2018年9月24日(月)

イラク連立協議開始へ、反イラン・反米のサドル師派が軸に

2018/5/20 18:00
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 【カイロ=飛田雅則】イラク総選挙の結果確定を受けて、連立政権に向けた協議が始まる。第1党となったイスラム教シーア派有力指導者サドル師の勢力はスンニ派などに連携を呼びかけ、国内融和を目指す方針だ。ただ同師が批判してきた隣国イランの巻き返しも予想される。協議が難航すれば、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討後の国土復興の歩みを遅らせかねない。

 イラクはおよそ6割のシーア派、2割のスンニ派、2割のクルド人などが暮らす「モザイク国家」だ。2003年のイラク戦争後、米国の後押しを受けたシーア派が政権を握ると宗派間の対立が強まり、冷遇されたスンニ派の不満を吸収したISが台頭した。

 ISはシーア派への対立感情をあおったが、イラク第2の都市モスル出身のスンニ派のガーニム・ホデイルさん(65)は「同じイラク人同士がいがみ合っても仕方ない。復興に向けて協力する時だ」と強調する。

 過去には異なる宗派間の結婚も普通だったイラク。いがみ合いを終わらせて復興に向かいたいという声が、宗派や民族を超えた連携を強調したサドル師が率いる政党連合の躍進につながった。

 シーア派のサドル師は17年、スンニ派の盟主を自認するサウジアラビアを訪問し、実力者ムハンマド皇太子と会談した。スンニ派の国民に融和を呼びかける象徴的な動きと受け止められている。

 ただサドル師派も単独過半数は獲得できなかった。国会の最大勢力から首相を選出するとの憲法の規定から、各政党連合は多数派の形成に向けた連立協議に入る。

 第2党となったイランの支援を受けるシーア派民兵組織の司令官だったアミリ元運輸相や、第3党のアバディ首相の政党連合などとの話し合いになる見通しだ。「イランや米国の介入がイラクに混乱をもたらした」と批判してきたサドル師は、同じくイランとバランスをとろうとしているアバディ氏やスンニ派、クルド系との連携に前向きな姿勢を示している。

 総選挙に出馬していないサドル師自身は首相になれないため、アバディ氏が続投する見込みもある。サドル師は「イランの影響下にあるアミリ氏らとの交渉で妥協はしない」と強調し、政治・軍事の両面で影響力を強めるイランをけん制する。

 イランの最高指導者の顧問は16日、「イラク国民がどんな人物を選んだとしても良いことだ」と語った。だが水面下では既に革命防衛隊の精鋭部隊を率いるソレイマニ司令官をイラクに派遣し、連立交渉に介入する構えを見せている。

 英王立国際問題研究所のレナード・マンスール氏は「イラクの軍や情報機関に深く浸透しているイランの影響力を排除することは難しい」とみる。

 サドル師と対立する米国はアバディ氏を使って影響力を残そうとするなど、各勢力の思惑は交錯している。14年の総選挙後は首相指名まで3カ月ほどかかった。交渉が長引けば、統治が機能不全に陥り、復興が遅れかねないとの懸念もある。

 イラク北部のクルド人自治区アルビル。郊外にはISに追われた約1500人が暮らす難民キャンプがある。さらに街には激戦地だったモスルなどから逃れて来た多くの人が暮らしている。

 「一日も早くふるさとの街でダンスを披露したい」。ベリーダンサーのサブリーン・バラアさん(39)はモスルへの帰還を心待ちにしている。

 イラクは復興に必要な金額を約880億ドル(約9兆6千億円)と見積もる。イラクの歳入の約9割を石油関連が占める。原油価格が上昇傾向にあるのは追い風だが、歳入すべてを復興に充てられる訳ではない。

 国際支援が不可欠だが、2月にクウェートで開かれたイラク復興国際会議で集まった援助額は約300億ドルと低調だった。中東からの参加者は「汚職で資金が有効活用されない恐れがある」と指摘し、これまで政権を担ってきたアバディ首相が有効な汚職対策をとらなかったことが一因との見方を示した。

 サドル師の勢力は汚職撲滅を掲げ、選挙で躍進する原動力ともなった。統治能力を備えた連立政権を樹立できなければ、復興財源の確保もおぼつかないままだ。イラクの混乱が長引けば、中東の安定も一段と遠のく恐れがある。

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