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気になる重いランドセル 姿勢にも走りにも影響

ランニングインストラクター 斉藤太郎

子どものランニング教室では走ること以外に、バレーボールで使うようなボールを投げる、捕るといった要素も取り入れています。うまくボールを投げられない、キャッチできない子が増えているのは確かです。その中でも最近感じている傾向は、腕を大きく後ろへ引けないことです。この問題はランニングで腕を引けない、腕振りのエネルギーを足運びに生かせない事態と密接に関わってきます。今回はこのあたりについて考えていきたいと思います。

なぜ腕を大きく引けないのか

腕を大きく後ろへ引けない子どもたちが増えているようだ

腕を大きく引けないことについて考えたきっかけは、小学4、5年生でも左右どちらかの手で投げることができず、両手でぎこちなく投げる子がいたことです。どうしてなのか、その原因を探るために注意深く観察をし、たどり着いた結論は以下のようなものです。

・体の前側は、鎖骨周り、肋骨あたりも含めて硬い

・体の後ろ側は、肩甲骨周りに背中と全般的に硬い

こんなふうに上体ががんじがらめになっていました。体の垂直の線より後ろ方向に腕を引きにくいため、バレーボールで使うような大きさのボールを片手では保持できず、両手で持たざるを得なくなるのです。

片手投げができる子でも腕を大きくは引けない。投げ方を習っている子でも手先のスナップ動作に興味が向いていて、肝心な腕の付け根が固まっているケースが少なくない。そんな印象を受けます。

腕の付け根部分の硬さをチェックする方法があります。あおむけに寝ます。両腕を伸ばしたまま、耳の近くで万歳してみてください。腕が浮くことなく床につくようでしたら大丈夫です。腕が浮いてしまう人は、前述した部分が硬くなっています。

クラブの練習会のウオームアップでは、あおむけに寝て、上記と同じ体勢で深呼吸をします。万歳をしているだけで体の前面が伸ばされ、腹筋のテンションが増して意識しやすくなります。伸ばされているものを、今度は縮める。腹筋を収縮させながら息を深く吐く感覚を研ぎ澄ますのに効果的です。

あおむけストレッチでは体の前面が伸ばされ、腹筋のテンションを意識しやすくなる

ボールを投げる際にはピッチャーの投球モーションのように、肩甲骨が後ろに外れるような形で二の腕と肘を引きます。この「ため」をつくった状態から、腕を前へとスイングします。もちろん腕だけではなく、体幹部分と股関節を連携させ、胴体と腕で「C」のラインを描きます。ある講習会でやり投げの先生に教わったのが、この「C」ラインをつくる2人組ストレッチです。

正面を向き、ボールをリリースする直前のモーションで指の先を、補助する人の指先とかみ合わせます。投げたいけれど引っかかっていて動かない。力が釣り合った状態です。腹筋や胸の筋肉を伸縮させて投げようとすることでストレッチになります。

このあたりが緩んでくると、腕を後ろに引きやすくなります。片手でボールを投げられるきっかけになると思います。ランニング時には、しなやかに力強く腕を振れるようになるのではないかと思います。

プロ野球投手のクセ

ピッチャーが球種のクセを見抜かれてしまった話を聞きました。その区別のポイントはどこだったかというと、2桁の背番号の間にシワが寄るか寄らないかだったそうです。ラジオで解説の方が話をされていました。ユニホームにシワが寄るくらいに肩甲骨が動いている。背骨を中心軸として、体の左右をやわらかく使い分けての投球パフォーマンスなのだろうと思いました。

ところで先日、今季1勝目を挙げた中日の松坂大輔選手を紹介した朝日新聞の紙面では、西武時代のプロ初勝利(1999年)の写真が併せて掲載されていました。今のフォームも見事ですが、私が興味を持ったのはプロ1勝目の写真でした。専門外の私が見ても、「怪物」といわれていたあのころの上体の使い方は、こんにゃくのようにしなやかだったのだと思える1ショットでした。

ランドセルの影響

一番下の子がこの春からランドセルを背負って小学校に通いだしました。1週間くらいして気づいたのは姿勢の崩れです。理想のシルエットは、横から見ると背骨全体が「S」の字を描きます。腰椎が前にカーブすることで骨盤が前傾し、楽に垂直に立つことができます。ところが、我が子は腰椎のカーブが失われ、真っすぐになってしまっていました。上体については鎖骨周りが縮こまったように固まっていて、猫背姿勢になりかけていました。間違いなくランドセルの影響です。

窮屈な姿勢で仕事を頑張った一日をリセットするためのストレッチを習慣づけるのが大切

背が小さくて、これまではほんの少しの荷物を持ってバスで通園していた子が5キロくらいはあると思われるランドセルを背負い、片道約2キロを歩いて通学しています。「鍛えられていい」と話す方もいますが、弊害の方が大きいでしょう。小さい子がこれだけ重い物を長時間背負えば骨格のバランスが崩れます。崩れた骨格で歩くと非効率的な筋肉の発達を助長し、本来発達すべき筋肉は置き去りにされます。その結果、非効率的な体形になってしまう懸念があります。

ランドセルの重さゆえ、腕を大きく振ることができません。腕振りの動力が背骨を伝って骨盤の回旋につながり、脚が動く。そうした本来あるべき体の連動は一切失われます。骨盤周りや脚の付け根も固まって機能しなくなるため、極端にいうと、ももとふくらはぎの筋肉だけで歩く動作に体が慣れてしまい、脚の筋肉肥大が起きることになります。

だからといって、直ちにランドセルを軽くしろというわけにもいきません。よって、せめてお風呂上がりにでも一日の頑張りをリセットするストレッチをしてあげるなどのケアが効果的かと思います。学校に着いたらランドセルを置いて、深呼吸や体操でもする習慣があるといいのですが。

週5日の登校では一日の授業数が多く、ランドセルが重たくなる要因になっているそうです。高学年になるとランドセルが10キロを超えることもあるという話も聞きました。習慣を変えられないことは仕方がありませんが、それによる体形の崩れを修正してあげないと、ランニング時に腕を振れないだけでなく、体の成長に悪影響をもたらすことになります。少しでも負担を減らすためにも、一番近くにいる家族がいろいろな手立てでいたわってあげたいところです。

大人のランナーの傾向

大人の指導では上体の硬さに加えて、このところ下半身の硬さを顕著に感じています。骨盤から先の脚を後ろ方向にスイングできない方が多いのです。骨盤が前傾して大腿骨が後ろにスイングされれば、腸腰筋が引っ張られた反動で縮みます。このメカニズムを左右交互に利用することで、走る効率が高まるのです。

脚を後ろにスイングできないと、ももを前に持ち上げるという筋肉の使い方で走ることになります。この仕組みを腕に置き換えると、重たいダンベルを持って肘を曲げ伸ばしする動作に似ています。毎回ものすごいエネルギーを使って持ち上げます。二の腕の筋肉はすぐにパンパンになり、疲弊します。そんな非効率な足運びなのです。

こういう足運びは骨盤、おなか、あばらといった部分がカチンコチンに固まってしまっていることが大きな原因だと考えられます。指導の経験上、硬い上体をほぐしてあげると不思議なことに色々な部分が連動し、骨盤周りが動くようになってきます。

今回私が推奨したいのは、まずは上体をほぐすこと。仕事を終えた後、上半身をほぐしてから走り出すなどの配慮や、窮屈な姿勢で仕事を頑張った一日をリセットするストレッチの慣行が大切です。気温が高くなってくる時期だからこそ、体の改善ができるはずですので、ぜひ取り組んでみてください。

<クールダウン>目標や目的は人それぞれ
 先日、子どもと「アクアリンクちば」というアイススケート場に行きました。そこは平昌五輪後のブームを明らかに感じる混雑でした。リンクでは氷の上を時計と反対回りにおのおののペースで滑っています。おしゃべりをしながらのんびり滑る人がいる一方で、群衆をスラロームで追い抜いていく上級者もいます。
 ランナーの目標や目的、走力は人それぞれですが、スケートも同じなのでしょう。滑りながら時間がゆったりと流れていきました。ふと「同じスタイルはほかにもあるな」とひらめきました。流れるプールに、1周5キロの皇居や1周2キロの東京・駒沢公園など、ランニングの聖地的な周回コース。みんな同じに見えてきました。
 ほどよい混雑具合と、多くの人びとがエンドレスで進んでいくスタイル。これらが居心地の良さとなっている。一旦自分をそこへ運んでしまえば、あとは周りの景色とともに流されるように進んでしまう。ほとんどの人は1番になろうなどと思わず、自分のペースで周回を重ね、1人でも、仲間と一緒でも、そこにいる時間を楽しみたい。そして、そうやって過ごすのは間違いなく健康的なことである。そんなことを感じたのでした。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。

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