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レアル欧州CL3連覇、王者ならではの試合運び

2017年シーズンのサッカー欧州チャンピオンズリーグ(CL)は、スペインのレアル・マドリードが決勝戦(5月26日、ウクライナ・キエフ)でリバプールを3-1で下し、幕を閉じた。レアルは大会3連覇。その偉業は豊富な経験に裏打ちされた王者らしい試合運びのうまさにあったように思う。

この大会が「チャンピオン・クラブズ・カップ」と呼ばれた時期に、レアル・マドリードが5連覇(55~59年)、オランダのアヤックス(70~72年)、西ドイツ(当時)のバイエルン・ミュンヘン(73~75年)が3連覇したことがある。この3チームはサッカー史に名を残す名手を擁したことでも知られるが、今回のレアルの偉業はそれに勝るとも劣らないだろう。参加チームの多さや水準の高さからして、現在の方がよほど勝つことは難しいと思うからだ。この大会が1992年シーズンに現行の形式に変わってから、レアル以外に2連覇すら達成したチームはない。

決勝戦まで来るとレアルの方が有利だなと試合前から思っていた。レアルにとっては準決勝で当たったバイエルン・ミュンヘンが3連覇の最大の障害で、私はここはバイエルン有利と見ていた。ホームの第1戦を1-2で落としたバイエルンはサンチャゴベルナベウに乗り込んで開始3分でキミッヒが先制するという素晴らしい立ち上がりをした。

その逆転ムードに水を差したのがGKウルライヒの後逸だった。バックパスの処理を誤ったところをベンゼマにつけこまれて失点、最終的に2-2の引き分けに終わった。レアルは初戦先勝のアドバンテージを守り切ったのだった。

どういう因果か、リバプールとの決勝でも相手GKのカリウスが投げたボールをFWベンゼマが足に当てて先制点が転がり込むという、このレベルの試合ではありえない敵失にレアルは恵まれた。GKを攻撃の組み立てに関わらせることが今は一般化しているが、こうもGK絡みのミスが続くと、来シーズンからはもっとリスク管理を優先した方法が模索される気もする。

いい時間帯に先制できなかったリバプール

それはさておき、カリウスのミスがなければ、リバプールに十分勝機はあった。勝負は本当に紙一重。立ち上がりから20分くらいまでのリバプールの攻撃は実に見事で、高い位置からボールを取りにいき、奪ったら素早く前へ、縦へというこのチームの特長をよく出していた。前に重心をかけることでフィルミーノ、サラー、マネという個性の異なる3トップを生かせていた。

このチームはDF陣が下がって構えると、前線の3トップと距離が開いてしまう。そうすると中盤にスペースが生まれて、モドリッチ、クロースという芸達者がいるレアルに主導権を握られることになる。だから、DFラインを果敢に押し上げてチーム全体で前へ、前へと圧力をかけた方が絶対にいいのだ。20分までのリバプールはそのスタイルを完璧に近い形で遂行していた。

惜しまれるのはそのいい時間帯に得点できなかったことだ。先制すると、そこからかさにかかってゴールラッシュに持ち込むのがリバプールの必勝パターン。その形に持ち込むのにゴールだけが足りなかった。

裏返すと、レアルはそこは重々承知だった。リバプールの高いテンションをのらりくらりとかわすことに前半は専念していた。じっくり辛抱して耐えていれば、やがて潮は引くのを経験的に熟知しているのだ。それから四つ相撲に持ち込めば、いかようにもごまかせると。

モドリッチの技術、百戦錬磨のセルヒオラモス

最初はリバプールのプレスに苦しんだが、時間とスペースをもらえるようになると、レアルも良さを発揮するようになった。こういうとき、モドリッチのように相手に囲まれても平気な選手がいると本当に心強い。相手を引きつけてはクロースらに短くつなぎ、もらったクロースは相手の防御の薄いところに長めのパスを出す。

リバプールにすれば、ボールサイドで強いプレスをかけて奪い取るはずが、うまくボールを逃がされ、さらに逆サイドに振られると、追いかけ回して走る距離だけが伸びていく。それは疲労の蓄積にもつながる。

リバプールのエース、サラー(右)の負傷退場で試合の流れは決まった=ロイター

試合が均衡し始めたところで、リバプールに衝撃の事件が起きた。エースのサラーの負傷退場。レアルのCBセルヒオラモスに腕を決められて転倒した際に肩を痛めた。今季公式戦で44得点と大暴れしてきた得点源の喪失。チームに動揺が走らない方がおかしい。クロップ監督はここでサラーの代わりにララーナを投入した。戦い方は継続したが、サラーを失った段階で中盤に人数を増やし、分厚く守ってロングカウンターに徹しても良かった気がする。

レアルは前半を0-0で終えて「OK」だったろう。一番警戒していたサラーはいなくなり、ベンチのサブ組を見ると自分たちの方がはるかに充実している。

CLのファイナルまでくると、試合の形勢がどちらか一方に傾きっぱなしなんてことはない。試合の入りのところでは主導権争いのバトルが演じられても、それが落ち着くと、小さな波が行きつ戻りつする感じになる。そこから勝機をつかむのは、セカンドボールをまめに拾い続けるとか、ほんの小さなことだったりする。向こうに傾きかけた流れを、たとえどんな形であれ、とにかく断ち切ってしまうとか。

そういう点で「この男は恐ろしい」と背筋が凍ったのがセルヒオラモスだった。サラーの腕を決めながら倒れたプレーはフェアプレーの面からは許されざる行為に私には思えたが、それ以外のところではルールの範囲内で相手の嫌がりそうなことを何でもやって、自チームに流れを呼び込んでいた。試合に勝つためのツボを熟知しているというか、監督にすればこういう選手がピッチにいるのは本当に頼りになると思う。

1点以上のダメージを与えたベールのゴール

いついかなるときも慌てない、百戦錬磨のセルヒオラモスに比べると、隣でプレーするフランス代表のバランがまだまだ「青く」見えるくらいだ。サラーがいなくなると、このCBは標的をマネに定めた。マネにCKからゴールを許したが、それ以外の場面ではほぼ抑え込んでみせた。大した接触でもないのに、派手に反則をされたように倒れて審判に笛を吹かせ、若いマネをかっかさせる心理戦を絡めながら。レアルの守りのまさに屋台骨といっていい。

51分のベンゼマの先制点、55分のマネの同点ゴールと続いた後、64分のベールのスーパーゴールで試合の行方は見えた。マルセロのクロスをオーバーヘッドでたたき込んだベール。あんなものを見せられたら、単なる1点以上のダメージを受けてしまう。

このスーパーゴールは過程においてもレアルらしさが詰まっていた。左サイドのクリスティアノ・ロナルドがボールを持ってドリブルで中に切れ込む。この形になると右足の強烈なシュートがあるから、守る側はどんどん中に引き寄せられる。コースがなくてシュートをあきらめたロナルドは味方にパス。それを左SBのマルセロに展開。中央に集められたリバプールのDF陣は内に向いた体と視線を外向きに変え、ポジションがばらけたところにクロスが飛んできた。

見逃せないのはロナルドのドリブル。これがただ単純に中、外、中とパスで揺さぶるだけでは守る側はこたえない。少しの体と視線の移動だけで対応できるからだ。しかし、ロナルドのようにシュート力のある選手のカットインとなると危険度の次元が違ってくる。独りでゴールを割る力があるから必死に絞らざるをえない。こういうドリブルの有無がコンマ何秒の差で得点の有無にも直結してくる。

今季のレアルは国内リーグでは3位に終わった。優勝したFCバルセロナとは勝ち点差を17もつけられた。あれだけの戦力を持っていても国内リーグとCLの二兎(と)を追うのは大変なのだ。そこに加えて今季のレアルに私は忍び寄る"勤続疲労"をずっと感じていた。

仮にCLの決勝が、準決勝までのように2本勝負だったらレアルが勝っていたかどうか。5月20日にリーガの最終節を終えて、26日のCL決勝に向けてしっかり調整できたこと、そして一発勝負だったことで、試合運びのうまさを生かして勝利を手繰り寄せられた。3連覇の偉業を達成しても、レアルというチームに転換期が来ているという私の認識に変わりはない。

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