2018年9月24日(月)

仮想通貨から学ぶ危険
(WAVE) 瀧俊雄氏

コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/5/18 7:00
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 仮想通貨の存在感に改めて圧倒されている。国内の仮想通貨取引の顧客数は若年世代を中心に累計で350万人を数えた。今年の新卒社員に聞けば半数が仮想通貨の口座を保有している。採用活動でも、マネーフォワードは使わないがビットコインは持っている学生に度々出会う。

マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長。野村証券で家計行動、年金制度などを研究。スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスの企画部門を経て、2012年にマネーフォワードの設立に参画。

 一方で、新卒以外の当社社員で仮想通貨を持っている比率は1割程度。資産運用に詳しい友人の感覚では5%くらいであった。限られたサンプルだが、いわゆる金融リテラシーを持った人がこぞって手を出しているわけではない。

 2017年に至るまでの価格高騰、18年に入ってからの流出事件など、仮想通貨が注目を集める理由を挙げ始めればきりがない。ほとんどの仮想通貨は、利息や配当がもらえるわけではない。適正価格を理論的に計算する方法がなく、もっぱら値上がりを期待する類の資産である。

 資産運用の王道的な理論からすれば、仮想通貨は危険極まりない位置づけとなるが、保有者がどんどん増えるのを見るに、日本人は「貯蓄から投資」には進まなくても「貯蓄から投機」には進んで身を投じるのだな、と感じさせられる。

 経済学では、危険性がある状況をリスクと不確実性に区別して分析する。リスクとはじゃんけんやポーカーのように、限られた出し手やカードの中から、何が起きるかの大まかな予測が成り立つ世界だ。リスクの分散や相殺、そしてある程度までの失敗を許容することで、その管理ができる。説明を尽くせば会社もリスクが取れるのはそのためであり、むしろリスクを取らないことこそが悪ともいわれるゆえんである。

 一方で不確実性とは何が起きるかわからないような状況を指す。シナリオも価格理論もない仮想通貨は、不確実性そのものともいえる存在で、管理方法もまた定義することができない。そのような対象への投資を好んで行う、つまり不確実性を積極的に欲しがるようなシチュエーションは、なぜ生じるのだろうか。

 一つの仮説は、損失回避のため、いつもよりも危険な選択肢を取りたくなる人間の習性である。プロスペクト理論と呼ばれるこの傾向は、追い詰められた人の意思決定の仕方を見れば確かに納得がいくものがある。だが、追い詰められてもいない若者たちはなぜ仮想通貨を買うのか。

 案外、私たちは危険を「サービス」として欲しているのかもしれない。合法的に「危険」を買うことができるのなら、ゾクゾクするような、まだ見知らぬ自分に出会えるような感覚が生まれないだろうか。ギャンブルやバックパッカー旅行、恋愛のように、どうなるか分からないし、行き着く先に無残な(ほろ苦い)損失があるかもしれない。けれども、そうなった後の自分に出会ってみたい感覚が人を危険に向かわせる。

 世の中では顧客本位のサービスを求める声が隆盛である。だが、そこでリスク回避的なだけの個人を想定するのは本当に正しいのか。極端に言えば、危険を求める顧客に対しては、何のサービスを提供すればよいのだろうか。このような議論を断ち切らずに、しっかりと考えることこそが、私たちが仮想通貨から学ぶべきことではないだろうか。

[日経産業新聞 2018年5月17日付]

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