/

日本ハム・上沢が復活 さえる「錯視の術」

編集委員 篠山正幸

見るからに恐ろしげな剛速球なら、対処のしようもある。見た目の迫力はさほどでなく、球速表示も平凡でありながら、打者を詰まらせる速球があるとすれば、その方がやっかいだろう。そんな錯視の術を持つ日本ハム・上沢直之(24)が復活した。

5月16日の西武戦、23日のロッテ戦、2試合連続の完封は圧巻だった。

16日は1-0で迎えた九回、先頭の源田壮亮、浅村栄斗に連打を浴び、無死一、二塁のピンチを迎えた。しかし、4番の山川穂高を三振、森友哉を二ゴロ、外崎修汰を投ゴロ。133球の完投勝利は2014年以来、4年ぶりの完封となった。

16日の西武戦で4年ぶりに完封した上沢(手前右)=共同

23日は九回表降雨コールドとなったが、8回被安打5で無失点。好調のロッテ打線に的を絞らせなかった。2試合連続完封で防御率1.18。リーグトップの座を固めた。連続イニング無失点は9日のオリックス戦から22回に伸びている。

ロッテ戦は降りしきる雨のなかの投球となった。試合後半は足元もぬかるみ、マウンドはつるつる滑った。ユニホームにも乾いている部分がなく、どこでぬぐっても球がぬれて抜けた。

八回制球を乱してカウントを悪くし、先頭の鈴木大地に三塁打を喫した。それでも後続を抑え、無失点で切り抜けたところに、進境をうかがわせた。フォークボールが滑って使えなかったために、カーブ、スライダーなどでしのいだという。

悪条件でも平静装って投げる

何より感心したのは悪条件を嫌うそぶりを、おくびにも出さなかったこと。

「雨が降っているわりにはコントロールもいいし、あまり影響はなさそうだね」とは高橋憲幸投手コーチの試合途中の談話。確かに試合前半は雨も弱く、大きな影響はなかったようだが、条件が悪化した試合後半の立ち居振る舞いには淡々と投げ続けようという上沢の意思の力があったように思う。

「相手も同じ条件だし、それをいいわけにはできない」と話した。投手はみんなそう言うのだが、実際にそうした態度で通せる投手は多くない。

天候やグラウンドの条件を気にするしぐさは、味方を不安にさせ、相手に「つけいる余地あり」の気持ちを抱かせる。どんなときでも平静を装って投げるのがエースだとすると、今の上沢はその条件をクリアしている。

「気軽にエースと呼ぶな、3年連続で結果を残してから物を言わなくちゃ」と、その称号の乱発にくぎをさしていた故星野仙一・楽天球団副会長に怒られそうだから、あえてエースとはいわないが……。

安定した投球のベースになっているのは直球だ。

見た目は力感がなく、7、8分の力で投げているよう。球速表示も150キロを超えるわけではない。しかし、その"外見"と実際の球の威力との間には相当のギャップがあるらしい。そこに上沢という投手の怖さがある。

その投球を以前「ボンネットバス」に例えたことがある。ボンネットバスとは昔よく走っていた「鼻」が突き出た形のバスだ。

たとえば大きな車両が、道の向こうからこちらに向かってくるとする。上沢の直球は最初はボンネットバスのようにとろとろ走っているようにみえて、近づいてきてみたら、同じように鼻が突き出た車体の新幹線だった、というくらいのギャップがあるようなのだ。

上沢は「力感のないところから、ぴゅっとボールがいくのが僕の持ち味」という=共同

高速で移動する物体は側面からみると速さがわかるが、正面に入ってみると、スピード感がつかめない。こうした視覚上の錯誤を上沢は利用している、といえるだろう。

「リリースの瞬間だけ力伝える」

本人もかつて語っていた。「力感のないところから、ぴゅっとボールがいくのが僕の持ち味。リリースの瞬間(指先からボールが離れる瞬間)にだけ、力を伝えることを意識している」

当然ながら、力感がないといっても、全く力が入っていないわけではないことが、見る角度を変えるとよくわかる。

東京ドームの完封劇を、スタンドの一番上のエリアから眺めてみた。野球盤のようにダイヤモンドを見下ろす場所からみた上沢のフォームはダイナミックで、力感にあふれていた。その直球は糸を引いて捕手のミットに収まるように見えた。

ロッテ戦も同様で、ZOZOマリンスタジアムのネット裏、5階部分にある記者席からみる上沢の球には完封を納得させる力強さがあった。グラウンドという同一平面上(マウンドの高低差はあるが)で、上沢の投球をみなければならない打者は、このスピードを感知しにくいのだろう。

「ボンネットバス」と表現したのは専大松戸高を出て3年目で頭角を現し始めた2014年だった。セ、パ交流戦の中日戦に登板した上沢が、まだ現役だった小笠原道大・現中日2軍監督らをきりきり舞いさせた。その球筋をめったにみることのないセ・リーグ球団相手に、錯視の効果はてきめんだった。

この年、8勝(8敗)を挙げて、一気に開花するかにみえたが、翌年肘を痛めて5勝。手術をし、16年は1軍登板がなく、昨季やっとマウンドに戻って4勝を挙げた。

長いリハビリが終わり、いよいよ本格稼働ということになる今季。シーズン前半とはいえ、驚異的な防御率は大器の片りんを示し、飛躍を予感させている。

今年も交流戦の時期がやってきた。セ・リーグの打者はくれぐれも上沢の直球にご用心……。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン