高速鉄道計画、白紙に マハティール首相表明
マレーシア-シンガポール間
【シンガポール=中野貴司】マレーシアのマハティール首相は28日、同国とシンガポールとの間を結ぶ高速鉄道計画を中止すると表明した。財政再建を優先するためで、今後シンガポール政府と中止に伴う違約金の条件などについて話し合う。1957年の独立以来初の政権交代の影響が、日中が受注を激しく競い合っていた大型案件にまで及ぶこととなった。
マハティール氏は28日の記者会見で、高速鉄道計画の中止について「これは最終的な決定だ」と明言した。「多額のお金がかかるだけで、利益にならない」と理由を説明し、5億リンギ(約140億円)にのぼる違約金の取り扱いなどを今後、シンガポール政府と話し合うと説明した。
高速鉄道計画はマレーシアの首都クアラルンプールとシンガポール間の約350キロメートルを90分で結ぶ構想。ナジブ前政権が推進し、総事業費は約200億シンガポールドル(約1兆6300億円)を超えると見込まれていた。2026年の開業目標に向け入札手続きも既に始まっており、日中や欧州勢などが車両や線路の建設を担う中核事業の落札を狙って、しのぎを削っていた。

マハティール氏は首相就任直後から、高速鉄道など前政権が計画していた大型のインフラ整備を見直す方針を示していた。さらに新政権の精査によって、国の債務額が従来の公表値を大幅に上回る1兆リンギ超に上ることが明らかになった。安定財源だった消費税の廃止を決めるなかで、歳出の削減が急務となり、高速鉄道計画の中止もやむを得ないと判断した。
マハティール氏はすでに着工済みの東海岸鉄道についても、建設条件を見直す方針だ。中国交通建設や中国輸出入銀行が関わるこの案件は、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席肝煎りの案件として知られている。新政権は2つの大型案件の中止・見直しを歳出の削減につなげ、財政健全化を進めたい考えだ。
ただ、高速鉄道の建設は雇用を増やし、周辺開発を促進する効果が見込めた。シンガポールとのヒトやモノの行き来がより活発になれば、国境を越える経済圏の発展も期待できた。建設中止によって短期的に歳出の抑制が可能になる一方で、中長期的な経済の押し上げ効果もなくなる。