2019年9月23日(月)

EU改革、南北格差解消探る 独首相案
仏大統領案からは後退

2018/6/5 19:00
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【ベルリン=石川潤】欧州連合(EU)改革で沈黙を守ってきたドイツのメルケル首相が独自案を示した。ユーロ圏経済の南北格差の解消を目指す数兆円規模の投資予算、危機に対応する欧州版国際通貨基金(IMF)の創設、国境警備の強化の3つが柱だ。背景には、欧州への不法移民の大量流入や、域内の経済格差拡大で台頭するポピュリズム(大衆迎合主義)勢力への危機感がある。

EU改革はフランスのマクロン大統領が強く求めてきたが、欧州のもう一つの有力国であるドイツを率いるメルケル氏は政権発足が遅れたこともあり、これまで考えを明確にしてこなかった。6月に入って独紙のインタビューに応じ、具体的な改革案を初めて示した。

柱のひとつが、ユーロ圏で技術革新などで遅れる国に対して投資を促すための数百億ユーロ(数兆円)規模の予算だ。対象国の研究開発などを支援することで経済格差の解消につなげる狙いだ。経済成長が進み豊かな欧州北部から、開発が遅れるイタリアやギリシャなどの欧州南部に資金が流れる仕組みになる。

メルケル氏は当初、小規模の予算でスタートし、効果を確認しながら段階的に増やしていきたい考えだ。ドイツなどの税金が無駄に使われないように、各国の議会が予算を監視する仕組みも検討しているもようだ。

一方、マクロン氏はユーロ圏の共通予算や共通財務相の創設を唱えていた。金融危機などへの対応も念頭に置いたこの共通予算案に比べ、メルケル氏の掲げる投資予算は用途が限られる。従来のEU予算の一部として扱われる可能性があり、規模も小さめだ。だが両氏の案は、成長の遅れる南欧への投資を促すという大きな流れで共通する。

さらにメルケル氏は金融危機への対応の軸として、欧州版IMFの創設を掲げた。ユーロ圏が危機に陥った時に長期資金を提供するのが役割で、構造改革を加速することが救済の条件となる。

資金が確実に返済されるように、欧州版IMFには加盟国の経済状況を評価し、債務の返済能力を見極める役割も担わせる。具体的な支援実行までの流れはなお明らかでない。しかし判断が慎重になりすぎたり、救済の条件が厳しくなりすぎたりすれば、危機対応が後手に回るリスクは残る。

ユーロ圏の国家間の経済格差を解消して危機時のセーフティーネット(安全網)を作るだけでなく、不法移民の流入抑制にも取り組む。ドイツやフランスでも移民の増加がポピュリズム政党の台頭につながっており、対策が必要だと判断した。

メルケル氏が描くのは、欧州で統一の難民保護の仕組みを作り、保護対象の難民として認定できるかどうかを国境で厳格に見極める仕組みだ。不法移民がいったん欧州に入ってしまえば、ほとんどチェックを受けることもなく、欧州内を自由に行き来できてしまう。不正移民やテロを阻止するための国境の共同警備はマクロン氏の考えともおおむね一致する。

ここでは難民として保護する基準を域内で擦り合わせるほか、国を越えた権限を持つ欧州国境警察の設置などが課題になる。難民らの受け入れを強制されるのではないかと警戒する東欧諸国などをどう説得していくかも考えなければならない。

ドイツとフランスは6月末のEU首脳会議までに改革の工程表をまとめる方針だ。

メルケル案が提示されたことで、今後は各国との調整が本格化する。ドイツ政府によると、メルケル氏は近く、イタリアのコンテ首相をベルリンに招待する予定だ。

メルケル案について、フランス側はマクロン氏の提案へ歩み寄りがみられるとして評価する立場だ。ただ、これはドイツ側の「最初の回答」(仏大統領府)とみており、投資や危機時の対応などについてより野心的な改革にできないか、ぎりぎりまで探る構えだ。

欧州北部ではオランダなどがメルケル氏に対して、マクロン氏に安易に歩み寄らないようにけん制している。ドイツ議会も議会の監視なしにお金が流れないようにメルケル氏に注文を付けていた。メルケル案はこうした統合慎重派に配慮したぎりぎりの案といえる。

投資や危機時の救済の条件をどのように設定するかで、新しい制度の機能は大きく変わりうる。制度の設計次第では「ドイツが牛耳るEUが各国に干渉している」との懸念を強め、逆にポピュリズム勢力を勢いづかせかねない危うさもある。

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