2019年6月20日(木)

ワンビザの挑戦 不条理な送還、繰り返させない
(アントレプレナー)岡村アルベルト社長

2018/5/23 6:30
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オンラインで外国人向けのビザ申請支援を手がけるone visa(ワンビザ、東京・渋谷)。岡村アルベルト社長(26)は南米ペルーで生まれ、8歳のときに来日した。東京入国管理局で働いた経験を生かして、ビザの煩わしさを解消しようと起業した。原体験は自身の苦労と友人家族の強制送還だった。

■友人家族がいなくなった

岡村アルベルト社長 14年、甲南大学マネジメント創造学部を卒業後に東京入国管理局で窓口業務を担当。15年に退社し、レジデンス(現one visa)を設立。17年、ビザ申請支援サービスを開始

岡村アルベルト社長 14年、甲南大学マネジメント創造学部を卒業後に東京入国管理局で窓口業務を担当。15年に退社し、レジデンス(現one visa)を設立。17年、ビザ申請支援サービスを開始

岡村社長は「そのまま入国管理局に提出できる書類がスムーズにつくれる」とサービス内容に胸を張る。利用者は氏名や住所、勤務先といった情報を事前に入力するだけ。必要な情報がきっちり埋まった専用書類が自動的に出来上がる。英語にも対応している。

企業向けのサービスではビザ申請の進捗状況を確認できるほか、行政書士による代理申請にも対応している。足元の企業の顧客数は約180社で、そのうち3割が人手不足のなか外国人エンジニアの採用を急ぐIT(情報技術)企業だ。介護や小売業界でも利用が広がっている。

日本人の父親とペルー人の母親の間に生まれ、小学校1年のときに家族と大阪に移った岡村社長。当初は「日本語は全くできない状態」で、フィリピン人や韓国人の同級生と特別学級で日本語を猛勉強した。学校ではいじめにもあったが、「ペルーに帰りたいとは思わなかった」。

「外国人として日本で暮らすことのハードルを常に感じていた。少しでも同じような人の力になりたい」。そんな思いを抱いた原体験は小学校3年のとき。休みの日には南米コミュニティーに参加しキャンプなどに出かけていたが、ある日、仲良くしていた友人家族が集まりに来なくなった。

「キョーセーソーカン」。両親に理由を尋ねたときの答えだった。在留資格を更新するのに本国でしか収集できない書類があり、手配が間に合わなかったという。詳しい仕組みは分からなかったが子どもながらに「怖いこと」と知った。「きちんとした知識があれば、なんらかの解決策があったはず」と振り返る。

周囲とは違う人間だと感じながら育った。旅行するたびに、その都度ビザを取得する必要があった。出生証明書など大使館がある東京でしか発行されない書類もあり、学校を休み母親や兄弟と出かけることもあった。16歳のときに日本国籍を取得した際は、行政書士に依頼した費用が20万円以上にもなった。

こうした経験から、外国人に寄り添うような仕事をしたいとの思いが強かった。就職活動では大手IT企業から内定を得ていたが、入国管理局の窓口業務が民間業者に委託されたタイミングで受託先を就職先に選んだ。

東京入国管理局では2万件以上の書類を対応した。そこで日本語が流ちょうではない外国人が書類に苦労する姿を毎日目にした。窓口を開く前から整理券を求める外国人が長蛇の列をつくり、ようやく順番がまわっても書類の不備を指摘される。全部大文字で記入すべき名前を小文字を交えて書いてしまったり、ミドルネームを書く順番を間違えたりするなどどれも軽微なミスだ。

「本来なら2~3分で終わるが、間違いは二重線を引いてサインし、そのうえで正しい情報を書いてもらう」。その積み重ねがさらなる行列につながった。

■人種の多様性を競争力に

入社後4カ月で窓口業務の責任者を任された。責任者になったことで、他部門も集まる会議に出られるようになった。「もっと業務を効率化できる方法を提案できるのでは」と意気込み、改善点をリストアップ、プレゼン資料も用意したが、会議の議題は「職場の備品について」だった。

これはもう自分でやるしかない。15年に起業し、思いを形にするために走り続けている。

目下、1万社の利用を目標に掲げ中国語やベトナム語など多言語化を急ぐが、「ビザ申請だと一過性の利用にとどまってしまう」。サービスを定期的に利用してもらえるよう入社後の定着支援や退職の手続きなども一貫してネットで支援するサービスに広げる考えだ。

これまで独立系ベンチャーキャピタル(VC)のスカイランドベンチャーズやプライマルキャピタルなどから総額9千万円を調達した。今年から本格的に採用を始め、社員は6人に増えた。

目指すのは、日本を技術革新の推進国にすることだ。米国ではネット業界のトップや起業家の多くが移民。「異国に住むことでその国の当たり前を疑ったり、他国と比べたりする力を持つ。そこで新しいアイデアや価値が生まれる」

日本では外国人労働者の雇用が増えても、マイノリティーへの支援は後手に回りがちだ。「一人でも多くの移民が安心して国を行き来し、活躍できる環境を提供したい」。そう力を込める。  (駿河翼)

[日経産業新聞2018年5月23日付]

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