データで迫る 大谷翔平の「二刀流」(4)
丹羽 打者・大谷についてはいかがですか。
神事 打者・大谷を知るうえで、指標となるものがあります。最近よく語られるようになってきたのですが、説明していきたいと思います。統計学に基づいた「セイバーメトリクス」という指標では、得点や失点にどう影響したのかをピックアップしています。OPS(On-base Plus Slugging)という指標があります。初めて聞く人もいるかもしれませんが、数字に強ければすぐわかると思います。出塁率と長打率を足した数字です。OPSが高くなると、1試合あたりの平均得点が高くなることがわかっています。ですから、得点力を考えると、出塁する能力と走者を進塁させる能力が必要になってきます。打率で評価するよりOPSで評価したほうがいいといわれており、得点にどう貢献したのかがわかります。
神事 OPSを構成する要素を出塁率と長打率に分けました。ここで長打率の説明をしますと、打球の飛距離のほか、相手チームの守備位置に影響することもわかっています。打球の飛距離ランキングをみると、大谷は22番目になります。大リーグ30球団のどのチームにいても「主力」であるといえます。
丹羽 アーロン・ジャッジやジャンカルロ・スタントン(ともにヤンキース)は入っていないんですよね。

神事 そうですね。最高の飛距離という点ではですね。飛距離を構成する要素は3つです。「打球の速度」と「打球の角度」と「打球の回転数」です。打球の速度からいきます。速度を横軸にしてその結果の比率(単打、二塁打、三塁打、本塁打)をみると、速度が150キロを超えると急激に長打が増え始めます。また面白いのが速度が速くなると、長打だけでなくて安打そのものも増えていくといえます。注目すべきなのは速度が110キロ前後だとポテンヒットが多いことです。極端ですが、ポテンヒットメーカーになりたいのであれば110キロ前後の打球を打ち続ければいいのです。
丹羽 イチローはわざと打球を詰まらせて遊撃手の後方に落とすことがあります。遊撃手や三塁手が深めに守っている場合、意図的に詰まらせその前に転がして内野安打を稼ぐ技術を持っています。この数値はそうした選手の能力を示すのかもしれませんね。

神事 平均打球速度ランキングではジャッジやスタントンら強打者の名前が出てきます。大谷はスタントンを抜いて7位。大リーグで7番目に打球が速いというのは驚くべき特徴だと思います。
丹羽 それに対して角度はどうなのかですね。
神事 打球の速度を横軸にとって飛距離を縦軸にとると、このような関係になります。打球を遠くに飛ばすには「速さ+角度」が必要になります。

丹羽 守る場合に極端なシフトを敷くケースがありますので、打者がいくら強烈なボールを打っても、二塁手正面や遊撃手正面という可能性は出てきます。
神事 ですから、打球の角度をつけましょうとなります。ここでいうと横軸が打球の上下の角度で、おおよそ20度から35度くらいの間で最大の飛距離になりますが、打球の速度が150~160キロほどになると、角度が10度以下であっても100メートル近くボールが飛ぶ計算になります。また、50度くらいになっても100メートルほど飛ぶケースがあります。打球が速ければ速い方が角度の制限が少なくなるとわかっています。ですから打球の速度がとても重要になります。

丹羽 いわゆる「フライボール革命」が大リーグで話題になりました。昨季のワールドシリーズを争ったアストロズやドジャースのようにですね。かつては打者はゴロを打てばイレギュラーするかもしれないし、相手チームがエラーするかもしれないと思っていました。しかし、どのチームも守備のシフトを徹底し、打者がいくら強い打球を放っても容易に内野手の間を抜けなくなりました。

神事 そうなると、打球をどの方向に打てばいいのでしょうか。「バレル」という指標ができていて、このゾーンにどうやって打球を飛ばせばいいのかが話題になっています。少し説明すると、打球がバレルゾーンに入れば打率が8割2分2厘で、長打率が2.386。長打は二塁打以上になります。打球の速度が158キロの場合ですと、26~30度がバレルゾーンになります。159キロになるとその幅が6度に、また160キロを超えると9度に広がります。180キロを超えると、8度から50度まで広がることがわかっています。
丹羽 長打を狙うというよりはボールをしっかりバットの芯で捉え、打球に角度がつきさえすればあとは勝手に飛んでくれるという考え方です。
神事 そうですね。そのためにはどのような軌道でバットを出せばいいのかが今注目されていて、いろいろな人がデータを集めている状況です(詳細な説明は「BASEBALL GEEKS」を参照)。
(最終回は5日付に掲載します)