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大谷翔平の異次元投球に潜む異次元リスク

編集委員 篠山正幸

先発として160キロ前後の球を投げ続けるという営みが、どれだけ肉体に負担を強いるのか。大谷翔平(エンゼルス、23)の故障は、異次元の投球に伴うリスクの大きさをうかがわせる。

8日(日本時間9日)、大谷は右肘の内側側副靱帯損傷で、10日間の故障者リストに入った。

打者としての復帰に大きな支障はないと思われるが、投手としては10日間の欠場で済むものではなく、3週間は投げずに回復に努めるという。

投手としては9試合に先発し、4勝1敗、49回1/3で自責点17、防御率3.10。打者としては34試合に出場し、114打数33安打、打率2割8分9厘、6本塁打、20打点というところでの離脱となった。順風満帆に見えたメジャー1年目、思わぬ試練に見舞われることになった。

肘の靱帯損傷はダルビッシュ有(カブス)や田中将大(ヤンキース)も悩まされたもので、投手の職業病といっていいものだろう。現在では症状に応じた治療法が確立されており、そう悲観することはないのかもしれない。

中指のマメの問題も気がかり

ちょっと気がかりなのは直近の登板となった6日のロイヤルズ戦で訴えた中指のマメの問題だ。日本ハム時代から悩まされていた症状で、体全体にためこんだ力を球に伝えるラストのポイントであるだけに、やっかいかもしれない。大谷のマメは血豆のタイプではなく、乾燥気味の指先の皮膚がかさかさになってはがれる症状だといわれる。

160キロの球を制御しながら、投げ続けることがいかに大変なことか。そう考えていて思い出したのが、以前聞いた、打撃マシン製作の巨匠の話だった。

千葉県栄町で吉田加工所を営む吉田義さん。アーム式の打撃マシンの製造では日本の第一人者といわれ、製品は日本のプロ、アマほか、メジャーの球団にも愛用されている。

吉田さんはかつてNHKの番組で超高速の世界をマシンを使ってスタジオで再現するという企画に関わったことがある。メジャーの速球王だったランディ・ジョンソンの来日に合わせたものだったという。

吉田さんは早速160キロ超えのマシンの製作にとりかかったが、困難を極めた。

単純にバネの強度を高めるなら簡単だが、そうではない。幾何級数的に難度が上がっていくのだ。

吉田さんによれば、140キロから150キロに上げる場合でも、相当機構が違ってくる。ましてや150キロから160キロに上げようと思えば、もう世界が違ってくるのだとか。

スプリングの強さだけでなく、全体のフレームも強くしなくてはならない。150キロ仕様のままだと、すぐ壊れてしまう。細かい部品の調整も必要となり、また、駆動するための電力も違ってくる。

140キロから160キロまでなら100ボルトで0.55キロワット時の電力で足りるが、160キロを超えるとなると、0.75キロワット時が必要と吉田さんは話していた。

バネ=筋肉、フレーム=骨格あるいは下半身を含む土台、電力=パワー、というように人間の肉体に置き換えてみると、大谷が何気なくやってみせていたことは、やはりとんでもないことだったのだ、と想像できてくる。もちろん、マシンの世界をそのまま人体に置き換えることはできないが、速い球を投げるための基本構造の模式図としては、さほど的外れでもあるまい。

この球を制御するとなると、さらにリリースポイントなどの調整も必要になる。

肘や指先への破壊的な負荷

こうしたことを踏まえて、大谷の投球を考えると、肘や指先にかかる破壊的な負荷を、ぎりぎりのところで耐えながら投げてきた、という姿が浮かびあがる。

おそらく我々が思う以上に、微妙で繊細なバランスの上に成り立っている大谷の投球。

先発としての平均球速ではメジャーでも群を抜く。その挑戦は大げさにいえば人類初の挑戦だ。離脱は残念だが、大谷が負うリスクもまた桁違いなのだ、ということを、見る側はわきまえなくてはならないのだろう。

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