ログバー 手の中に通訳、旅行中の会話ばっちり

2018/5/28 11:30
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海外旅行の際、すぐに現地の言葉が思い浮かばず、困った経験はないだろうか。ログバー(東京・渋谷、吉田卓郎社長)は語学が苦手な人でも相手に自分の意思を伝えられる音声翻訳機を開発する。手のひらに収まる端末に日本語で話しかけると英語、中国語などに瞬時に翻訳する。言語の壁を越えたコミュニケーションを通じて人々を笑顔にすることをめざす。

「イリー」を手がけるログバーの吉田社長

「イリー」を手がけるログバーの吉田社長

都内のIT企業に勤める平岡雄太さん(28)は4月、初めての海外旅行で韓国を訪れた。韓国語が話せない平岡さんが頼ったのはログバーの音声翻訳機「イリー」だ。

「安くなりませんか」。平岡さんはソウル市内の衣料品店でイリーに日本語で話しかけた。すると瞬時に「サゲアンドェプニッカ」と韓国語で読み上げてくれた。店員は少し驚きつつも話を理解。「これぐらいでどうか」とスマートフォンの電卓を開いて具体的な金額を提示した。

平岡さんは3日間の旅行中、1日20回ほどイリーを使い、道を聞いたり、お薦めのお店を尋ねたりした。ソウル市内の広蔵市場を訪れた際には地元の人に教えてもらい、奥にある古着市場にも足を踏み入れた。平岡さんは「旅行会社のガイドに案内してもらうのと違い、翻訳機を通じて自分の意思を伝えられ、現地の人と直接交流できるのが楽しい」と満足げだ。

イリーは長さ約12センチ、幅約3センチでスティックのような形をしている。重さは42グラムと卵1個より軽く、片手で持ち運べる。リチウムイオンバッテリーを内蔵し、充電後3日間は使うことが可能だ。

韓国で「イリー」を使い値下げ交渉する平岡さん(右)

韓国で「イリー」を使い値下げ交渉する平岡さん(右)

使い方は簡単だ。日本語モデルの場合、端末のボタンを押してピッと鳴ったら日本語で話しかける。ボタンを離すと女性の声で英語や韓国語、中国語などに翻訳し、読み上げてくれる。翻訳にかかる時間は最速で0.2秒。端末横のボタンを長押しすると言語を切り替えることができる。

ログバーは2017年6月にまず英語版のイリーを米国、中国、台湾など海外で販売した。3日間で約1万台が売れた。17年12月には日本語版の販売を開始(価格は1万9800円)。ユーザー数はレンタルを含めて国内外で7万人に上る。18年5月22日からは英語と中国語から翻訳するモデルも日本で販売した。

人気の理由の1つは手軽さだ。持ち運びができる翻訳機は他社も出しているが、クラウドなどネット環境に接続して使う製品が多い。これに対し、イリーは端末内に翻訳ソフトを組み込んでいる。吉田社長は「飛行機の機内や通信環境の悪い地方など世界のどこでも使える」と胸を張る。

旅行での会話に特化したのも特徴。飲食店、買い物、トラブル対応など旅行で使われる数百万語が登録されている。例えば日本語で「高い」と話しかけたときに「High(高さが高い)」よりも、「Expensive(値段が高い)」を優先して翻訳するようにするなど、きめ細かくソフトを調整している。

ボタンを押してマイクに話しかけ、指を離すと翻訳した音声を読み上げる

ボタンを押してマイクに話しかけ、指を離すと翻訳した音声を読み上げる

利用者の8割は40~60代の中高年層、イリーを使って初めて海外に行く人も多い。現在は自分の言いたいことを翻訳するのに特化しており、双方向の会話には対応していない。それでもイリーを使うことで「相手が笑顔になり、話が盛り上がる」(吉田社長)という。

吉田社長が音声翻訳機の開発を思い立った背景には高校時代の苦い経験がある。英会話教室に半年ほど通い、海外に留学したが、最初に訪れた飲食店で「まったく英語が通じず落ち込んだ」。卒業後、ニューヨークの大学に進学。日本に戻った後、遠距離恋愛向けの交流サイト(SNS)を立ち上げたが、うまくいかず、サイト制作などを請け負い生計を立てた。

再び起業に挑戦したのは13年。iPadで注文し、隣の客と交流できる「ログバー」を都内で始めた。お店は繁盛したが、大きく成長させるのが難しいと感じた。14年に指輪型のコミュニケーション端末「リング」を開発したが売れず、在庫の山ができた。「リングはあきらめて次の展開にシフトしよう」。エンジェル投資家の島田亨氏からこう諭され、吉田社長は事業撤退を決断。高校時代に着想した音声翻訳機の開発に着手した。

吉田社長は「当初から世界で売るつもりだった」と話す。現在の社員数は25人で、半分は外国人だ。東京を本社に米国、韓国にも拠点を持ち、18年3月には中国・深圳に子会社を設立した。イリーを紹介した動画はSNSで話題を呼び、世界で1億回再生された。

18年1月期の売上高は8億円。「20年に売上高1千億円」の野心的な目標を掲げ、今後はタイ語など対応言語を増やすほか、教育や工場など法人向けにも展開する計画。吉田社長は「翻訳機を使うことが当たり前になれば双方向での会話に対応したい。10~20年後には通訳が必要なくなるかもしれない」と話している。 (鈴木健二朗)

[日経産業新聞2018年5月28日付]

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