料理人が出張、作り置き 悩むママの食卓を救う
管理栄養士などが家庭に出張し、数日分の料理を作り置きするサービスが登場した。共働きや子育て中の家庭にとって、毎日の食事づくりは悩みの種。シェアダイン(東京・渋谷)は料理家が3時間で約10品の料理を作る。必要に応じて買い物も代行し、子どもの偏食など悩み相談にも乗る。立ち上げたのは子育て中の現役のママたちだ。
料理つくる+アドバイス

「産後間もない時期に本当に助かった」。東京都内在住で2歳と0歳の子を持つ権寛子さん(35)は第2子出産後にシェアダインを利用した。体の回復のために食には気を使いたいが、新生児の世話に追われ、料理に手をかけるのが難しい。権さんは産後ママ向けの料理を作ってもらった。利用者に寄り添ったメニューを提案して作るのがシェアダインの特徴だ。
登録する料理家の9割以上は管理栄養士や調理師などの資格を持つ食のプロ。子どもの年齢や家族構成を事前に聞き、離乳食や幼児食などニーズに合わせた料理を作る。食材は各家庭で用意するか買い物代行を頼むかを選べる。買い物代行は無料だが、その分料理の時間は減る。
料理家の得意分野に応じて「初めての離乳食」「産後・授乳中」などのタグを付け、タグ検索でニーズに合った料理家を選びやすくした。利用料金は料理家が設定し、交通費込み、基本3時間で5000~1万2000円(食材費別)程度。旬の食材を使った料理も提案し、食卓を豊かにする手助けをする。
記者も利用してみた。食べ方にもよるが、目安として4人家族の3日分の夕食がまかなえる。料理家は「きょうはこれ、明日はこれをメインにするといいでしょう」と、食べる順番や日持ちの目安も丁寧に説明。冷凍しておけば後は焼けばよいだけの状態の魚の味噌漬けなど、さらに日持ちする料理も要望に応じて用意してもらえた。
利用者はサービスの利用前後に料理家とチャット形式でやりとりする。事前に料理内容の要望を伝え、気に入った料理のレシピを教えてもらうことができる。
この事業を興したのはボストン・コンサルティング・グループ元社員の女性たちだ。年は異なるが子どもを持つ共通点から一緒に昼食に行くことも多かった同僚。起業を提案したのは飯田陽狩・最高経営責任者(CEO、35)だった。
飯田氏が産後5カ月で職場に復帰したものの体調を崩して家事代行を頼んだ際、たまたま産後ケアに詳しい人に出会う。「産後ママにいいんですよ」と、その人が「ニンジンのラペ」を作ってくれた。簡単な料理だが自分では思いつかなかった。何よりも知識を生かして今の自分に適した料理を作ってくれたことがうれしかった。
そのときの経験が、単に料理するだけでなく相談やアドバイスを組み込んだ現在のサービスにつながっている。もともと起業志向はなかったが、助けられた経験を「偶然ではなく必然にして届けたい」との思いが募る。
女性同士、助け合って起業
その後も子どもの離乳が思うように進まず、つらい時期が続く。料理の専門家の手を借りて「自分たちの向き合ってきたペイン(痛み)を解決したい」とシェアダインのサービスを考え、同僚の井出有希・共同創業者(40)と、現在は会社を離れたもう1人のメンバーを誘った。

誘われた井出氏も食事作りに課題を感じていた。仕事を終えて子どもを迎えに行き、家に帰って短時間で夕食を作る毎日。「レパートリーが少なく食卓が貧しいと感じていた」。サービス内容に共感し、参加を決めた。
飯田氏は2017年春に会社を辞めてシェアダインを設立。残りの2人も夏には合流した。誰かの子どもが病気になった時もカバーし合う体制を敷き、実際に飯田氏の子がインフルエンザにかかったときはほかのメンバーが業務を代行して乗り切った。
17年に東京都と森永製菓の2つのアクセラレータープログラムに採択された。大企業のメンターからの厳しい指摘に応えながらビジネスモデルを磨き、11月から開発に着手。試験的な運用を経て、今年5月に正式にサービスを開始した。森永製菓とは今月、森永のホットケーキミックスを使った料理を提案するキャンペーンを実施。事業連携も始まっている。
シェアダインがサービスを通じて提供したいと考えているもう一つの価値が「食の継承」だ。親の世代は専業主婦が多く、家庭の台所で自然と料理の作り方や食材の知識が伝えられてきた。しかし「現代は食の継承の機会がなくなっている」(飯田氏)。
作り置きで働く女性の負担を軽減するとともに、プロの手を借りて家庭料理を次の世代にも伝えたい。そんな思いで考えた事業が助走期間を終えて本格的に走り出した。
(佐藤史佳)
[日経産業新聞 2018年6月8日付]
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