/

データで迫る 大谷翔平の「二刀流」(4)

 米大リーグで投打の「二刀流」に挑むエンゼルスの大谷翔平が躍動しています。その一挙手一投足が日々のニュースで取り上げられています。日経電子版は5月14日、東京・大手町で「大谷翔平、なにがすごい!? データで分析」と題したセミナーを開催。野球選手の動作解析を研究している国学院大学准教授の神事努さんと、電子版スポーツで大谷のコラム「拝啓 ベーブ・ルース様」を連載しているスポーツライターの丹羽政善さんが大谷の特徴や可能性について話し合いました。5回に分けて掲載する内容の4回目になります。記録はセミナー開催時点のものです。

丹羽 打者・大谷についてはいかがですか。

神事 打者・大谷を知るうえで、指標となるものがあります。最近よく語られるようになってきたのですが、説明していきたいと思います。統計学に基づいた「セイバーメトリクス」という指標では、得点や失点にどう影響したのかをピックアップしています。OPS(On-base Plus Slugging)という指標があります。初めて聞く人もいるかもしれませんが、数字に強ければすぐわかると思います。出塁率と長打率を足した数字です。OPSが高くなると、1試合あたりの平均得点が高くなることがわかっています。ですから、得点力を考えると、出塁する能力と走者を進塁させる能力が必要になってきます。打率で評価するよりOPSで評価したほうがいいといわれており、得点にどう貢献したのかがわかります。

神事 OPSを構成する要素を出塁率と長打率に分けました。ここで長打率の説明をしますと、打球の飛距離のほか、相手チームの守備位置に影響することもわかっています。打球の飛距離ランキングをみると、大谷は22番目になります。大リーグ30球団のどのチームにいても「主力」であるといえます。

丹羽 アーロン・ジャッジやジャンカルロ・スタントン(ともにヤンキース)は入っていないんですよね。

(C)Nextbase Corp.

神事 そうですね。最高の飛距離という点ではですね。飛距離を構成する要素は3つです。「打球の速度」と「打球の角度」と「打球の回転数」です。打球の速度からいきます。速度を横軸にしてその結果の比率(単打、二塁打、三塁打、本塁打)をみると、速度が150キロを超えると急激に長打が増え始めます。また面白いのが速度が速くなると、長打だけでなくて安打そのものも増えていくといえます。注目すべきなのは速度が110キロ前後だとポテンヒットが多いことです。極端ですが、ポテンヒットメーカーになりたいのであれば110キロ前後の打球を打ち続ければいいのです。

丹羽 イチローはわざと打球を詰まらせて遊撃手の後方に落とすことがあります。遊撃手や三塁手が深めに守っている場合、意図的に詰まらせその前に転がして内野安打を稼ぐ技術を持っています。この数値はそうした選手の能力を示すのかもしれませんね。

(C)Nextbase Corp.

神事 平均打球速度ランキングではジャッジやスタントンら強打者の名前が出てきます。大谷はスタントンを抜いて7位。大リーグで7番目に打球が速いというのは驚くべき特徴だと思います。

丹羽 それに対して角度はどうなのかですね。

神事 打球の速度を横軸にとって飛距離を縦軸にとると、このような関係になります。打球を遠くに飛ばすには「速さ+角度」が必要になります。

(C)Nextbase Corp.

丹羽 守る場合に極端なシフトを敷くケースがありますので、打者がいくら強烈なボールを打っても、二塁手正面や遊撃手正面という可能性は出てきます。

神事 ですから、打球の角度をつけましょうとなります。ここでいうと横軸が打球の上下の角度で、おおよそ20度から35度くらいの間で最大の飛距離になりますが、打球の速度が150~160キロほどになると、角度が10度以下であっても100メートル近くボールが飛ぶ計算になります。また、50度くらいになっても100メートルほど飛ぶケースがあります。打球が速ければ速い方が角度の制限が少なくなるとわかっています。ですから打球の速度がとても重要になります。

(C)Nextbase Corp.

丹羽 いわゆる「フライボール革命」が大リーグで話題になりました。昨季のワールドシリーズを争ったアストロズやドジャースのようにですね。かつては打者はゴロを打てばイレギュラーするかもしれないし、相手チームがエラーするかもしれないと思っていました。しかし、どのチームも守備のシフトを徹底し、打者がいくら強い打球を放っても容易に内野手の間を抜けなくなりました。

セミナーで対談する神事さん(左)と丹羽さん

神事 そうなると、打球をどの方向に打てばいいのでしょうか。「バレル」という指標ができていて、このゾーンにどうやって打球を飛ばせばいいのかが話題になっています。少し説明すると、打球がバレルゾーンに入れば打率が8割2分2厘で、長打率が2.386。長打は二塁打以上になります。打球の速度が158キロの場合ですと、26~30度がバレルゾーンになります。159キロになるとその幅が6度に、また160キロを超えると9度に広がります。180キロを超えると、8度から50度まで広がることがわかっています。

丹羽 長打を狙うというよりはボールをしっかりバットの芯で捉え、打球に角度がつきさえすればあとは勝手に飛んでくれるという考え方です。

神事 そうですね。そのためにはどのような軌道でバットを出せばいいのかが今注目されていて、いろいろな人がデータを集めている状況です(詳細な説明は「BASEBALL GEEKS」を参照)。

(最終回は5日付に掲載します)

 神事努(じんじ・つとむ) 1979年生まれ。国学院大学人間開発学部健康体育学科准教授。株式会社ネクストベース・エグゼクティブフェロー。元国立スポーツ科学センター研究員。博士(体育学)。投球されたボールの回転軸の方向や回転速度が空気力に与える影響について明らかにした論文で、日本バイオメカニクス学会優秀論文賞を受賞。スポーツサイエンスに基づいた支援を、チームや選手を対象に行う。女子ソフトボール日本代表のサポートを担当し、北京五輪での金メダルに貢献。2016年まで東北楽天ゴールデンイーグルスの戦略室R&Dグループに所属し、チームの強化を推進。現在は最新の「Pitch Design」のアドバイスを受けに多くのプロ野球投手が訪れる。
 丹羽政善(にわ・まさよし) スポーツライター。1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。大学時代から日之出出版でファッション誌の編集に携わる傍ら、米プロスポーツに興味を持ち、95年秋に留学。99年5月にインディアナ州立大学スポーツマネジメント学部を卒業。以来、シアトルに居を構え、大リーグや米プロバスケットボール、スノーボードなどを中心に取材。NHK BS-1で放送されている「ワールドスポーツMLB」にも出演している。著書に「夢叶(かな)うまで挑戦―四国の名将・上甲正典が遺(のこ)したもの」(ベースボールマガジン社)、「メジャーリーグビジネスの裏側」(キネマ旬報社)、「メジャーの投球術」(祥伝社)などがある。

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン