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大阪舞台に小説 よさ発信 作家 有栖川有栖さん(もっと関西)

私のかんさい

 ■犯罪学者が謎解きで活躍する「火村英生シリーズ」など、多くのミステリー小説を生み出してきた作家の有栖川有栖さん(59)。大阪市で生まれ育ち、地元から離れたことがない。

 ありすがわ・ありす 1959年大阪市生まれ。同志社大法卒。89年「月光ゲーム」で作家デビュー。「マレー鉄道の謎」「ダリの繭」など著書多数。2018年、火村英生シリーズが第3回吉川英治文庫賞を受賞。大阪で小説家を育成する創作塾の塾長も務める。

生野区の下町で育った。父親が営む町工場に自宅があった。本棚に文学全集が並ぶような家ではなかったが、シャーロック・ホームズや江戸川乱歩などの推理小説にはまった。小学5年生でわら半紙に書いた「虹色の殺人」が初めての作品。当時、周囲で漫画を描くことは流行していたが、小説は誰も書いていなかった。「学校で一番になれる」と思った。

その頃から小説家志望だったが、新聞記者にも興味があった。小学校で新聞部の部長を務め、公害問題について町工場や保健所に取材して回るなど活発だった。だが中学生になる頃には思春期らしく内に籠もるようになり、ミステリーの世界にのめり込んだ。

大学は京都市の同志社。大阪から離れるのが嫌で、電車で2時間かけ通った。車内で本が読めたから、通学は苦にならなかった。サークルはもちろん推理小説研究会。機関紙で仲間に作品を読んでもらい、小説家志望の念を強めた。ペンネームは大学近くの有栖川宮邸跡の碑を見て思いついた。京都らしいし、「不思議の国のアリス」にもちなむ。ミステリー作家らしいと考えた。

 ■大学卒業後、大阪に本社があった書店チェーンに就職。1989年「月光ゲーム」で念願の作家デビューを果たす。

小説家になるため"長期戦"も覚悟していたので、本当にうれしかった。デビュー後も商品発注などの仕事の傍ら、寝る時間を削って書いた。体力的にきつかったが、事情を知る同僚や取引先は見守ってくれた。本社が東京に移転するのを機に退社し、専業作家になった。上司から「編集者のいる東京の方が有利だ」とも言われたが、大阪を離れる気は無かった。

大阪を囲む兵庫、京都、奈良、滋賀、和歌山。どれをとっても自然が豊かで、独自の文化が蓄積されている。"当たり"の土地ばかりだ。すぐ訪れることもできる。こんなラッキーな都道府県は日本中探しても大阪だけではないか。

子供の頃から親しんでいた江戸川乱歩の書庫を訪問(2000年、東京都豊島区)

 ■作品の舞台の多くは関西に設定。2017年度の「大阪ほんま本大賞」を受賞した「幻坂」は大阪の上町台地に実在する「天王寺七坂」を取り上げた。自身にとって新境地の怪談ものであり、大阪を掘り下げる意味でも挑戦だった。

推理作品で犯行が起きる場面は、土地勘がある方が書きやすい。小説は東京を中心としたものが多いが、これまで舞台になっていない関西の街や風景を書けることはメリットだと捉えている。東京の作家は「新宿」や「下北沢」などの地名を何の説明もなく使う。作家になった当初は「地元の地名を紹介もなくぶつけ返してやろう」との思いがあった。

しかし「幻坂」では、大阪から離れたことがない作家として「大阪をちゃんと紹介してみよう」と考えた。子供の頃、生野区から難波の繁華街に出る坂道に興味を持っていた。通学していた上宮高校も上町台地にあり、ずっと心引かれる場所だった。

ある坂は織田作之助ら文豪にゆかりがあり、他の坂は菅原道真や真田幸村と関わりがある。また別の坂は聖徳太子。坂を使って古代から近現代まで連綿とストーリーを並べることは、京都にだってなかなかできないかもしれない。

「大阪のおばちゃん」という言葉が親しみを込めつつも揶揄(やゆ)のニュアンスを含むように、大阪は不当におとしめられている。大阪の人たちもそれを自虐的に利用してきた面は否めない。「大阪ってこんなにええとこ」と単純に言っても響かない。だからこそ、大阪を舞台にした作品を粛々と出していきたい。そのためには、今より10倍腕を上げなければと気を引き締めている。

(聞き手は大阪・文化担当 西原幹喜)

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