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20年は3月解禁? 誰も得しない「前倒しドミノ」裏事情

お悩み解決!就活探偵団2019

2019年卒の大学4年生から、20年卒の大学3年生へ。就活の主役が早くも交代しつつある。学生を確保したい企業の思惑が、スケジュールの前倒しに拍車をかける。ただ「前倒しドミノ」は学生も企業も疲弊するだけで、誰も得しないのではないか。それでも前倒しになる理由を探ると、裏事情も見えてきた。20年開催の東京五輪・パラリンピックと21年卒問題だ。

イラスト=強矢さつき

6月1日は何の日?。そう、経団連加盟企業の採用選考の解禁日だ。実際には採用選考の多くはもっと前から始まっており、就活ルールが形骸化していることは言うまでもないだろう。

最近では情報サイトや大学キャリアセンターなどの就活業界にとって、6月1日は「大学3年生の就活が事実上スタートする日」と認識されている。なぜならこの日、大学3年生を対象とする夏のインターンシップの参加を募る大手サイトが一斉にオープン。インターンの合同説明会も都内で始まるためだ。

中央大法学部3年生の男子学生はスケジュールを眺めて思案顔だ。この夏休みは10社のインターンに応募する予定。ただ夏休みはゼミの調査やサークルの旅行で1カ月間ほど海外に出なければならない。実際にインターンに参加できるのは、最大でも3社程度だ。何といってもまだ3年生。「学業やサークルの時間を犠牲にしてまで就活に費やすのは抵抗がある」というが、インターンに参加しない選択肢はない。「家庭教師のアルバイトも休まないといけない」などと考えている。

就活探偵団2019

就活探偵団は就活生の悩みを探偵(日経記者)が突撃取材で解決する連載企画。新就活生に必要な心構えや、就活準備に役立つ情報を掲載します。

大学側も前倒しに動いている。中央大では大学3年生の3月に開催していた学内の合同企業説明会を20年卒では取りやめる。代わりに3年生の11~12月から「業界セミナー」の名で説明会を実施する考えだ。3カ月以上早めるだけでなく、参加対象を1、2年生にも広げる。「学生の意思決定が早期化していることに対応する」(キャリアセンターの池田浩二課長)という。

ただし学生の意識にはばらつきもある。都内で今月2~3日に開催されたインターンシップの説明会。探偵が感じたのは、微妙な空気だった。

参加したのは学生が昨年比15%増の延べ2万6500人。企業が約460社。各ブースでは採用担当者が熱心に説明する姿が見られた。ただ大学4年生向けの合同説明会と比べると緊張感は薄い。会場には私服姿の学生も多かった。

形骸化の裏で佳境に

「就活をどこからどう始めたらいいのか、まだ分かりません」。会場にいた拓殖大3年の男子学生はこう打ち明けた。今月1日のサイト開設と同時に説明会に登録し、とりあえず足を運んでみたのだという。志望業界は「広告代理店と決めている」というが、具体的なプランはまだ白紙だ。

「この春に進学したばかりなのですが」と話すのは、大学院1年の理系男子学生。大学院に進学したかと思えば、もはや就活に動かねばならない。そんな状況を受け入れ難い様子だった。「研究には時間が必要。なるべく短期間で就活を終えたい」と話していた。

インターンシップ説明会での企業と学生のやり取りは、あくまで「インターンシップに限定する」という建前がある。しかし現実には、企業側は福利厚生などの待遇をアピールして学生の興味をひき、学生側も選考スケジュールについてあれこれ質問していた。

ルールが形骸化したとはいえ、19年卒の就活生の多くは選考が佳境だ。その裏で20年卒の就活が始まり、学生がいや応なく巻き込まれている。この状況を企業はどう受け止めているのか。

「19年卒と20年卒。2つの学年の相手を並行してやらなければならない。正直かなり厳しいです」。大手住宅メーカーの採用担当者はこうこぼす。同社は経団連加盟企業でありながら、6月を待たずして学生に内定を出した。6月は内定を出した学生をつなぎとめ、確実に入社させる取り組みに力を入れる時期だという。

タクシー大手の国際自動車(東京・港)も6月に入って、内定者向けの交流会や社内見学会などのイベントを連日のように開いている。一方で20年卒向けのインターンも呼びかけなくてはならない。「新卒採用に力を入れるようになって採用担当を6倍の30人に増やしたが、それでも忙しい」(川田政執行役員)。

変化の年にらむ?

ネットの掲示板などで使われる「誰得」という言い回しがある。「誰が得をするのか」という状況を皮肉る俗語だ。採用スケジュール前倒しは、学生も企業も疲弊するだけで、まさに誰得ではないか――。探偵はそんな疑問を抱いていたが、調査を進めるうちに別の側面も見えてきた。

 NTTデータは「適切なタイミングで就業体験を提供することが大切。企業としてのプレゼンス向上にもつなげていく」として、20年卒向けでは説明会への参加時期を19年卒向けより早めた。

20年卒向けのインターンシップ説明会。すでに就活の号砲は鳴っている

インターンシップ説明会を主催する楽天の福地茂樹シニアマネージャーは「企業はすでに21年卒をにらんでいるのかもしれない」と見ている。

21年卒、すなわち現在の大学2年生の就活は「変化の年」になる。経団連が就活ルールを見直す方向で検討に入るためだ。選考解禁を6月から3月に前倒しすることなどを議論するという。

しかも21年卒が就活で実際に動く20年は、東京五輪・パラリンピックが7~8月に開かれる。首都圏では、就活の説明会に使われる東京ビッグサイト(東京・江東)が五輪のメディアセンターとなるため改修工事などで一時閉鎖される。幕張メッセ(千葉市)も競技会場となる。「大手の説明会の回数が減るかもしれない。宿泊施設も利用しにくくなり、地方学生にも影響が出るのではないか」(リクルートキャリア就職みらい研究所の増本全・主任研究員)。これらの事情から21年卒の就活は輪をかけて早まるかもしれない。

20年卒の就活は、来るべき激変の翌年を見据え、「試行の年と捉え、早めに動く企業が増えるかもしれない」(福地シニアマネジャー)というのだ。

就活リベンジ

さて探偵は、取材を通じて知り合った、ある学生の就活に注目した。

19年卒の明治大4年生の男子学生(21)だ。大手電気機器メーカーの内定を獲得していたが、このほど辞退した。現在は20年卒向けのインターンに5社ほど応募している。今秋から一時的に休学し、来年に20年卒としてもう一回就活することを決断したのだ。

就活を始めたのは3年生の6月。「先輩のアドバイスをうのみにして手当たり次第に夏インターンに応募した」という。大手企業を中心に4社ほど参加。結果的に売り手市場の恩恵もあって2社から内定を獲得したが、本当にやりたい仕事ではなかったことに、後から気付いたのだという。「人生は一度きり。もう一度自分を見つめ直す」。そう話し、来年の「リベンジ」に向けて決意を新たにしている。

学習院大学キャリアセンターの淡野健担当事務長は「大学3年生の夏休みは貴重な時間だ。短期留学もできる。どう使うか、学生は自らよく考えてほしい」とくぎを刺す。

インターンとはそもそも就業体験の場だ。学生にとっては仕事の現場を知り、自分自身の就労観について考えを深められる貴重の機会でもある。インターンを自分の成長につなげられるならば、それは価値のある体験となるだろう。

しかし、インターンを単なる就活の一コマと捉え、深く考えずに流れにのってしまっては、あまりにももったいないし、後から悔やむことにもなりかねない。「前倒しドミノ」が続く最近の状況は、学生にとっても企業にとっても、そんな危険をはらんでいるのではないか。

(小柳優太、鈴木洋介、潟山美穂)

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