール=恩地洋介、鈴木壮太郎】12日の米朝首脳会談での合意には、核・ミサイルの脅威を取り除くプロセスが「北朝鮮ペース」にはまりかねない3つのわながある。米朝の認識のズレが早くもあらわになっている。ポンペオ米国務長官が来週に予定する北朝鮮高官との協議では、あいまいな合意を速やかに実行に移す具体措置を詰められるかが問われる。

平壌の地下鉄駅構内に掲示された米朝首脳会談を報じる朝鮮労働党機関紙の労働新聞を見る市民ら(13日)=共同

平壌の地下鉄駅構内に掲示された米朝首脳会談を報じる朝鮮労働党機関紙の労働新聞を見る市民ら(13日)=共同

 12日の非核化の合意は、過去と比べても後退色が濃い。2005年の6カ国協議の共同声明は「すべての核兵器と既存の核計画の放棄」を明記した。今回は「朝鮮半島の完全な非核化」をうたった4月の板門店宣言の再確認だけにとどまった。

 米朝首脳会談の焦点は、米国が要求してきた「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)の早期実現を北朝鮮にのませられるかだった。

 だが「検証」や「不可逆的」への言及どころか、トランプ米大統領は記者会見で「完全な非核化には時間がかかる」と発言した。13日に帰国したトランプ氏は機中で「もはや北朝鮮の核の脅威はなくなった。今夜からよく眠れるぞ!」などとツイッターに投稿した。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は13日、異例の早さで前日の会談内容を報じた。「両首脳が朝鮮半島非核化のプロセスで段階別、『行動対行動』の原則順守が重要との認識を共にした」と伝え、トランプ氏から言質をとったと強調した。「段階別」とは、北朝鮮がカードを切るごとに、米国が経済制裁の緩和などの「対価」を払うことを意味し、時間稼ぎの余地も与える。

 共同声明は北朝鮮が昨年まで発射を繰り返した弾道ミサイルの問題には触れなかった。トランプ氏は12日の会見で、金正恩(キム・ジョンウン)委員長がミサイルエンジンの試験場を破壊する意向を明らかにしたと述べた。だが、すでに北朝鮮は1000基ともいわれるミサイルを保有。日本を射程に収める中距離の「ノドン」や「ムスダン」は実践配備済みだ。

 試験場破壊は、完成が近いとされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発凍結を意味していると受け止められている。日本は米国と折に触れて、大量破壊兵器とあらゆる弾道ミサイル計画の放棄を北朝鮮に迫ると確認してきた。トランプ氏が試験場破壊に満足し、中短距離ミサイルを素通りするとなれば日米韓の結束は揺らぐ。

 朝鮮中央通信は金委員長が平和構築を巡り「敵視しないことを約束し、それを保証する法的・制度的措置をとるべきだ」と主張したと報じた。共同声明にはないが、北朝鮮は朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換する協議入りを念頭に置いているとみられる。

 同通信によれば、金委員長はトランプ氏に「軍事行動の中止」を迫ったという。トランプ氏は会見で、対話中の米韓合同軍事演習の中止に言及した。段階的に米国の譲歩を求めていく展開の行き着く先は、朝鮮半島における米軍のプレゼンスを落とすことにほかならず、東アジアのパワーバランスに大きく影響する。

 米韓は早速、8月に迫る定例の合同指揮所演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」への対応を試される。13日付の韓国保守系の大手紙、朝鮮日報は米朝合意を「とんでもない荒唐無稽」と酷評した。

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