2018年8月20日(月)

稲作体験 次の世代へ種まき 林農産社長 林浩陽さん(語る ひと・まち・産業)
食と命 ユーモア交え学び

コラム(地域)
北陸
2018/6/13 12:00
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 ■石川県野々市市にある農業法人林農産の林浩陽社長(58)は幼稚園や小学校を対象に、稲作体験による学習や食育授業に取り組んでいる。食と命の大切さを伝え続けて20年以上。常に先の世代のことを考えて行動しなければならないとの思いを抱き続けている。

はやし・こうよう 1960年石川県野々市市生まれ。88年林農産を設立、92年農林水産祭天皇杯受賞。米や餅、大豆や茶などの生産・販売を手掛ける。子どもだけでなく保護者など大人への食育にも取り組む。石川県農業法人協会副会長。

はやし・こうよう 1960年石川県野々市市生まれ。88年林農産を設立、92年農林水産祭天皇杯受賞。米や餅、大豆や茶などの生産・販売を手掛ける。子どもだけでなく保護者など大人への食育にも取り組む。石川県農業法人協会副会長。

 「水田のオアシスを200年先にも残したいと考えている。食と命の大切さについて子どもたちに伝えることも重要だ。だが、難しいことを難しい顔でやっていても伝わらない。ユーモアを忘れず『23世紀型お笑い系百姓』を目指している」

 「20年以上、石川県内の5つの幼稚園と1つの小学校で稲作体験学習と食育を手掛けてきた。体験の後ろに学習とつけているのは、体験しながら学ぶことが重要だからだ。田植えでは『1本目は鳥さんの分、2本目は虫さんの分、3本目はみんなの分』という具合に『いのちのじゅもん』を唱えながら苗を植える。稲作体験学習を通して環境問題にも意識を向けてもらう」

 「食育授業では本物の野菜と、おもちゃの野菜の違いを挙げてもらい、命や心について考えるきっかけにしたいと考えている。食育授業は県外の学校などにも出向いて実施することもある。年間30回程度の授業を行っている」

 ■稲作体験と食育を始めたのは、子どもに食と命の大切さを伝えるため。きっかけは趣味のバイクの事故による大けがだった。

幼稚園や小学校で稲作体験学習に取り組む

幼稚園や小学校で稲作体験学習に取り組む

 「1988年の4月に林農産を設立した。92年に農林水産祭天皇杯を受賞した。当時は珍しかった農業の法人を設立したり、農業経営にパソコンや線形計画法を活用したりした先進的な取り組みが評価された。家族や社員らを呼んで宴会をした時に、酔いに任せてもらった天皇杯をかぶるなど、大騒ぎしてはめを外しすぎた」

 「バチが当たったのだと思う。天皇杯をもらった後、私は趣味のバイクレースで大事故。あばらを5本折り、3週間集中治療室にいた。ベッドに寝ながら、いろいろ考えていると神様に『食と命の大切さを伝えなさい』と言われた気がした。なぜそんな気になったのかは分からないが、すっきりした。その時に自分の生き方が固まったのだと思う」

 ■普段の業務に加えて、休日にも食育や稲作体験がありカレンダーはほぼ真っ黒。他の企業の協力を募ろうと、自身が副会長を務める石川県農業法人協会に15年度から食育と地域貢献に関する部会を設立した。

 「石川県内の私立幼稚園にアンケートを取ったら、15園が食育を希望した。ただ、協会の会員企業が全て食育や稲作体験のノウハウを持っているわけではない。交流会を開催してノウハウを共有することが大切だ」

 「石川県の農業生産額は下から数えた方が早い。だが、近年では独自の個性的な経営が増えていると感じる。自らも経営の腕を磨いて来たつもりだ。今やトヨタコマツといった企業の手法も取り入れる若手農業者もいる。県外に出ると『金沢』や『能登』の知名度は高いが『石川県』と言われると印象は薄い。石川県を食育先進県にしたいともくろんでいる」

高まる食育への関心

 《一言メモ》日本では2005年に食育基本法が制定されてから、徐々に食育への関心が高まってきた。国の動きに呼応するように、石川県でも食育を推進。県民の意識は高まってきている。

 07年にいしかわ食育推進計画が策定された。県が実施した調査によると食育に関心を持っている県民の割合は15年度が81%と5年で6ポイント上昇した。これを90%に引き上げる目標を掲げる。昨年度には21年度までの第3次計画が始まった。

 食育への関心の高まりとは裏腹に、農業を取り巻く環境は厳しさを増している。農林水産省によると15年の耕作放棄地の面積は、42万ヘクタールと10年で1割増加した。水田は生物多様性を維持するほか、貯水機能は洪水の防止にもつながる。国内の農業基盤の強化と食育の関わりも今後重要になりそうだ。

(金沢支局 毛芝雄己)

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