エルドアン氏、思わぬ苦戦 通貨急落で経済争点に接戦
トルコ大統領選・総選挙まで1カ月 実施前倒し裏目に
【イスタンブール=佐野彰洋】トルコの大統領選と国会総選挙が1カ月後の6月24日に迫った。急激な通貨安や物価上昇に直面し、再選を目指すエルドアン大統領と与党・公正発展党(AKP)は思わぬ苦戦を強いられている。有権者の関心が従来の治安から経済問題に移っていることが背景にある。少数民族クルド人有権者の動向が大勢を決する可能性もある。

2017年4月の国民投票で憲法を改正。議院内閣制を廃し、実権型の大統領制に移行する。今回は憲法改正後初の選挙で、中東の地域大国であるトルコの将来を占う大きな節目となる。
エルドアン氏は24日、首都アンカラで公約発表に臨み「新時代には国会と政府はより強く、独立した司法はより効率的になる」と強調した。想定外の苦戦を強いられ大統領への権限集中で三権分立が崩れるとの批判を意識した発言だが、非常事態宣言の継続を明言するなど強権統治の継続も示唆した。
大統領選にはエルドアン氏、最大野党・共和人民党(CHP)のインジェ議員、新党「優良党」を立ち上げた女性党首のアクシェネル元内相、クルド人中心の野党・国民民主主義党(HDP)のデミルタシュ前共同党首ら6氏が出馬した。
親イスラムのAKPは右派の民族主義者行動党(MHP)と連合を組む。エルドアン氏は4割強の得票が確実視され最も優位な立場だが、複数の世論調査は過半数に届かず7月8日の決選投票に進むシナリオを示す。
苦戦の主因は急速なトルコ経済の悪化だ。4月、エルドアン氏はシリア情勢への対処などを理由に19年11月に実施予定だった大統領選と総選挙の前倒しを急きょ決めた。景気の悪化を見越し、野党の選挙準備が整わないうちの圧勝をもくろんだ。
しかし、エネルギー輸入依存などを要因とする経常赤字がアキレスけんのトルコ経済にとって通貨リラの急落は物価高騰を招き、物価上昇率は11%と2桁にのぼる。経済成長率も17年の7.4%から18年は4%台に落ち込む見通しだ。国民の不満は膨らみ、与党陣営の過半数割れ観測が浮上する接戦となっている。
逆風はエルドアン氏自身が招いた側面もある。14日、訪問先のロンドンで再選を果たせば中央銀行の統制に乗り出す考えを示唆。「強権下での安定」「親ビジネス」の姿勢を曲がりなりにも評価してきた投資家の失望を呼び、リラは急落した。
中銀は23日、3%の緊急利上げを余儀なくされたが、リラの対ドル相場は依然として年初に比べ約2割安い水準に沈む。
調査会社のMAKが5月中旬に実施した世論調査によると、有権者の45%がトルコが直面する最大の課題は「経済問題」と回答した。従来の「治安」から関心のシフトが起きている。
前回14年の大統領選でのエルドアン氏の得票率は52%だった。15年にわたって国政のトップに立ち続け、強権統治を敷く同氏への世論の賛否は二分されている。別の世論調査によるとAKP支持者の58%がリラ安の原因は「海外勢力の計略」と答えたが、経済運営に不満を持つ保守層の離反が膨らむ可能性もある。
特に総選挙の鍵を握るのが、人口の2割近くを占めるとされるクルド人有権者の動向だ。政権はテロ組織支援を理由にHDPに弾圧を加え、デミルタシュ氏の拘留が続く。弾圧への反発はHDPの得票数を議席獲得に必要な得票率10%以上に押し上げ、与党連合を過半数割れに追い込む可能性が指摘されている。
今回の選挙は16年のクーデター未遂事件以降続く非常事態宣言下で行われる。メディアの報道は政権・与党への偏りが目立つ。公式の押印のない投票用封筒を有効と認めたり、治安上の理由で当局が投票所を移動できたりする法改正も実施済みで、野党側は不正の温床との懸念を深めている。選挙結果次第では、混乱が広がる恐れもある。