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データで迫る 大谷翔平の「二刀流」(3)

 米大リーグで投打の「二刀流」に挑むエンゼルスの大谷翔平が躍動しています。日経電子版は5月14日、東京・大手町で「大谷翔平、なにがすごい!? データで分析」と題したセミナーを開催。野球選手の動作解析を研究している国学院大学准教授の神事努さんと、電子版スポーツで大谷のコラム「拝啓 ベーブ・ルース様」を連載しているスポーツライターの丹羽政善さんが大谷の特徴や可能性について話し合いました。5回に分けて掲載する内容の3回目になります。記録はセミナー開催時点のものです。

神事 大谷のフォークボール(スプリット)は大リーグ平均より10~20センチ多く落ちていますので、「よく落ちているね」と表現されます。右端のグレーの円が大リーグの平均的なフォークの変化量で、青色がヤンキース・田中将大のフォーク。丹羽さんがお話しした通り、田中の場合はほぼ真下に落ちるほか、少しシュート回転するものもあります。

(C)Nextbase Corp.

丹羽 大リーグではボールの軌道を「レーン」といいます。リリースポイントが同じ方が打ちにくいのか、もしくはレーンが同じほうが打ちにくいのかを打者に聞くと、「レーン」と答える割合が多いようです。同じ軌道でくるボールが最後の最後で枝分かれし、そのポイントが打者に近ければ近いほど球種を判断する時間が短くなります。大谷のフォーシーム(速球)は軌道だけをみれば、それほど打てないものではないのですが、フォークと似た軌道で打者に近づいてくるため「フォークではないか」という意識が働きます。それで打者はフォーシームが本来の軌道よりもホップしてみえる可能性があります。そのあたりの錯覚を打者に与える効果が彼の2つの球種にはあるようです。

神事 そうですね。フォーシームは速く、フォークもよく落ちています。しかも軌道が途中まで同じものも含まれていて、打者はフォーシーム狙いで打ちにいくと、フォークなら「落ちた」ということになります。フォークを狙っていくと、今度はフォーシームがきたときに対応できません。大谷は当初、かなり2つの球種で攻めていたのですが、それでも結果が出ていました。

神事 大谷のフォークの特徴はよく落ちる点に加えて、トップスピンもかかっています。上から投げているのにもかかわらず、ボールの進行方向に回転がかかっています。想像しがたいのですが、映像を見るとその特徴がわかるところもあります。

丹羽 通常、フォークはバックスピン(逆回転)になりますから、これは大リーグにはほぼない軌道なんですね。

神事 「激レア級」ですね。実はロッテで活躍された村田兆治さんの投球データを2004年に取る機会がありました。村田さんのフォークにもトップスピンがかかっていました。ソフトバンクの千賀滉大のフォークは「お化けフォーク」といわれますが、彼のボールもトップスピン系のようです。こうしたボールを投げる投手が出てきているのです。自在に落差をコントロールできるようになれば、投手にとって大きな武器になりますね。

丹羽 大谷に話を戻しますと、各球団と対戦が進み、あのフォークの軌道を見極められるようになったら、ボール球と判定される可能性が高いと思います。そうなると攻め方を変えないといけません。各チームとの対戦がこの先、3度目、4度目になったらどうなるかですね。

セミナーで対談する神事さん(左奥)と丹羽さん(右奥)

神事 そこで出てくるのがスライダー、カーブというほかの球種です。

丹羽 そうですね。大谷の投球にはカーブ、スライダーの比率が増えてきています。実は当初、大谷は左打者にスライダーをほぼ投げなかったのです。ところが5月6日のマリナーズ戦では9球投げました。左打者のディー・ゴードンと話したのですが、そのデータは「頭にない」と。基本的にはフォーシームとフォークの投手と認識し、スライダーを全く想定していなかったそうです。

丹羽 大谷は右打者にフォーシーム、フォーク、スライダーの3球種を投げていましたが、左打者にはフォーシームとフォークしか投げていなかったのです。そのデータは4月24日のアストロズ戦あたりではっきりしていました。そう思っていたらマリナーズ戦では急にスライダーを投げてきて、ゴードンら左打者は泳ぐようなスイングになってボールに当てるのが精いっぱいでした。配球を変えて、裏をかいたといえます。スライダーそのものの軌道も悪くありませんでした。

神事 スライダーの変化量でいうなら、大リーグの平均値を上回る37センチになっていますので、平均よりも3倍近く曲がるのが大谷のスライダーの特徴になります。

(C)Nextbase Corp.

丹羽 曲がりすぎることで、コントロールしづらいという面もありますね。大きく曲がると左打者の場合、ボールの軌道を見極めやすくなります。内角を攻めようとしても、曲がりすぎれば打者にぶつかる可能性があります。ダルビッシュ有(カブス)は左打者にスライダーをことごとく狙われたことがありました。スライダーの軌道が結構大きいので、右打者には腰を引くような軌道になりますが、左打者からすれば曲がりが大きい分だけ長くみられます。長短両面があります。

神事 そうですね、それと大きくボールを曲げようとすると球速はその分遅くなります。大谷のスライダーの球速はフォーシームを100としたら、84ほどの割合になります。速いカーブというイメージです。速いスライダーを投げる投手ではクレイトン・カーショー(ドジャース)がいます。その球速はフォーシームの95くらいの割合です。日本では90を超える人がたくさんいます。大谷のスライダーは大きく曲がるものの、速度が遅いのが特徴です。打者からすると球種を判断する時間を長く持てるのがマイナス材料と思います。

丹羽 フォーシームとの球速差を小さくすることができれば、今度はスライダーが効果的になります。

神事 そうですね。

丹羽 相手打者はそういう大谷にどう対抗していくのかですね。軌道は平均的ですが、フォーシームはフォークのコンビネーションが抜群で、フォークとの見極めで迷わせられるところが効果的です。スライダーもありますので、相手は狙い球をどう絞っていくのか。

神事 大谷のスライダーにはまだ改善の余地がありそうです。左打者はボールをぶつけられるかもしれませんが、大谷が嫌がるようにホームベース寄りに立って投げられるコースを狭める方法もあります。スライダーを狙ってもいいと思います。これまではフォーシームとフォークしかないと思っていたところに、スライダーがきたので面食らいましたが、スライダーがあると事前にわかっていれば、それを狙おうと指示することもできます。

丹羽 4月24日に対戦したアストロズがそれなりに効果的だったのは、完全に大谷のフォーシームを狙いましたよね。速いカーブとフォーシーム、大谷もそのあたりを考えて、初球にカーブ、スライダーでストライクを取りにいったのですが、アストロズ打線は全く反応しなかったのです。完全にチームの方針でした。ですのでフォーシームだけを狙うのであれば、そこまで手に負えない軌道ではない。それに対抗し、大谷も5月6日のマリナーズ戦から変わってきました。フォーシームとフォークだけであれば二者択一で対応できないことはありませんでしたが、ここにスライダーが入って球種が3つになったことで、状況が劇的に変わります。

神事 相手チームには面倒なことになります。

丹羽 1968年はア・リーグの平均打率が2割3分7厘で、史上最低でした。このころ何があったのかというと、多くの投手がスライダーを投げられるようになったのです。それまでは速球とカーブの2球種でしたが、新たにスライダーも加わったことで打者が打てなくなりました。その話題についてイチローと話したことがあります。彼は「当時、スライダーがすごかったのではなくて、球種が3つになったことで相手の打者の対応が難しくなったのだろう」と推測していました。大谷が今回、フォーシームとフォークに加え、スライダーを多めに投げたことで打者が意識する球種が3種類になりました。

丹羽 左打者はこれから根本的に大谷へのスカウティングを変えていかないといけません。カーブもあります。左打者も4つの球種に対応しないといけなくなりました。68年当時のように、球種が1つ増えただけでも劇的に変わることがあります。

(4回目は4日付に掲載します)

 神事努(じんじ・つとむ) 1979年生まれ。国学院大学人間開発学部健康体育学科准教授。株式会社ネクストベース・エグゼクティブフェロー。元国立スポーツ科学センター研究員。博士(体育学)。投球されたボールの回転軸の方向や回転速度が空気力に与える影響について明らかにした論文で、日本バイオメカニクス学会優秀論文賞を受賞。スポーツサイエンスに基づいた支援を、チームや選手を対象に行う。女子ソフトボール日本代表のサポートを担当し、北京五輪での金メダルに貢献。2016年まで東北楽天ゴールデンイーグルスの戦略室R&Dグループに所属し、チームの強化を推進。現在は最新の「Pitch Design」のアドバイスを受けに多くのプロ野球投手が訪れる。
 丹羽政善(にわ・まさよし) スポーツライター。1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。大学時代から日之出出版でファッション誌の編集に携わる傍ら、米プロスポーツに興味を持ち、95年秋に留学。99年5月にインディアナ州立大学スポーツマネジメント学部を卒業。以来、シアトルに居を構え、大リーグや米プロバスケットボール、スノーボードなどを中心に取材。NHK BS-1で放送されている「ワールドスポーツMLB」にも出演している。著書に「夢叶(かな)うまで挑戦―四国の名将・上甲正典が遺(のこ)したもの」(ベースボールマガジン社)、「メジャーリーグビジネスの裏側」(キネマ旬報社)、「メジャーの投球術」(祥伝社)などがある。

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