2018年11月20日(火)

後継者難の中小、ネットでつなぎ廃業から救え
(アトツギ創業)トランビ 高橋聡社長

コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/5/30 11:30
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日本では経営者の高齢化と後継者難で2025年にかけて中小企業の大廃業時代が到来するといわれている。この流れにあらがうのが、M&A(合併・買収)マッチングサイトを運営するトランビ(東京・港)。高橋聡社長(41)はゴム成型などを手掛ける中小企業の2代目で、周囲の工場が次々と廃業するのを目の当たりにし、救済ビジネスを立ち上げた。

■コンサルの常識が通じない

高橋社長は成長著しいトランビを分社化しスタートアップとして独立運営する(東京・港)

高橋社長は成長著しいトランビを分社化しスタートアップとして独立運営する(東京・港)

後継者不足で廃業寸前の中古車部品販売店。10数社の買い手候補が見つかり、最終的に1億2千万円で譲渡された。大企業を退職した個人が、年間売上高5千万円の印刷会社を買収した。いずれもマッチングサイト「トランビ」の成約例だ。

会社を売りたい人は事業内容や譲渡希望金額・期日などを登録する。買い手候補はこれらの情報を自由に閲覧でき、売り主と直接連絡を取れる。売り主は無料、買い手も登録と閲覧は無料で、成約時に買収額の3%をトランビに支払う。2017年度の譲渡希望案件登録数は約660件、前年度比3.5倍だった。

中小のM&Aを手がける専門の仲介業者の手数料は最低でも2千万円前後といわれており、体力のない企業は仲介に二の足を踏みがちだ。中小の約9割を占めるという年間売上高3億円以下の企業のM&A市場は実質的に未開拓で、そこをトランビが掘り起こした。

金融機関も注目する。中小が融資先に多い地銀などから問い合わせが相次ぎ、昨年末以降、13金融機関と提携した。

社長の高橋氏はもともとはアクセンチュアのコンサルタントだ。父親が創業したアスク工業(長野市)を継ぐため、07年に同社に移り、10年に社長に就任した。今年で創業48年目。半導体装置向け工具や接着剤から健康食品販売まで、幅広い事業を手掛ける。

コンサルから中小経営への立場の変化は、戸惑いの連続だった。「選択と集中という教科書的な考えが全く通用しなかった」。先代は「お客様の困りごとを解決するために必要なら事業を立ち上げろ」という考え方。約200事業を立ち上げ、相関性のない6事業が残っていた。

無駄はないかと探してみても6事業全てが営業黒字。08年のリーマン・ショックで世界が未曽有の経済危機にあえいだ時もアスクは全体としては黒字だった。

コンサル時代の常識は捨て「選択と集中とは逆に事業を増やそう」と決断、100の新規事業を立ち上げる号令をかけた。社員一人ひとりが発案者で、喫茶チェーン「コメダ珈琲店」のフランチャイズなど異色の事業も生まれた。

トランビのサイト画面。ウインドーショッピングのような手軽な感覚で「物件」を閲覧できる

トランビのサイト画面。ウインドーショッピングのような手軽な感覚で「物件」を閲覧できる

一方で、協力先の中小工場の廃業が目に付くようになった。年3~5社のペースで、代わりの委託先や調達先探しに奔走することになった。

そのとき米国の大学に在学中にホストファミリーの父親が語った経営論を思い出した。上場企業の副社長という立場で「会社の売り物は商品でも事業でもなく会社そのもの。社長にとり一番の売り物」と説いた。

実際、米国では小規模店舗や中小の事業譲渡をネットで取り持つサービスが活発だ。高橋氏は「日本でも同じ仕組みがあれば事業存続や企業の新陳代謝につながる」と考え、新規事業としてトランビを立ち上げた。

■崖っぷちの7%を救う

11年のサービス開始当初、動きは低調だった。日本では中小のM&Aに「会社をつぶした」といった負のイメージがつきまとうためだ。しかし、ここ2年ほどで状況は一変した。知名度の高まりもあるが、それ以上に中小の後継者難が深刻度を増しているためだ。

中小企業庁が17年に公表した試算。25年までに70歳超の中小経営者が約245万人に上り、その半数で後継者が決まっていない。これら中小の廃業で国内総生産(GDP)が22兆円失われる恐れがあるという。

危機を目の前に、国や企業の取り組みも加速している。事業承継の関連税制がこのほど10年ぶりに改正された。株式の相続税などが10年間猶予される。中小M&A仲介大手日本M&Aセンターや人材サービスのビズリーチ(東京・渋谷)などが、昨年末以降相次ぎ同様のサービスを立ち上げた。高橋氏は競合の参入を「喜ばしい」と前向きに捉える。

近い将来、日本での廃業は毎年15万社に達するとの指摘がある。トランビの17年度の成約件数は約60件。5年後に約170倍の1万件まで急拡大させるのが目標だ。達成できれば少なくとも廃業の崖っぷちにある7%が救われる計算だ。

高橋氏は「廃業か上場かの二択ではなく事業譲渡という選択肢が広がれば、新規事業や起業への挑戦者が増え、ヒト・モノ・金といった経済の活性化につながる」と力を込める。救おうとする7%の中小企業が、未来の日本の活力の礎となるかもしれない。  (京塚環)

[日経産業新聞 2018年5月30日付]

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