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データで迫る 大谷翔平の「二刀流」(5)

 米大リーグで投打の「二刀流」に挑むエンゼルスの大谷翔平が躍動しています。その一挙手一投足が日々のニュースで取り上げられています。日経電子版は5月14日、東京・大手町で「大谷翔平、なにがすごい!? データで分析」と題したセミナーを開催。野球選手の動作解析を研究している国学院大学准教授の神事努さんと、電子版スポーツで大谷のコラム「拝啓 ベーブ・ルース様」を連載しているスポーツライターの丹羽政善さんが大谷の特長をデータから分析しました。今回は最終回になります。記録はセミナー開催時点のものです。

丹羽 昨季のアストロズのワールドシリーズ制覇を支えた「フライボール革命」が起きたことで、それまで平凡だった打者が覚醒することがあります。ドジャースのジャスティン・ターナーやクリス・テーラーです。ターナーはメッツを自由契約になり、それを機に米カリフォルニア州にあるトレーニング施設でフライを打つことだけに一冬専念しました。フライを打つにはどうすべきか。彼はインストラクターから単純に右肘を突き上げるように打つことを教えられて徹底しました。ドジャースにマイナー契約で拾われましたが、そこからオールスターに選ばれるほどのスター選手へと駆け上がりました。

丹羽 テーラーもマリナーズにいましたが、控え選手でたまに試合に出場するくらいでした。芽が出なくて、マリナーズは諦めてドジャースにトレードで放出してしまったのです。そのテーラーもターナーにフライを打てと教わったのです。失うものはなく、やってみるしかありません。意外とそういう選手が伸びることもあるのですね。レッドソックスのJ・D・マルティネスは好打者ですが、ホームラン打者ではありませんでした。それが5年総額で100億円を超える年俸を稼ぐ打者になりました。フライを打つ技術を身につけ、能力を発揮する選手が出てきているのは確かです。

神事 それまでは基準が打球の速度だけでしたが、大リーグで「バレルゾーン」にどれだけ打球が入ったのかを重視するようになり、打撃理論を急激に進化させました。

丹羽 この打撃理論は三振する割合も多いのです。ボールに角度がつくようにしてフルスイングしますから。三振をいかに減らすかが次のテーマになってきます。

神事 そう思います。いかに三振を減らして長打を増やすかに注目点が移ります。そのためボールをどうみるのか、目や脳の能力も重要になってきます。大リーグの焦点がそこに当たっているのも事実です。

丹羽 フライボールを打とうとする打者にどういうボールを投げればいいか。昨季のワールドシリーズでは記録的なホームランが出ましたが、彼らにフライボールを打たせないようにするにはどうしたらいいか。神事先生に教えていただいたのですが、速いカーブ、82マイル(約132キロ)を超えるカーブにその可能性があるそうです。

(C)Nextbase Corp.

神事 先ほどのグラフでいうと、ホップ成分が低い方がゴロになりやすいのです。下方向に速く変化するボールを投げると、打者が想定しているよりも低い軌道のボールが来てゴロになるケースが多いのです。日本のプロ野球でもそうしているチームがあります。

丹羽 フォークやチェンジアップ、シンカーなどの球種を操れるほうがフライボール打者には有利であるということです。大谷のフォーシームがそこまできれいな軌道ではないと話しましたが、逆にもっとホップ成分が少なくなれば、打者を打ち取るには最適といえますね。

神事 そうですね。打者をゴロで打ち取る可能性が大きくなります。ストライクゾーンで勝負をできるので、球数を増やさずに長い回を投げられる投手を目指す方向もあると思います。

丹羽 本人がその方向を求めているかですね。データをみて、自分がどういう球を投げればいいのかわかるようになるのが「Statcast(スタットキャスト)」という動作解析システムの特徴になります。フライボール打者は日本ではまだ受け入れられていないようですね。たとえば東京ドームは狭いので、フライボールを打ち出したらフェンスに当たるか、本塁打になりますが……。

神事 三振が増えると嫌うコーチも多いようです。

丹羽 大リーグでは失うものがないと思うチームがやり始めました。日本でもそう思うチームはぜひやってみたらどうでしょうか。

(C)Nextbase Corp.

神事 大谷のスイングをみると、ややゴロが多くなるスイングの軌道をしています。その意味ではツーシーム系のボールだとゴロになる確率が高く、バレルゾーンにいく割合は少し下がることになりそうです。

丹羽 大谷は相手投手にキャンプ中は徹底的に内角を攻められ、打球がつまっていました。当初は右足を大きく上げてタイミングをとっていましたが、つまる状態が続いた結果、右足を大きく上げなくしました。序盤は徹底的に大谷の内角を攻めて、それでゴロに打ち取る作戦が効果的だったということですね。

丹羽 アスレチックスは3月29日の開幕戦の相手でした。大谷は1安打しましたが、ほかの打席はすべてゴロでした。そのとき、捕手ジョナサン・ルクロイが出したサインはやはり内角でした。ただ大谷が右足の上げ方を変えたことを知らなかったのです。その後は安打や本塁打を打たれています。ルクロイが話していたのは「いい打者は早いカウントではコースだけに的を絞っていて、それ以外はピクリともしない」ということです。捕手はそこで打者が何を待っているかみています。どのボールを投手に投げさせるかは捕手の技術なんですが、大谷が内角低めを待っているとなれば、相手バッテリーもそれを利用しようと配球を組み立てます。

セミナーで対談する神事さん(左)と丹羽さん

丹羽 どんな球種でもいいのですが、内角低めにスライダーやカットボールのように食い込んでくるボールを投げます。ツーシームを打者の体に当たるくらいに投げることも考えられます。マイク・リーク(マリナーズ)という投手がどう攻めたかも興味深いのです。彼のチェンジアップはシュート回転しますが、大谷はそのボールを追って空振りしたんですよね。でも2ストライクになると、大谷は見極めるようになりました。大谷は2ストライクにしてからが打ち取りにくい打者だそうです。

神事 今後、打者・大谷のデータの蓄積が進んだら、長打を打たれなければいいとなるかもしれません。これまではどうやって打たれないようにするか相手バッテリーは考えていましたが、一流打者と認めて「単打ならOK」「流し打ちしてシフトの間を抜けても長打にならないからOK」という判断になるかもしれません。

 神事努(じんじ・つとむ) 1979年生まれ。国学院大学人間開発学部健康体育学科准教授。株式会社ネクストベース・エグゼクティブフェロー。元国立スポーツ科学センター研究員。博士(体育学)。投球されたボールの回転軸の方向や回転速度が空気力に与える影響について明らかにした論文で、日本バイオメカニクス学会優秀論文賞を受賞。スポーツサイエンスに基づいた支援を、チームや選手を対象に行う。女子ソフトボール日本代表のサポートを担当し、北京五輪での金メダルに貢献。2016年まで東北楽天ゴールデンイーグルスの戦略室R&Dグループに所属し、チームの強化を推進。現在は最新の「Pitch Design」のアドバイスを受けに多くのプロ野球投手が訪れる。
 丹羽政善(にわ・まさよし) スポーツライター。1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。大学時代から日之出出版でファッション誌の編集に携わる傍ら、米プロスポーツに興味を持ち、95年秋に留学。99年5月にインディアナ州立大学スポーツマネジメント学部を卒業。以来、シアトルに居を構え、大リーグや米プロバスケットボール、スノーボードなどを中心に取材。NHK BS-1で放送されている「ワールドスポーツMLB」にも出演している。著書に「夢叶(かな)うまで挑戦―四国の名将・上甲正典が遺(のこ)したもの」(ベースボールマガジン社)、「メジャーリーグビジネスの裏側」(キネマ旬報社)、「メジャーの投球術」(祥伝社)などがある。

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