あの人が似合うものが、あなたに似合うとは限らない
ファッションプロデューサー 五十嵐かほる

「お店の人が着ていて格好良かったから、一式購入しました」「雑誌で見て買っちゃいました」といった話をよく聞きますが、はい、それアウト! 実は、顔の形と骨格体形によって、似合うシルエットや柄、素材などが異なります。このため、必ずしも他人の似合うものが自分に似合うとは限りません。「自分に似合うものを知る」には「自分自身を知る」ことが必要です。「装い」は、いわばプレゼンテーション。「見せたい自分」になるための自己演出の技をお伝えします。
「良いものを買ったはずなのに、何だかあか抜けない」とか「女性からセンスを褒められたことがない」と嘆く人の多くが、「自分と物との相性」を考えずに洋服を選んでいます。相性を知るには、自分の魅力を知ることです。日ごろから自分自身を客観的に見つめ、どんな顔の形をしているのか、体形や肌の質感、全体的な印象など、まずは「今まで意識していなかったことを意識する」ことから始めましょう。
無意識だったものを意識していくうちに、これまで洋服を漠然と選んでいたり、流行や好みだけで選んでいたりしたものが「自分に似合うもの」という視点で選べるようになります。そして、自分と物の相性を知ることで、自分をよりすてきに見せるための美意識を形づくることにつながっていくのです。
■己を知り、「似合う」を見つける
顔型、体形、テイスト(個々人の持ち味)、色などによって人に与える印象には違いがあり、さらに身長と肉づき骨格の特徴から人に与える印象は細分化されます。
自分の外見の特徴が他者にどのようなイメージを与えているのかを、まずは理解しましょう。その上で、特徴を生かす、あるいは目立たせないように「さりげなくごまかす」ためのメソッドを身につけましょう。
そのためにはまず、自分自身の顔の形を理解する必要があります。なぜなら、洋服(トップス)のネックライン(襟ぐりの形)ヘアやスタイル、眼鏡、帽子まで、すべての相性が顔型に左右されるからです。
例えば、顔幅のある人がジャケットのラペル(下襟)幅の細いものを着ると、顔が大きく見えてしまいます。面長顔の人がジャケットのラペルのゴージ(上襟と下襟を縫い合わせた部分)の位置の低いものを着用すると、より顔が間延びした印象になってしまいます。また、顔幅の細い人がワイドスプレッドカラー(襟羽の開きの角度が大きい襟)のシャツを着ると、頼りない印象に見えてしまうのです。このように、自分が望んでもいないような印象を生みかねないからなのです。
■代表的な顔型は6種類
人の顔型はその特徴によって、大きく2つに分類することができます。曲線的で丸みを帯びた輪郭をもつ「女顔系」と、直線的でシャープな輪郭をもつ「男顔系」です。さらにそれぞれを3つに細分化、計6種類が代表的なものとなります。
理想の顔の形とされるのは卵顔で、顔の横(左右の頬骨の外側までの長さ)と縦(額=髪の生え際=から顎までの長さ)の比率は、ほぼ「黄金比」の 1対1.6 。美容業界や美容整形の世界でもこれを基準の数値にしているようです。
日本人の女優にはきれいな卵顔の人が多かったのですが、最近では四角顔が増えています。オードリー・ヘップバーンのベース顔やグレース・ケリーの四角顔など、意志が強そうな外国人女優の人気が影響しているのでしょうか。ただ、ここ2、3年は有名モデルのミランダ・カーのような丸顔が人気です。顔の形にも流行があるのです。
以下、それぞれの顔型の特徴をみてみましょう。
《女顔系》
(1)卵顔
卵を逆さにしたような楕円形
人に与える印象:品が良い、調和的、控えめ、個性に欠ける
例:元SMAPの木村拓哉さん、俳優の佐藤健さん
(2)丸顔
顔の横縦の長さの比率は 1対1(またはそれに近い値)
人に与える印象:健康的、若々しい、かわいらしい、親しみやすい、幼い
例:嵐の桜井翔さん、俳優の藤原竜也さん
(3)面長顔
顔の横縦の長さの比率は、卵顔より縦が長い
目と目の位置が近く、鼻が長く頬の空間が縦に長い。顎下が縦に長い場合も
人に与える印象:落ち着きのある、優しい、物静か、老けている、間延びしている
例:俳優の長谷川博己さん、サッカー選手の本田圭佑さん
《男顔系》
(4)四角顔
顔の横縦の長さの比率は 1:1(またはそれに近い値)で、えらが張っている
えらの位置が低く、口角の延長線上より下の位置にある
人に与える印象:快活、バイタリティーがある、健康的、知的、頑固
例:ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手、タレントの土田晃之さん
(5)ベース顔
顔の横縦の長さの比率は 1対1.6(またはそれに近い値)
えらが張っていてホームベースのように顎の角度が四角顔より尖っている
えらの位置が四角顔に比べて高く、口角の延長線上付近にある
人に与える印象:意志のある、スポーティー、負けず嫌い
例:俳優の渡辺謙さん、野球解説者の桑田真澄さん
(6)逆三角形顔
顔の横縦の長さの比率は 1:1.6(またはそれに近い値)で、えらがなく、顎が尖っている
人に与える印象:都会的、シャープ、知的、若々しい
例:元SMAPの中居正広さん、俳優の竹内涼真さん
もちろん、曲線と直線両方の要素を持つ人も多くいて、「ミックス顔」と呼んでいます。丸顔でえらの張った人の顔の場合は「丸顔とベース顔のミックス」となります。例えば、俳優の阿部寛さんは「四角顔×面長顔」、俳優の松坂桃李さんは「逆三角形顔×面長顔」です。特徴がより際だった部位をチェックしてみるとわかりやすいでしょう。
また、顔の形に加えて、自分の顔の幅も把握しましょう。「額が横に広い」「左右の頬骨の外側までの長さ(横の)が長い」「顔の余白が大きい」といったそれぞれの特徴によっても印象がかなり違ってきます。顔の大きい小さいにも関わってきます。ちなみに日本人の顔の大きさの平均値は下記の通りです。

平均値のため、身長の高低に対する比例は無視されていますので、あくまでも目安としてください。
全身が映る鏡を用意して、正面を向いて自撮り、または、鏡を見ながらチェックします。体形がよくわかるように薄着で。
(1) 真っすぐ正面を向く
(2) 前髪は上げるか、耳に掛けるなどし、顔の形がはっきりわかるようにする
(3) 顎を上げない、下げない
(4) 笑顔ではなく、真顔で
(5) 撮影する際は、床とカメラが水平になるように撮影すること
ポーズを取ったり、斜に構えたり、上から俯瞰(ふかん)したり下からあおったりしない
■代表的な体形は4種類
続いて体形についてみてみましょう。代表的な体形は以下の4つに分類されます。
(1)マッスル
筋肉質でがっしりした体形
人に与える印象:頼りがいのある、重厚感、むさ苦しい
(2)オーバル
ふっくらとした体形で肥満度をあらわすBMI*が25以上ある
人に与える印象:おおらか、安心感、包容力のある、暑苦しい
*BMI(ボディー・マス・インデックス)とは、身長に対し望ましい体重を判定する指数で、算出方法はBMI指数=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
(3)ストレート
太ってもいない、痩せてもいない、すらりとした体形
人に与える印象:精悍(せいかん)、スマート、軽快、個性的ではない
(4)スリム
やせ形で、ひょろっとした体形
人に与える印象:中性的、若々しい、頼りない
紹介したこれらの体形に当てはまらず、複数の体形の特徴が認められた場合は、特に近いと思う体形を2つに絞りましょう。
なぜ体形を明確にするかというと、体形に合うスーツを着用することが自身を引き立てるコツだからです。例えば、小柄な方は「身体を大きく見せたい」、体格の良い方は「お腹を目立たせなくない」と思いがちなものです。このため、どちらも大きめのサイズを選ぶ傾向が目立ちます。実はこれが逆効果となってしまうのです。
正しいスーツの選び方は、身体にフィットしたサイズを選ぶことです。体形は常に変化しています。思い込みでサイズを選ぶと残念な結果となってしまいます。必ず採寸してもらうことをお勧めします。

体形を把握することで、スーツのジャケットのボタンを3つボタン、2つボタン、1つボタンにすべきなのか、シングルとダブルブレストのどちらが自分を引き立てるのかを見極めることができます。
また、体形の全体感だけでなく、足の長さも把握しておきましょう。足を長く見せるために、ジャケットのベント(裾の切れ込み)を中央のセンターベントにすべきか、両脇のサイドベントが良いのか、はたまたノーベントにした方が良いかがわかります。
人の目は簡単にだまされやすいものです。大きいものを小さく見せたりする「ミュラー・リヤー錯視」や、同じ大きさの円であっても、周りを大きな円で囲まれていれば小さく、小さな円で囲まれていれば大きく見える「エビングハウス錯視」などを駆使することで、自分自身を演出して「見せたい自分」になることは決して難しいことではないのです。

スタイルファクトリー社長、パーソナルスタイリスト協会代表理事。武蔵野美術大学短期大学部卒、全日本空輸で国際線客室乗務員として勤務した後、独立。エグゼクティブを中心にしたスタイリングやファッションプロデュース、研修などを手がける。著書に「桁外れの結果を導く 一流の男の演出力」など。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
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