欧州発、市場不安再び 「南欧売り」の様相に
政治混乱・景気減速・不良債権

2018/5/30 23:23
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【ベルリン=石川潤】欧州発の新たな市場の混乱が米国や日本にも広がってきた。ポピュリズム(大衆迎合主義)が席巻するイタリアだけでなく、スペインでも政治は不安定化している。イタリアでは不良債権問題もくすぶっているうえ、景気減速の懸念が域内では広がる。市場の動揺を受け、ユーロ圏で「遠心力」が再び強まりかねないとの見方さえ浮上しつつある。

「信用を失う数歩手前にある」。イタリア中央銀行のビスコ総裁が29日、警告を発すると金融市場では不安感が一段と強まった。

イタリアでは10年国債利回りが一時、2014年以来の3%台まで上昇(債券価格は下落)。スペインやポルトガルの国債も売られた。一方、経済的にしっかりしているドイツやフランスなどの金利は低下基調にあり、リスク回避に傾斜する投資マネーは「南欧売り」の構えを強めている。30日は利益確定を狙った反対売買が出ている。

イタリアの政治不安はユーロ危機の再燃につながりかねないと懸念されている。マッタレッラ大統領から首相候補に指名された国際通貨基金(IMF)元高官のコッタレッリ氏による組閣作業は難航している。議会はポピュリズム政党が多数派を占めており、再選挙の可能性がくすぶる。

エリート官僚が牛耳っているとして欧州連合(EU)への国民の反感は根強い。再選挙でもポピュリズム政党が議席を増やせば、EUに反旗を翻し、財政拡張に突き進む恐れがある。イタリアの政府債務はユーロ圏で最大で、ギリシャの7倍にのぼるだけに市場の不安は強い。

ハンガリーやポーランドなど東欧諸国でもポピュリズム政権は勢いを増す。スペインでは汚職問題を巡って最大野党がラホイ首相の不信任案を提出。総選挙の実施に伴う政治空白のリスクが意識されている。EUは6月の首脳会議で金融危機の再来を避けるためのユーロ圏改革を議論し、結束を確認する考えだったが、シナリオは狂いつつある。

欧州景気の減速懸念も混乱に拍車を掛ける。ユーロ圏の1~3月の域内総生産(GDP)は前期比0.4%成長で1年半ぶりの低い水準に沈んだ。輸出に陰りがみえ、企業の景況感も悪化している。貿易摩擦やイラン核合意からの離脱など「米国リスク」が浮上してきたところにイタリア発の市場の動揺が加わり、景気の先行きは一段と見通しづらくなってきた。

欧州株式市場でも総じて売りが優勢となり、銀行株の下げが目立った。イタリア最大手のウニクレディト、スペイン最大手のサンタンデール、仏BNPパリバなどがほぼ軒並み安となった。銀行勢は南欧国債を保有しており、債券安による財務悪化が警戒されている。

イタリアでは不良債権処理の遅れも懸念材料だ。主要銀行の不良債権比率は2017年末で11.1%と、ユーロ圏平均の4.1%の2倍以上の水準だ。仮に景気減速の流れが強まれば、イタリアの金融セクターが打撃を受け、欧州全体に悪影響を及ぼすリスクもある。

10年以降のギリシャ危機のころと状況は異なる。当時はギリシャなど一部南欧諸国の財政悪化が問題の中心だった。12年に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が「できることは何でもやる」と宣言し、国債買い入れを決断。長期金利の上昇を抑え、問題解決への効果は大きかった。

実際、イタリアの長期金利は上昇したといっても、ギリシャ危機当時の半分以下の水準にとどまる。一方で、金利が上がりにくくなったからこそ、ポピュリズム政党が反EUと財政拡張を無責任に唱えられている皮肉な面がある。市場の不安の根っこにある政治の危うさへの処方箋は明確ではなく、今回の混乱は長引く恐れがある。

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