乗客満足へのスジ書き JR西のダイヤ作成(もっと関西)
ここに技あり

2018/6/11 11:30
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蛇腹状に折り畳まれた横長の紙を広げると、そこには複雑な電子回路図のようなおびただしい数の線がびっしりと書き込まれていた。目を凝らして見ると、1本1本は人の手で引かれた線だ。

定規とペンを使って線を引き、ダイヤグラムを作成する

定規とペンを使って線を引き、ダイヤグラムを作成する

鉄道時刻表の基となる列車運行図表(ダイヤグラム)。このダイヤを作るのが、鉄道会社の専門の技術社員だ。ダイヤ上の斜線を「スジ」と呼ぶため、通称「スジ屋」と呼ばれる。「ダイヤは門外不出。一般の人は見たことがないでしょう」。JR西日本近畿統括本部輸送課のスジ屋、杉森公祐さん(36)は言う。

方眼紙のような台紙に精密にスジが引かれたダイヤは、列車の正確な位置を示す。駅名が書かれた縦軸は距離、横軸は時間で、右下がりに伸びる線は下り列車、右上がりに伸びる線は上り列車を表す。線の傾きが急なほど運転速度が速いことを意味する。

JR西のダイヤは、横軸の1目盛りが2ミリで2分の時間を表す「2分目ダイヤ」。一般の時刻表の出発・到着時刻は分刻みだが、ダイヤは「○」や「-」印を組み合わせた「ツメ」という秒記号も用いて5秒刻みで作成する。

スジ屋に求められるのは情報収集・分析力と運転に関する知識、そして根気。日々の混雑・遅延情報や利用客の声から改善点を抽出し、より良いダイヤを目指す。

乗客数は日々違い、近隣にマンションが建てば利用者数も変わる。だから深夜早朝でも現場に足を運び、混雑状況を自身の目で確認。新駅開業や新線開通、沿線の開発や観光名所も考慮する。スジ屋の仕事の大半はこうした情報収集・分析に費やされる。「利用客すべてが満足するダイヤを作るのは困難。でも最適解となるまで何度でもスジを引き直す」と杉森さんは言う。

スジ屋になるには駅員、車掌、運転士、指令所などの業務経験が必要。スジ屋になっても最初は工事や試運転などの臨時列車を担当する。入社15年目、スジ屋歴6年目の杉森さんもそうだった。現在はJR京都線・琵琶湖線の大阪―米原間を担当。同社エリアで乗客数1、2位の大阪駅と京都駅を結ぶ大動脈だ。

同本部では関西圏23線区のダイヤを11人、その他臨時列車を10人のスジ屋が担う。運行本数は東京圏のほうが多いが、様々な路線が乗り入れ特急、新快速、快速、普通、貨物など多くの種類の列車が同じ路線を走るJR京都線のダイヤは全国随一の複雑さだ。

新線の開通や沿線の再開発、インバウンド(訪日外国人)増加による乗客数の変化……。ダイヤは時代や地域の変化に対応してきた。そして今後も続く。スジ屋の仕事に終点はない。

文 大阪社会部 松本勇慈

写真 山本博文

カメラマンひとこと 実際の作業室に部外者は入れないとのことで、オフィスの一角で技を見せてもらった。時間帯による混雑などを計算し、定規とペンで線を引く地道な作業だ。上りと下りの線が入り乱れた大阪―京都間を見ると気が遠くなる。構図を探るべく運行図表としばらく向き合っていると目がチカチカしてきた。技術者に聞くと「慣れです」とあっさり。
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