イタリア混迷、ECBにジレンマ 量的緩和終了に影響も

2018/6/3 18:06
保存
共有
印刷
その他

【ベルリン=石川潤】イタリア政局の混乱で、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が難しい決断を迫られている。イタリアの長期金利が急上昇するなど市場が揺れるなか、既定路線とされてきた年内の量的緩和政策の終了に逆風が吹き始めている。市場の安定を優先して緩和終了を先延ばしにすれば、無責任な政治を助長してしまうリスクもあり、ジレンマに陥っている。

イタリアではポピュリズム(大衆迎合主義)政党の「五つ星運動」と極右の同盟の連立政権が成立。欧州連合(EU)の事実上の信任投票になると懸念された再選挙が遠のき、一時3.4%近くまで上昇していたイタリア10年債利回りは2.6%台まで下がった。だが、政権を担う両党が失業者への最低所得保障や大型減税を掲げ、財政悪化リスクを高めている構図は変わらない。イタリア国内では緊縮財政を強いるEUへの反発は強く、火種はくすぶる。

こうしたなかで注目が集まるのがイタリア出身のドラギECB総裁の姿勢だ。ドラギ氏はマッタレッラ大統領とも緊密に連絡を取るイタリア政局の当事者の顔を持つ。

当面の焦点はECBの量的緩和政策の縮小だ。これまで市場では、6月14日の理事会で、9月末から段階的に縮小して年内に終了させることを決定するとの見方が強かった。ECBはユーロ圏景気に強気で、物価面でもデフレリスクは消えたとみている。大量の国債を買い続けるのが難しくなってきたこともあり、量的緩和打ち切りは時間の問題とみられていた。

だが、5月29日のイタリア国債の金利上昇以降、雰囲気は変わりつつある。「信用というかけがえのない資産を失う深刻なリスク」(イタリア中銀のビスコ総裁)が意識され、金利上昇(債券価格は下落)はイタリアからスペインやポルトガルに連鎖している。株式相場も不安定だ。

ECBが緩和終了を急げば、市場の動揺が収まりにくくなる恐れがある。最近の企業の景況感指数悪化や、米トランプ政権による鉄鋼・アルミニウム関税の引き上げなどの影響も懸念材料で、緩和縮小を急ぐ理由も揺らぎつつある。

難しいのは、緩和縮小を先送りすると、債券の大量購入によってイタリアのポピュリズム政権の財政拡張を事実上下支えしてしまうことだ。市場が荒れれば最後はECBが救ってくれるという誤ったメッセージが浸透すれば、財政規律がさらに緩むとドイツなどのタカ派(金融引き締め派)は危機感を強めている。

ドラギ総裁は欧州債務危機のさなかの2012年に「できることは何でもやる」と宣言し、国債を無制限に買い取る制度を導入。イタリアなどに広がっていた金利上昇の荒波を食い止めた。15年には量的緩和政策にも踏み切った。市場を安定させ、危機を回避するという意味で「ドラギ・マジック」が有効だった。だが、金融緩和の長期化が政治から緊張感を奪い、ポピュリズムが台頭する素地を作った面もある。

シンクタンクのブリューゲルによると、イタリア国債の中央銀行の保有比率は15年の5%台から17年末には約20%にまで上昇。逆に外国人の保有比率は約40%から30%台半ばに下がった。イタリアの金利が債務危機時の半分以下の水準にとどまっている一因だ。

ECBは6月の理事会で(1)年内での量的緩和政策の終了(2)量的緩和を当面継続(3)判断を7月の理事会に持ち越す――という3つの選択肢を軸に議論を進めるとみられる。景気や物価を冷静に分析し政策を判断するのが中央銀行の本分だが、今回はドラギ氏がポピュリズム政権とどう向き合うかという別の部分に注目が集まりそうだ。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]