2019年7月16日(火)

勝利のメンタリティー(山本昌邦)

フォローする

温故知新 W杯名勝負に見る超一流選手の存在感

(2/3ページ)
2018/5/25 6:30
保存
共有
印刷
その他

ちなみにフォクツは70年大会のイタリア戦でも相手の得点源のルイジ・リーバを密着マークしている。ゾーンでシステマチックに守ることが専らになった現代サッカーでは、ほとんど見ることのできないタイプのDFといえるのかもしれない。

ベッケンバウアー(左)は監督としても優勝カップを手にした

ベッケンバウアー(左)は監督としても優勝カップを手にした

ベッケンバウアーの優雅さも群を抜いている。今でこそ足のアウトサイドを使ったキックは普及しているが、70年大会と74年大会を見返すと、アウトサイドとチップキックを使ったパスはどちらの大会にも出ていたベッケンバウアーのほぼ専売であることが再確認できた。

今、足のアウトサイドを使ってパスをすることが当たり前になったのは70年のW杯くらいから世界中にライブで中継されるようになり、スーパースターのプレーをまねる子供が増えたことが一番の理由ではなかろうか。W杯で映像の影響力とか伝播する力が爆発的に高まったのも、このあたりからなのだろう。

フランスの中盤が見せたパスワーク

アルゼンチンが地元優勝を飾った78年大会は、オランダの武器だったオフサイドトラップをどこも使えるようになっていた。アルゼンチンがオランダに対してオフサイドトラップを仕掛けるようになり、その逆を取ってオランダがゴールを上げるという場面も出てくる。浅い守備ラインを崩すコンビネーションにアルゼンチンは彼らの持ち味である高速ドリブルと壁パスを多用するという工夫の跡もうかがえる。

82年大会は2次リーグのイタリア対ブラジルの死闘というサッカー史にとどろく名勝負があるが、準決勝のフランスと西ドイツの延長戦にもつれ込む熱戦も息をのむ場面の連続だった。W杯史上初のPK戦を制したのは西ドイツだが、やはり目を奪われるのはプラティニ、ジャン・ティガナ、アラン・ジレスの流れるような中盤のパスワークから生まれるフランスの攻撃力だった。3人目の動きを入れながらの崩しは現代サッカーのそれと原理的にまったく変わらない。

また、82年大会はカバーリングのエリアが少し広くなった様子も見受けられる。オランダが持ち込んだ集中守備に対する耐性ができて、ラインコントロールを打ち破る具体的な方法も見つかった。その結果、うかつにラインを上げるのはリスクが大きい。そういう警戒感からラインの上げ下げが慎重になったのだろう。

世界から取り残された日本のサッカー

70年から82年まで順番に名勝負を見ていくと、82年大会はボール周辺だけでなく、ピッチ上の全員が常に動いて細かくポジションを変えるようになっていて、動きの質と量が大きく向上していることも見て取れた。おそらく、70年から82年にかけては、サッカーが大きく進化した「黄金時代」だったのだろう。

裏返すと、その12年間は、日本と世界の差が最も広がった時代といえるのかもしれない。68年メキシコ五輪で銅メダルを獲得した後、日本サッカーは杉山隆一さんや釜本邦茂さんら実力者の退潮とともにアジアでも勝てなくなった。この間、世界のサッカーは1対1の戦いから11対11の戦い、スピードもウオーキングからジョギング、ランニングへとアップするかのように、ぐんぐんと前に進んでいった。その進歩に日本は大きく取り残された。82年大会をスペインで日本代表のキャンプを張りながら現地で見て回った木村さんは「これは追いつけん」と当時思ったそうだ。

ちなみに、そんな日本が次の86年メキシコ大会のアジア最終予選では韓国と出場権を懸けて最後の最後まで争うことができた。私はその背景には日本で79年ワールドユースを開催できたことが大きかったと思っている。そこで世界と戦い、優勝したアルゼンチンのマラドーナを見た、同じ空気を吸ったというメンバー(水沼貴史さんや柱谷幸一さんら)が大いに刺激を受け、フル代表に成長してチームを底上げしたのだと思っている。育成をやり続け、育成年代から世界に送り込む。今も昔もチームを強くするにはこれ以外の道はない。

  • 前へ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 次へ
保存
共有
印刷
その他

サッカーコラム

電子版トップスポーツトップ

勝利のメンタリティー(山本昌邦) 一覧

フォローする
南米選手権のエクアドル戦で、競り合う久保建(右)=共同共同

 6月のほぼ同時期、男子のサッカー日本代表はブラジルで行われた南米選手権(コパアメリカ)に、女子日本代表の「なでしこジャパン」はフランスで行われたワールドカップ(W杯)に参加した。男子は惜しくも得失点 …続き (7/4)

U―20日本代表はU―20W杯でエクアドル、メキシコ、イタリアと対戦する=共同共同

 6月、サッカーの日本代表は4台の“バス”をブラジル、フランス、ポーランドで走らせる。男子のU―20(20歳以下)、U―22(22歳以下)、フル代表、そして女子のなでしこジャパンである。それぞれ目指す …続き (5/23)

昇格組の大分の奮戦は驚きに値する=共同共同

 明治安田生命J1リーグは長丁場の戦いのほぼ4分の1を終えたところ。第8節終了時点でFC東京が6勝2分け(勝ち点20)の無敗で首位を走り、2位広島(同17)、3位名古屋(同16)と続く。一方、降格圏に …続き (4/25)

ハイライト・スポーツ

[PR]

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。