/

安打は投手の責任か 防御率では測れぬ能力

野球データアナリスト 岡田友輔

守備、打撃に続き、今回は統計学に基づいた「セイバーメトリクス」を使った投手の評価手法を紹介したい。先発に絞ると、まずは勝利数と防御率が思い浮かぶ。タイトル争いも注目度が高い。しかし、この2部門で投手の能力は十分に測れているだろうか。

勝ち星が巡り合わせや運に左右されることを否定する人はいないだろう。5回5失点でも打線の手厚い援護があれば勝ちがつくし、9回1失点でも完封されれば負け投手になる。好投すれば勝てる確率が上がるのは間違いないが、味方打線や相手先発の出来、救援陣の踏ん張りなど本人以外の要素も非常に大きい。

楽天・則本は17年、奪三振の能力が際立っていた=共同

大リーグ、防御率で評価せず

それに比べると、失策などを除いた「自責点」に基づいて算出する防御率は投手の実力をより正確に反映しているようにみえる。しかし、現実はそうでもない。広い球場ならフェンス手前で捕られる大飛球が、狭い球場ではフェンス直撃の長打になったり、スタンドに飛び込んだりする。鋭い当たりやボテボテのゴロが安打になるかアウトになるかもバックの守備力が大きい。米大リーグのように打者の傾向に応じて極端なシフトを敷く場合は、安打性の当たりの方が野手の正面に飛ぶことも多い。走者を残して降板した場合、救援が抑えれば自責点にはならないが、生還させれば自責点になる。

著名なセイバー分析家のトム・タンゴ氏らによる計測では、特定の打球がどういう結果になるかを決める要因の内訳は「運44%、投手28%、守備17%、球場11%」という。実際、日本の12球団でトップとワーストの守備力をもつチームをバックに投げた場合、同じ投手でも防御率にシーズン平均で0.4~0.7程度の差が生まれる。突き詰めて考えると、防御率は投手の何を示しているのかが判然とせず、いまや大リーグでは「防御率では投手を評価できない」というのが常識になっている。契約を更新するうえでの根拠には使われていないし、コアなファンからももはや重視されていない。

そこでセイバーの登場となる。その最大の特徴は「野手が介在しないプレーのみを投手の責任範囲として定義する」という点だ。具体的には奪三振、四死球、本塁打。一方、ツキなどが絡む安打や失点は「投手がコントロールできないもの」として分類する。よって「6回3失点」を基準とするクオリティースタートや、1イニング当たりに出した走者の数を示す「WHIP」といった考え方はセイバーとは関係がない。

分析家のボロス・マクラッケン氏がおよそ20年前に提唱したこの斬新な線引きは当初、セイバーの関係者からも懐疑の目が向けられた。しかしその後、研究が進むにつれてその正しさが証明された。三振が取れて、四死球や被本塁打が少なければいい投手。当たり前といえば当たり前だが、たったそれだけの要素を使った計算で、投手の能力をかなり正確に測れてしまうというのは画期的な発見だった。

打球は結果よりも種類が大事

ところがこの手法だと「打たせて取るタイプ」をどう評価すればいいのか、という課題が残る。そこで着目するのが、安打やアウトという打球の結果ではなく、ゴロや飛球、ライナーといった「打球の種類」だ。

日本のプロ野球における2013~15年のデータに基づくと、ゴロは74%、内野への飛球は99%、外野への飛球は67%、ライナーは30%の確率でアウトになる。いいかえれば、ゴロや外野への飛球はともに3割前後の確率で安打になるということだ。しかし、ゴロ安打の多くが単打なのに対し、外野への飛球は長打や本塁打になるリスクも高い。こうしたことも考慮し、それぞれの打球がどれだけ失点につながったかを算出すると、ゴロは0.036、外野への飛球は0.132、ライナーは0.289となる。つまり、同じ「打たせて取るタイプ」でもゴロの多い投手は、外野へのフライが多い投手以上に失点の可能性が低いわけだ。

奪三振、与四死球、被本塁打の3つに打球の情報を加え、球場の広さなども踏まえて調整した数字を「tRA(true Runs Average)」と呼ぶ。野手の守備力や球場の広さ、ツキなど投手がコントロールできない不純物を極力排除した防御率と思ってもらえばいい。

17年シーズン、規定投球回を満たした投手のtRAをみてみると、トップは則本昂大(楽天)の2.28。内訳は奪三振率が29.6%、四球率が6.4%、9イニング当たりの被本塁打率が0.53本、ゴロ/フライ比率(フライに対するゴロの比率。高いほどゴロが多い)が1.11だった。ちなみにそれぞれのリーグ平均は順に19.3%、8.1%、0.93本、1.09。全部門で平均より優れ、奪三振の能力はとりわけ際立っていることがわかる。

沢村賞の菅野智之(巨人)は則本に次ぐ2.56。菅野の特筆すべき点は三振が取れるうえに、ゴロ/フライ比率も1.41と両リーグで6位につけていることだ。通常、三振を取れる投手はキレのいい直球でフライを打たせてアウトを稼ぐ傾向がある。たとえば奪三振率が26.9%の岸孝之(楽天)はゴロ/フライ比率が0.71とフライの方が多いため、被本塁打率がやや高い。二律背反になりがちな2つの要素を菅野が両立させられるのは、ゴロを打たせる低めの変化球をもっているからだろう。

三振奪取能力に制球力、ゴロを打たせる技術。このうち、どれかひとつでも優れていれば好投手、2つそろえばエース級といえる。しかしときに、菅野のように3つを備えた投手が現れる。日本時代のダルビッシュ有(カブス)や田中将大(ヤンキース)もそうだった。ここまでくると、多少の不運があっても簡単には崩れない「スーパーエース」の領域だ。しかしこんな投手はなかなかいない。

巨人・菅野は三振を奪えるうえ、打たせて取ることもできる=共同

一般的な「三振を取るタイプ」と「打たせて取るタイプ」を比べてみると、投手1人でアウトを取れる前者はツキ任せ、他人任せのところがある後者よりも安定感にたけている。シンカーでゴロを打たせるタイプの石川歩(ロッテ)は昨季、3勝11敗の防御率5.09と散々な成績に終わった。日本代表に選ばれた春先の疲れや調整ミスが影響したともいわれたが、tRAでみると意外な実態が浮かび上がる。昨年の3.51は12勝した15年(3.64)、最優秀防御率(2.16)の16年(3.95)よりも優れていた。つまりセイバーの視点に立てば、15~16年の石川は投球内容以上に運に恵まれ、17年は不当なほど運に見放されたということになる。

打球のコースまで支配できず

いい当たりのゴロがアウトになると、多くの解説者は「低めに投げたから野手の正面に飛んだ」と話す。しかし実際、投手は打球のコースまでは支配できない。投手の責任範囲はあくまでゴロを打たせるところまで。それが安打になるかアウトになるかは他の影響が大きい。奪三振や与四球に比べ、同じ投手の被打率が毎年大きく変わるのもそのためだ。

今季、不条理の試練にさらされているのは加藤貴之(日本ハム)だろうか。tRAは2.27ながら6月1日現在で3勝3敗、防御率4.59と報われていない。しかし長い目でみれば帳尻が合うという前提に立てば、いずれ成績は上向くはず。ロッテの石川だって3年トータルでは「行って来い」になっている。

被安打や失点を投手の責任範囲から外すという発想には多くの人が違和感を覚えるかもしれない。しかし、この視点に立つと、野球の構造に対する見晴らしが飛躍的によくなる。本人のコントロールできない要素が結果を大きく左右するのは、ほかのスポーツや日常生活でもよくあることだ。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン