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BTS(防弾少年団) 世界の音を取り入れ大ブレイク

NIKKEI STYLE

5月にリリースした最新アルバム『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』が、K-POPで史上初の米ビルボード・アルバムチャート1位を記録するなど、世界的な評価が高まりつつあるBTS(防弾少年団)。世界の音楽トレンドを常に取り入れ、巧みなテクニックで独自に昇華させたのがBTSのサウンドであり、大ブレイクの理由である。

BTSのサウンドの特徴は大きく3つある。(1)メンバー全員が作詞・作曲に携わっていること (2)世界の最新トレンドを独自に解釈したサウンドであること (3)ヒップホップマナーに沿った高レベルなラップスキルと、高い歌唱能力を備えていることだ。つまり、彼らは世界標準のサウンドを自ら生み出し、それを歌いこなせるアーティストといえる。

(1)の作詞・曲については、BTSの所属する事務所Big Hitエンタテインメントが音楽活動をする上で「制作ファースト」を掲げていることが大きい。事務所の社長であり、総合プロデューサーのパン・ヒショク氏は、「アーティストのようなアイドルになってほしい」と結成時点で7人に要求。デビューミニアルバムからメンバーには、楽曲のコンセプトなどを出すように求めたそうだ。

14年には楽曲制作能力を上げるため、メンバー全員で米国に武者修行に出掛けており、その様子はテレビ番組としても放送された。特にメンバーの中でも、ラップラインを担当するRM、SUGA、J‐HOPEの3人は、歌詞だけでなく、サウンドメイクまで手掛ける。SUGAは過去のインタビューにおいて、「いつか僕たちメンバーだけで、アルバム全体をプロデュースできるようになりたい」と意欲的に語っている。

遅めのビートと寂寥感

(2)のサウンドに関しては、共に楽曲制作を行ってきたユニバーサルの制作担当者が、「メンバーはビルボードチャートに入るアーティストの楽曲やサウンドの傾向を常にチェックし、自分たちの楽曲に取り入れている」と明かす。ヒップホップやR&Bを中心とした音楽情報サイト『bmr』の編集長を務める丸屋九兵衛氏によると、「2月にグラミー賞で5冠を達成した、現代最高峰のラッパーの1人であるケンドリック・ラマーを筆頭に、近年の米国を中心としたヒップホップのトレンドは、遅めのビートやどことなく寂寥感が漂うサウンド。BTSの楽曲には、それがちゃんと反映されている」と解説する。

BTSの最近の楽曲を見ると、『血、汗、涙』は、ムーンバートントラップという緩やかなビートに、エキゾチックなメロディーを乗せた1曲。EDMを取り入れた『DNA』では口笛のリフレインが入ることで、どこか切なさを感じさせるダンスミュージックに仕上がっている。そこに、メンバーたちが少年から大人に成長する過程で生まれた葛藤などを込めた歌詞が乗り、より説得力のあるオリジナリティーあふれる作品となるのだ。

「譜割り」が生むグルーブ感

(3)のスキルを象徴する例として、丸屋氏は「『譜割り』のうまさ」を挙げる。譜割りとは、音符に対する歌詞の乗せ方のことで、「彼らのレベルの高いラップのフロウ(歌いまわし)やライム(韻の踏み方)が、楽曲に独特のグルーブ感を生み出している」と続ける。RMはもともと、ヒップホップチームの「大南朝鮮ヒップホップ協同組合」に所属、SUGAもアンダーグラウンドでラッパー活動をしていた過去を持つ。ヒップホップリテラシーの高いメンバーの存在が、楽曲のクオリティーを押し上げているといえる。

また、「最近の洋楽トレンドを意識して、彼らの楽曲は音数を絞った洗練されたものが多い。そのすき間を埋めるように様々な歌唱法を駆使するなど、計算され尽くした緻密な構造となっている」(制作担当者)。実際、彼らの楽曲を聴くと、フェイク(音をあえてズラすこと)やベンディング(しゃくること)、ダブル(声を重ねること)など、多彩な歌唱パターンを1曲の中に盛り込んでいる。そのボーカルワークはまるで、複数の楽器を使い分けているかのような巧みさだ。「『Best Of Me』の冒頭部分では、JIMINがエモーショナルなブレス感を効かせて歌い始めますが、決して誰でもできるような歌い方ではない」(制作担当者)という。さらにそのボーカルに、リバーブやディレイといった残響系のエフェクトを効果的に入れることで、声色と楽曲にさらなる奥行きを持たせるのだ。

さらにBTSのこだわりは、日本語バージョンにも及ぶ。「彼らが日本語盤を制作する時は歌詞の意味はもちろんのこと、音数や譜割りまで原曲と合わせます。更に可能な限り、ラップのフロウやライムの位置までそろうように、原曲が3文字なら日本語詞でも3文字の言葉を選び、歌詞を練り上げていく」(制作担当者)という。

米ビルボードチャートを意識した徹底的なサウンド研究と、確かな歌唱技術に裏打ちされているBTSの楽曲。志高く成長し続ける彼らだけに、今後も世界を驚かせるような作品を次々と生み出すに違いない。

(ライター 中桐基善)

[日経エンタテインメント! 2018年5月号の記事を再構成]

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