2019年7月20日(土)

VCが創薬をする時代
(WAVE)成田宏紀氏

2018/5/24 20:00
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「薬を創る」と聞くと製薬企業による多額の投資や立派な研究所、多数の研究者が必要だと思われるかもしれない。しかし、昨今の革新的な創薬シーズの多くは本連載で紹介してきたような小回りの利くベンチャー企業が生み出している。時代はさらに進み、今やベンチャーキャピタル(VC)までもが薬を創る時代になった。

2000年エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現・大和企業投資)に入社し、11年投資第一部副部長兼VC投資第四課長。14年5月、DCIパートナーズ社長就任。

2000年エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現・大和企業投資)に入社し、11年投資第一部副部長兼VC投資第四課長。14年5月、DCIパートナーズ社長就任。

私が代表を務めているVCでも昨年、アカデミア(学問の世界)と製薬企業からそれぞれ抗体を用いた創薬シーズを導入し、2社の創薬ベンチャーを立ち上げた。記事に取り上げられた際は、各方面から「金融機関が薬の開発を行うのか」という驚きの声を頂いたものである。

なぜ少人数のベンチャーや、ましてやVCが薬を創ることができるのか。大きな理由として創薬ビジネスにおける受託サービスの発達が挙げられる。創薬ビジネスには動物での非臨床試験、ヒトでの臨床試験、高品質な製造などの専門的なプロセスが目白押しだが、現在はこれらのほとんどの業務でアウトソース(外部への委託)が可能となっている。

ビジネスにはよくヒト、モノ、カネの3つが必要な要素に挙げられる。同じように創薬ビジネスにおいても薬を開発できるヒト、創薬シーズといったモノ、そして最後に潤沢なカネがあれば薬を創ることはできる。

製薬企業はこれらの要素をほぼ内製しているのに対して、ベンチャーはアカデミアなどからモノを発掘し、開発をマネジメントできるヒトを集め、足りない機能はアウトソースし、VCから資金を調達することで創薬を実現している。

VCがどのようにベンチャーに資金を供給しているかというと、有望なモノを持ち、最低限のヒトを有する会社を「発掘」し、資金供給をしている。つまり、発掘の対象をベンチャーからモノに変えてしまえば、あとはマネジメントができる少数のヒトを用意するだけでベンチャーと同じことができるのである。そして、ベンチャー以上に身軽な体制でできる。

昨今、特に米国ではVCが自ら創業し、創薬ビジネスを行うようになっている。最近、筆者の目を引いたニュースがある。それは米国のVCであるサード・ロック・ベンチャーズが約60億円を投資してカスマセラピューティクスという会社を立ち上げたというものだ。

カスマ社はオートファジーというメカニズムに立脚した創薬事業を展開する。オートファジーといえば、2016年に東京工業大学の大隅良典栄誉教授が、そのメカニズムを解明した功績でノーベル賞を受賞した分野である。大隅教授は同社の創立者には名を連ねていないようだ。日本が科学でリードしていた分野であるにもかかわらず、起業で米国に先を越されたのは非常にくやしい。

日本には多くの優れた創薬シーズがある。そして受託サービスもある。あとはマネジメントができる少数のヒトとカネの供給が増えれば、日本はバイオベンチャーの質・量ともに米国と十分に伍(ご)していける。日本がバイオベンチャーの創出大国となれるように、VCの仕事を通して少しでも貢献できればと考えている。

[日経産業新聞 2018年5月24日付]

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