2019年8月20日(火)

バス黒字化 8社オーライ みちのり流再建術

2018/5/20 6:30
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赤字に苦しむバス会社を相次ぎ傘下に収める新興企業がある。みちのりホールディングス(HD、東京・千代田)だ。2009年の設立以来、買収したバス会社は実に8社。経営陣には旧産業再生機構の冨山和彦氏らが参画し、路線の再編や合理化策を推し進める。赤字だからといって買収後に合理化して売却するという単純な方法とは一線を画した再建手法に迫った。

東北・北関東のバス会社を次々に傘下に収める

東北・北関東のバス会社を次々に傘下に収める

3月31日、福島県会津若松市にレトロなバスがお目見えした。全国的に珍しいボンネットバスの「ハイカラさん」だ。みちのりHDの会津バス(会津若松市)が運行する市内周遊バスだ。

■合理化ひと工夫

投資額は数千万円と高額。しかも、定員は路線バスよりも少ない。集客に苦戦するバス会社が目立つなか、王道で言えば量産車を選択するところ。なぜ多額の投資をしたのか。みちのりHDの関係者は「ドラスチックな経営改革だけでは、地元からの理解が得られない」と打ち明ける。

今回のボンネットバスは2代目。初代は三菱ふそうトラック・バスの改造車を採用し、01年から運行を始めていたが、老朽化で継続困難に。だがボンネットバスは地元から支持を集めていただけに、量産車に切り替えるわけにもいかない。

福島県会津若松市で走る「ハイカラさん」

福島県会津若松市で走る「ハイカラさん」

そこで、みちのりHDはまず宮城県の製作会社を探し出し、マイクロバスをボンネット型に改造することに決定。ボンネットバスにするため、運転席は従来の1.5メートル後ろに。座席数は18と初代よりも6席増やし、運転効率を高めた。

工夫した合理化策はほかにもある。傘下の岩手県北バス(盛岡市)などが岩手県八幡平市で実施した路線網の再編。市内では以前、路線バスや無料通院バスなどが走っていたが、それぞれが目的別のため、空席も目立っていた。そこで目的別バスを廃止し誰でも利用できるバスに集約した。

結果、バス利用者は以前と比べ1千人増。営業利益も約2倍の500万円に増えた。補助金に頼らざるを得ない路線バス事業は一連の改革案を実行したことにより、市の負担額は4200万円と、900万円減った。

グループ最高経営責任者(CEO)の松本順氏は業界参入の狙いを「バス会社に資金を入れ、再び成長に挑める状態にしていくことだ」と話す。全国のバス会社の6割強が赤字といわれるなか、こうした合理化ができるバス会社は多い。

乗り合いバス事業者の6割強が赤字

乗り合いバス事業者の6割強が赤字

松本氏がバス経営で重視する指標がEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)。これを毎年必要な設備投資額を上回る水準にまで引き上げる。サービス向上のため車両更新やバスのIT化などを進める必要があるからだ。そこで、これまで示してきたような全社的なコスト削減に着手。その結果、ほぼ全ての傘下会社がこの基準を満たすようになったという。傘下の茨城交通(水戸市)は路線バスの単体事業だけで黒字を確保できるまで改善。松本氏は「みちのりHDは増収増益基調にある」と強調する。

■バス停に送信

そして次世代型のバス事業へと脱皮すべく、今はあらゆるモノがネットにつながる「IoT」を使った付加価値型へとカジを切る。経営改革は第2段階に移りつつある。

例えばバス停の時刻表。半年ごとのダイヤ改正の際、従業員はバス停の時刻表を逐一、張り替えている。そこで会津バスは2月から1年間、バス停に時刻表をデータ送信する実験を開始。IT対応のバス停を2カ所導入した。みちのりHD全体でバス停は1万7000カ所あるため、実用化すれば大々的な人手による作業が不要になる。

IoTの導入は運転手の人手不足問題の解決にも貢献しそうだ。茨城交通は1月から、ベテラン運転士のハンドル操作などをカメラ撮影し始めた。パイオニアと連携してデータ収集、将来のバスの自動運転に備える。

みちのりHDが経営上、他社と大きく異なるのはグループの規模感だ。修繕費では各社共通の部品を購入でき、費用の削減効果が得られる。基礎体力をつけ、IoTでコストを削減すれば経営体質も筋肉質になる。

バス会社の成長株となりえるのが高速バス事業だ。一般的に高速バスは全国で年間1億900万人が利用するなど、飛行機の国内線よりも多い。

そこで、みちのりHDの場合は、グループ規模のメリットが生きてくるのだという。松本氏は「バス会社は地続きの利点を享受しやすい」からだ。どういうことか。

福島交通の名古屋行き高速バスは宇都宮にも立ち寄る

福島交通の名古屋行き高速バスは宇都宮にも立ち寄る

例えば福島交通が開設した郡山―名古屋の高速バス路線。全国的にも珍しい路線だが、同社は宇都宮にも立ち寄るようにした。これが実現できたのはみちのりHDが12年、宇都宮が地盤の関東自動車を買収したことがある。宇都宮からも客を乗せられるようになり、収益も拡大した。

松本氏は「(親会社の)経営共創基盤は投資ファンドではないのでイグジット(出口戦略)も求められていない。我々は持続的にバス事業に取り組んでいく」と話す。

成長戦略の1つがグループ規模の拡大。バス事業は陸続きの性格を帯びているため、現在のみちのりHDの営業地盤である東日本地域ならば買収を検討していくという。

バス以外にも鉄道や地方空港など赤字経営に苦しむ公共事業体は少なくない。みちのりHDの取り組みで参考にできる点は何か。まずは同社は買収会社とコミュニケーションを綿密に取り合っていることだ。

傘下のバス会社とはビジョンを共有する(茨城交通のバス)

傘下のバス会社とはビジョンを共有する(茨城交通のバス)

担当者が傘下企業を訪問し、経営ビジョンの共有や人事制度の改善、営業企画などの分野を話し合う。茨城交通の担当者は「グループの先進事例も紹介してもらえる」と話す。あとは社員の評価制度だ。茨城交通の場合、評価項目に後輩らへの指導状況も加える。社員の意識を高めることでサービスが改善し、バスに注目してもらえる機会も増えるのではないかと期待を寄せる。

一方、経営共創基盤は民営化を予定する南紀白浜空港(和歌山県)の運営事業者について、県から優先交渉権者に選ばれたばかり。バス会社の再建で培ったノウハウを空港運営に生かせるかが注目される。(企業報道部 岩本圭剛)

[日経産業新聞2018年5月18日付]

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