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FC今治、宿願のJ3昇格へ勝負の年

私がオーナーを務めるFC今治は2年目の日本フットボールリーグ(JFL)を戦っている。3月11日に開幕したファーストステージは第10節(5月20日)を終えた時点で4位(5勝2分け3敗の勝ち点17)にいる。今年はなんとしても宿願のJ3昇格を果たさなければならない。

攻め込むFC今治の桑島(右)。今年はJ3昇格を果たさなければならない

JFLはファーストとセカンド(7月7日開幕)の2ステージ制で争われる。各ステージとも16チームが1回戦総当たりを戦って、各ステージの優勝チームを決める。ステージの覇者は11月下旬から12月上旬にかけて行われるチャンピオンシップで雌雄を決する。勝った方が年間王者に、負けた方が2位になり、3位以下は両ステージの通算成績で順位をつけていく。

まずピッチできっちり答え出す

JFLからJ3に昇格するにはステージ優勝を果たせば2位以上が確定するので成績的には文句なしになる。それに加えて集客力(1試合平均で2000人超)や財務状況も厳しく問われる。FC今治の場合、集客や経営基盤に問題は少ないから、まずはピッチの中の戦いできっちり答えを出すことだと思っている。

「仏の顔も三度まで」というけれど、JFL新参者だった2017年に続いて今年もJ3昇格を逃すようだと、クラブ経営を圧迫する要素がいろいろ出てくることも覚悟している。撤退するスポンサーが出てきたら経営規模を縮小しなければならない。逆に昇格したらしたで、スポンサー料の値上げに伴い、「そこまでは出せない」と手を引くところが出てくるかもしれない。いずれにしても、金策には走り回らなければいけないわけで、練習を見にいく時間など今年はまったく持てていない。

チーム力は年々上がり、JFLではそこそこ力のある方だと思っている。とはいえ、トップチームの強化に大枚をはたいているわけではなく、個性的かつ傑出した能力を持つ選手がいるわけでもない。その中でどうやって勝ち点を積み上げていくか。チームを率いて3年目の吉武博文監督にとっても勝負のシーズンだと思う。

ファンと選手の交流も欠かせないイベントだ

「日本一、質の高い、小さなピラミッドをつくる」を合言葉に始めた「今治モデル」と呼ぶ育成システムの方は順調に稼働している。地道な巡回指導などの成果で、始めたころは1学年に100人もいなかった子供たちが今はどの学年も150~160人くらいいる。親子サッカーの様子を見ていても、子供たちのレベルは間違いなく上がっている。

愛媛県内で優秀な子は、やはりJ2の愛媛FCに集まるけれど、2番手や3番手の子は今治のアカデミーにくるようになってきた。近隣の四国中央市、新居浜市にも希望者がいる。始めた当初は地場のクラブチームに「選手を引き抜かれるんじゃないか」と警戒されたけれど、「今治全体で一緒に強くなっていく」という我々の考えを徐々に理解してくれるようになり、今ではFC今治が主体になって開催するトレセンに子供を送り出してくれるようになった。そういう意味でもこの3年でかなり周りとよい関係を築けたと感じている。

今治モデルの核になる「岡田メソッド」も昨年の終わりに一応の完成といえるレベルになった。

これまでも繰り返し述べてきたように、16歳までに骨の髄までメソッドを選手に落とし込み、そこから先は自由にやらせるというのが私の考え(今までの日本サッカーはこの順序が逆だった)。

「岡田メソッド」は昨年末、一応の完成といえるレベルになった

一応の完成というのは、メソッドの中心である攻守のプレーモデルやトレーニング方法、コーチングの仕方、適正なプロセスを踏めているかどうかを評価する方法などはしっかり整ったけれど、フィジカルやメンタル、GKのトレーニングなどのパートはまだ細部まで詰め切れていないからだ。

今のところ、このメソッドを育成年代の指導に用いているのは今治と中国の杭州緑城、香港のサウスチャイナだけ。その成果が表れるのはメッソドの中から子供たちが巣立つ7、8年先のことになるのかもしれない。

最近、サッカーの試合の解説で「プレーモデル」という言葉が使われるようになっているらしい。それで私も「これまで使われてきたプレースタイルという用語とプレーモデルは何が違うのか」と聞かれたりする。

FC今治のプレーモデルとは…

テレビや新聞、雑誌で解説者がどういう意味で使っているのかは私に知るよしもないが、今治の場合はプレーモデルを「哲学に基づいたスタイルを実現するためのプレーの原則を集めたもの」というふうに考えている。たとえば、ピッチを縦に5分割(5レーン)にしたとき、ある状況のとき、同一のレーンに味方の選手が複数入らないようにするという原則がある。アウトサイドのMFが一番外のレーンに張っていたら、サイドバックの選手は外から2番目のレーンにいるようにする。そういう原則を子供のころからしっかり身につけていけば、ピッチの中で判断やポジションに迷うような状況を確実に減らしていけるはずなのだ。

日本の指導風景で日常的に見かけるのが指導者が「原則」ではなく「状況」で指導する姿である。しかし「今の状況ではAというプレーをすべきだ」とコーチにいわれても、サッカーの試合はいろいろな状況が次々に起こるから、指導される側は「では、こういうときはどうするんですか」とわからなくなる。子供の場合は特に途方に暮れるだろう。

そういう悪循環を断ち切るために、状況で指導するのではなく、原則に当てはめて指導するというのがメソッドの肝だ。あくまでも原則にすぎないが、と注釈をつけながら。その原則を集めたものを今治ではプレーモデルと呼んでいる。

企業秘密に類するのであまり詳しくはいえないが、我々のメソッドには「基点」「動点」「ユニット」といった独自のコンセプトがある。言葉も「シャンク」とか「バレ」など自分たちで定義して新しくつくっている。

原則に基づいて行う指導には教える側にもメリットがある。たとえば、自分たちの試合を分析する際に「プレーモデルに対してどうだったのか」というゲームを見る"目"を与えてくれる。そこからいろいろなヒントを引き出して、チームと選手を伸ばしていく練習に役立てることができる。

私の知っている範囲ではバイエルン・ミュンヘンにもそこまで詳細なプレーモデルはないらしい。FCバルセロナは間違いなくあると聞いている。だからあのクラブはどんなに監督が変わっても、プレースタイルに共通の基盤があるように感じるのだろう。それはバルセロナというクラブに独自の哲学があることを意味している。

バルセロナの足元にも及ばないが、FC今治も実現したいサッカー(哲学)がある。そのためには「こういうプレースタイルでやろう」となって、そのスタイルを実現させるための原則としてプレーモデルをスタッフとともに議論し、実際にトレーニングで子供やトップチームに試しながら、一から構築してきたわけである。

おかげで、育成の練習を見ていたら、ユニホームを着ていなくてもすぐに「今治の子だな」とわかるようになってきた。トップチームのJFLの試合でもそうだ。サッカーを見始めた人でも、なんとなくでも「今治は他のチームとどこか違う」ということがわかっていただけると思う。

断っておくと、うちのクラブはバルセロナのマネをしているわけではない。どうやったら日本の選手はワールドカップ(W杯)のような国際舞台で勝てるのかを考えて、それには攻守にわたって局面局面で瞬時に数的優位をつくるしかないと考えて、今治発で実験しているだけだ。我々のやり方が絶対正しいかどうかはわからない。

春に日本サッカー協会の副会長職を辞めたのは肉体的にきついと感じることが増えたからだった。JFAの会長選挙の在り方をめぐり、国際サッカー連盟(FIFA)との交渉役までやることになるとは思ってもみなかったので本当に大変だった。

副会長を辞めて、FC今治の仕事もある程度は周りに任せて、駆け足の人生のスピードを少し緩めたかったのだけれど、上海で進めていたメソッド絡みのプロジェクトがつぶれてしまい、その穴埋めにさらに奔走する羽目になった。メソッドに対する中国サッカー界の関心は強く、6クラブくらいから引き合いがあった。その中で既に契約済みの杭州緑城と条件がかぶらない上海の会社をパートナーに選んだら、向こうのごたごたに巻き込まれておじゃんになったのだった。

死に物狂いで乗り越える覚悟

今までは調子に乗って強気、強気できたけれど、今年は経営者として勝負どころだと思っている。本当に死に物狂いで乗り越えないといけない。ベンチャーは起業から5年以内で9割がつぶれるというが、この1年を乗り越えられたらFC今治もある程度の目鼻がつくと思っている。

J3に上がったら、次に視野に入るのはJの仕様に耐えうるスタジアムの建設計画になる。今治で1万~1万5千人収容のスタジアムを建設し、しかも、健全に運営していくとなったら、スタジアム単体では難しいと思っている。試合日以外もにぎわいのある場所にするための用意周到なプランを練っていかなければならない。そんなことを四六時中、考えているせいか、J3に上がることが今の私には一番簡単そうに思える。

(FC今治オーナー、サッカー元日本代表監督 岡田武史)

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