入浴+食事の工夫 夫のミドル臭対策は家庭でできる

忙しく働いているパパなのに、妻や娘から「パパ、臭い」と言われたことはありませんか? あるいは、いつか言われるかも、とビクビクしていませんか? 実際に困っているというママもいることでしょう。30~40代から出やすくなるミドル脂臭(別名つわり臭)は、女性に強烈な不快感を与えるといわれています。なぜそういう臭いが起きるのか、体臭が発生するメカニズム、そして対策について、体臭研究における第一人者として治療と研究を続ける、五味クリニック院長の五味常明医師にお話を伺いました。
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無人島で一人だったら体臭で悩むことはない
自分の体臭で周囲の人を不快にしているのではないか、という悩みは人間関係の中でしか出てこないものです。
自分の体臭が臭くて、いつも鼻をつまんでいる。そんな人は見たことがないはず。自分の体臭はむしろ、自分にとっては「いいにおい」だと感じるのです。もし、一人で無人島にいたならば、体臭について悩むことはありません。相手がいるからこそ「自分は臭いのではないか」と悩むのです。
これは外見的なことでも同じです。髪が薄いとか、鼻が低いとか、目が細いとか。これらは相手がいないと悩まないですよね。ただ、こうした視覚的なものは、極端に言えば「嫌なら見るな」と言うことができます。でも体臭の場合は、「嫌なら息をするな」とは言えない。
体臭で悩む人の大半は、「周囲へのスメルハラスメントになっているのではないか?」という不安からその場に居られなくなり、自分の存在そのものが否定されていると感じます。そうして徐々に消極的になり、他人を避けるようになり、電車に乗れなくなり、会社へも行けなくなってしまうのです。
ビジネスパーソンにとっても、積極性がなくなり人間関係がつくれなくなるというのは致命的ですよね。
多くの男性は臭っていないのに悩んでいる
体臭の問題点は、大きく二つに分けることができます。
一つは「臭いを出して周囲の人に迷惑をかけている」という、外に向けた問題。そしてもう一方が「自分の臭いで周りを不快にしているのではないか。それで嫌われているのではないか」と思い悩む、内面的な問題です。
前者は症状がはっきりしているので、治療や対策を行うことで解決できます。例えば、ワキガは手術で完全に治すことができます。
問題なのは後者です。自分の体臭を気にして私のクリニックへ来られる方の6~7割は、実は「臭わない人」なのです。
実際は臭わないのに、なぜ臭っていると思うのか? 近年、加齢臭やスメルハラスメントといった言葉が使われるようになり、体臭への意識が高まっています。そんな中、電車で隣の席の人がせき込んだり、席を移動したり、職場で人が離れたりしただけで、それが偶然にもかかわらず「自分が臭いからではないか」と思い込んでしまうことがあるのです。
デオドラント用品を買う人のほとんどは、実は臭っていない人だともいわれています。「体臭」は、心の病気の可能性もあるのです。
体臭チェッカーで臭いの成分をチェック
体臭の問題は、自分では自分の体臭が分からないということ。他人から「気にするな」と言われても、「慰められているのではないか」「臭っているのに、臭っていないと言っているのではないか」と不安になるのです。

ひどい臭いを放っている場合、家庭や職場で指摘されそうな気もしますが、実際、妻であってもはっきりと言ってくれる人は少数派だったり、職場でも人間関係を気にして言えなくて困っていたりします。
さらに言えば、臭いは慣れてきます。例えば電車に乗って、最初はムッとした臭いがしても、しばらく乗っているうちに臭いに慣れて感じなくなったりすることがあります。また、ペットを飼っている方は、ペットのおしっこの臭いを絶えず嗅いでいるので、ペットが放つ独特の臭いが分からなくなるということもあります。
嗅覚は曖昧な感覚なので、どこからどこまでが臭っているのかを、はっきりと区別できないのです。
そこで、自分の臭いを判断するには、体臭の専門医の診断を受けるか、もしくは体臭を測定する機器を使う方法があります。例えば、コニカミノルタの体臭チェッカー「Kunkun body(クンクン ボディ)」を使えば、汗臭、ミドル脂臭、加齢臭といった体臭を数値化してくれます。
体臭は、内臓疾患や生活習慣病が原因で臭うこともあるので、体臭測定器は、体重計ならぬ「体臭計」として日々の健康チェックにも活用できます。
ちなみに、ワキガは臭い以外でチェックすることが可能です。強いワキガ体質の場合、耳垢が必ず湿っているのです。もしあなたの耳垢がネバネバとしているのなら、ワキガを疑ってみてください。
ワキガは完全に治せる
さて、次は気のせいではなく、実際に臭っている方の体臭対策をご説明します。
まずは、体臭の種類を知っておきましょう。一口に体臭と言っても、臭う場所や原因は様々あり、それぞれ対策が異なるためです。
まず、体臭には、「汗腺」から出る臭いと、「皮脂腺」から出る臭いがあります。汗腺は体温調節をするために汗を出す部分で、皮脂腺は皮膚に潤いを与えるための皮脂を出す部分です。
そして、汗が原因の臭いには「ミドル脂臭」と「ワキガ」「疲労臭」などがあり、皮脂から放たれる臭いには「加齢臭」などがあります。
少し専門的な話になりますが、汗にはエクリン腺からの汗と、アポクリン腺からの汗があり、エクリン腺からの臭いが全身の汗の臭いで、こちらは「ミドル脂臭」の原因になります。そして、アポクリン腺からの臭いは、ほとんどが脇。これは「ワキガ」と呼ばれています。
この中で、確実に治せるのがワキガです。原因がはっきりしているので、手術でアポクリン腺を取り除けば臭いがなくなるのです。ちなみにアポクリン腺が多いか少ないかは、体質で決まっています。これは遺伝的な場合も多いです。
そして臭いを消すのが難しいのは、ミドル脂臭、疲労臭、加齢臭。これは複数の要因が合わさっているので対策が難しいのです。特に30~40代の働く男性が注意すべき体臭には「ミドル脂臭」と「疲労臭」があります。
・汗腺から出る体臭は「ミドル脂臭」「ワキガ」「疲労臭」
・皮脂腺から出る体臭は「加齢臭」
・パパが特に注意すべきなのは「ミドル脂臭」「疲労臭」
「ミドル脂臭」は女性に強烈な不快感与える
ミドル脂臭は、別名「つわり臭」と呼ばれ、女性に強烈な不快感を与えます。ミドル脂臭の原因物質は「ジアセチル」。2013年に化粧品メーカーのマンダムが発表し、知られるようになりました。汗に含まれる疲労物質「乳酸」が、皮膚のうえで分解されてジアセチルになります。もし、汗がサラサラのきれいな汗であれば臭いを放つことはないのですが、ベタベタとした汗の場合、皮膚にとどまり分解され、臭うようになるのです。
「それなら、汗をかかないようにすればいいのでは?」と考えてしまいがちですが、汗が出る汗腺は使わなければ衰えてしまいます。運動不足や、エアコン漬けで汗をかかない生活をしていると、サラサラの良い汗がかけなくなってしまうのです。また、ジアセチルのもととなる乳酸は疲れがたまっているときに出る物質。エアコンの効いたオフィスで、ずっとパソコンに向かっている働き詰めのビジネスパーソンは要注意というわけです。
対策は、スポーツなどで日頃からよく汗をかくようにすればいいのですが、子育て中はなかなか難しいですよね。その場合、しっかりとお風呂に入るのが効果的です。風呂で汗を流し、湯船につかれば乳酸も流れ出ていきます。そのとき、湯上がりにクエン酸を摂取すると汗腺機能も高まるので、より効果的です。クエン酸は、リンゴ酢や黒酢などのお酢や、みかんやグレープフルーツなどの柑橘類に含まれています。
・「ミドル脂臭」はベタベタ汗が原因
・運動や湯船につかることで汗腺機能を鍛え、サラサラの汗に
・汗腺機能を高めるクエン酸は、お酢や柑橘類で摂取
「疲労臭」は、しじみの味噌汁でやっつけろ
もう一方の疲労臭はアンモニアが原因です。疲れやストレスがたまったときにアンモニア臭を放ちます。いわば尿のような臭いです。
アンモニアが出やすくなる要因は、主に「腸内環境が悪い(動物性脂肪の摂り過ぎなど)」「筋肉が疲労している(営業の外回りなど)」「肝機能が落ちている(お酒の飲み過ぎなど)」の3つがあります。
対策としては、上記3項目の習慣を改善することに加え、アンモニアを肝臓で無毒化することで臭いを抑えることができます。そこで効果的なのが、しじみの味噌汁です。アンモニアは毒性が強いのですが、しじみに含まれるオルニチンが解毒を助けてくれるのです。
しじみの味噌汁を作るのが面倒であれば、インスタントのしじみの味噌汁や、オルニチンのサプリメントでも大丈夫です。この疲労臭と先述のミドル脂臭は、発生する場所は違っていても、どちらも「疲れ」が原因。併せて対策を取るようにしましょう。
・「疲労臭」は疲れが原因
・しじみの味噌汁(オルニチン)で、アンモニアを解毒しよう
ミョウバン、重曹で作れる消臭スプレー
体臭は、皮膚から服をフィルターにして他人に伝わります。
そこで、消臭効果がある服を着れば、臭いを軽減させることができます。今では、ユニクロなどでも消臭機能があるインナーシャツや靴下が販売されています。こうしたものを積極的に活用するといいでしょう。
ただ、いつも消臭機能がある服を着られるわけではなかったり、もっと服で臭いを防ぎたいと思ったりすることもあるでしょう。その場合、ミョウバンか重曹を水に溶いて、霧吹きにして洋服に直接スプレーすれば、あらゆる服に消臭効果を付加することができます。
ミョウバンと重曹は、臭いに応じて使い分けてください。ミョウバンは酸性なので、疲労臭の原因になるアルカリ性のアンモニアに効き、重曹はアルカリ性なので、ミドル脂臭の原因となる酸性の乳酸に効きます。
実は怖い加齢臭。30~40代で臭うと病気の恐れ
さて、最後はよく知られる「加齢臭」です。これは、化粧品メーカーの資生堂がにおいの原因物質「ノネナール」を発見したことがきっかけで認知されるようになりました。臭いは、ミドル脂臭のような強烈なものではなく、ロウソクや図書館(古い本)のような臭いで、実はそれほど不快なものではありません。年配者と一緒にいる際、ほのかに感じたことがある方は多いでしょう。
さて、ここが重要なポイント。注意すべきは、30~40代で加齢臭が出た場合です。
加齢臭はその名の通り、本来「加齢」により臭うようになります。皮脂腺の中に、パルミトレイン酸と過酸化脂質という物質が増え始め、それが皮脂を酸化させて加齢臭の原因物質ノネナールが作られるのです。
しかし、比較的若い30~40代で加齢臭が感じられる場合、体内で生活習慣病が進んでいる恐れがあります。脂質の酸化が血管の中でも起きていると考えられるからです。
この場合は、臭いそのものより病気の心配をすることが重要になります。血液中のコレステロールや中性脂肪などの脂質が高いと、それらが酸化され過酸化脂質を増加させます。この過酸化脂質は動脈硬化を引き起こし、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞などの生活習慣病を発病させるのです。
ちなみに加齢臭は、別名「メタボ臭」とも呼ばれています。そのため、30~40代の加齢臭対策はメタボ対策と全く同じ。暴飲暴食を防ぐ、運動不足にならないといったことが基本です。
食生活は、「動物性の脂肪を摂り過ぎない」「抗酸化作用のある食品を摂る」ように心掛けること。脂っこい肉を控え、野菜や果物を積極的に食べるといいでしょう。また、腸内環境を整えるため、毎日ヨーグルトを食べて善玉菌を増やすのも効果的。さらにオリゴ糖も併せて摂ると、腸内の善玉菌を育ててくれます。
【抗酸化作用のある食品】キャベツ、ゴマ、ショウガ、大豆(豆腐、納豆)、緑茶、など
【オリゴ糖を含む食品】ゴボウ、アスパラガス、タマネギ、ワカメ、ハチミツ、など
・「加齢臭」はそれほど不快な臭いではない
・若い年代の「加齢臭」には生活習慣病の疑いが
・抗酸化作用のある食品、オリゴ糖を含む食品を摂るなど食生活の改善を
―― 体臭は、健康状態と密接に関わっていることが分かりました。30~40代男性が陥りやすいのは、「食生活の乱れ」と「運動不足」。両者の解消には、臭い対策に加え、健康維持のためにも積極的に取り組んでいきたいですね。
体臭・多汗研究所所長、五味クリニック院長。1949年、長野県生まれ。一橋大学商学部、昭和大学医学部卒業。昭和大学形成外科等で形成外科学、および多摩病院精神科等で精神医学を専攻。患者の心のケアを基本にしながら外科的手法を組み合わせる「心療外科」を新しい医学分野として提唱。ワキガ・体臭・多汗治療の現場で実践。ワキガの治療法として、患者が手術結果を確認できる「直視下はく離法(五味法)」を確立。『なぜ一流の男は匂いまでマネジメントするのか?』(かんき出版)など著書多数。
(ライター 北野啓太郎、写真 川田雅宏)
[日経DUAL 2018年5月15日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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