10代男子群がる髪ワザ カリスマ美容師が人生変える

「髪形を自由に変えて、気持ちも性格も変えたい」。そんな思いを抱く若い男性が増えている。モテたい、だけでなく、積極的になりたい、元気になりたい、といった思いを髪のおしゃれに託す。彼らのカリスマ的存在が美容室「オーシャントーキョー」(東京・渋谷)の高木琢也代表(32)だ。ヘアカットが1万円以上ながら、全国から若者を引きつける魅力を探った。
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束感スタイル、爽やかさ演出
3月末に東京・渋谷で開かれたヘアショー。高木さんは10分ほどでカット、アイロンで仕上げをし、前髪と襟足が長めの「フェザーウルフ」を完成させた。髪の毛をワックスなどで少しずつまとめた「毛束」を生かしたスタイルが持ち味。毛束をランダムに流し、隙間をつくって爽やかさを演出する。

イベント終了時には高木さんとの写真撮影を求める若い男性の長蛇の列ができた。オーシャントーキョーは予約が2カ月待ち。全国から10代男子が訪れる。もちろん、大人の客も多く、「中学生から50代の経営者まで来ていただいている」。
オーシャントーキョーの髪形の特徴を表す言葉が「束感」だ。すきバサミを使って毛に軽さを出すようにカットし、ワックスで細かな毛の束ができるようセットするスタイル。襟足や前髪に長さを持たせて、顔が小さく見える効果もあり、スタイリングも簡単だという。特に高校生に流行した「束感」スタイルは、同店が発信源といわれている。
リクルートライフスタイルの2017年の調査によると、20~49歳男性で美容室・ヘアサロンを利用する人の割合は3年前に比べ6.5ポイント上昇し39.8%となった。一方で昔ながらの理容室の利用者は減っている。それほど所得は増えていないのに、比較的単価が高い美容室などの利用者が増えたのはなぜなのか。
「男だって髪形で人生を変えたい、と考えるようになっている」と高木さんは指摘する。かつては若い世代でも、男性は髪形を自在に変えたりはしなかった。だが最近の10代は、5年前はまだ目新しかったスタイリング剤のワックスを当たり前のように持ち歩き、自分用のヘアアイロンも持っている。積極的に髪形を変えて、気持ちや行動も変えたい、という意識が高まっているという。
髪形を変えるだけで、気持ちや行動が変わるのか? 高校生の一人は「高木さんに切ってもらったら、学校で人気者になった」と話す。そして「気持ちを切り替えるために髪形を変えた。友達にほめられてテンションも上がった」。別の学生は「髪形を変えて積極的になり、就職活動にも自信がついた気がする」。
カットの対象者が社会人でも、効果は同様なようだ。高木さんは「ある企業経営者から、社員の髪を切ってほしいと頼まれ、何人かをカットしたことがある。ちょっと冒険した髪に仕上げたら、その人の成績が上がったと聞かされた」と振り返る。自分では髪形をどうすれば良いか分からないビジネスマンは多いが、髪形を変えるだけでも注目されるきっかけが生まれたのかもしれない。
スタンダード脱してみては
高木さんは「クリエーティブな業務をこなしている会社ほど、髪形に対する意識が高い社員が多い」とも感じている。「耳が出ていないといけない、襟足が襟にかかってはいけない、といったビジネスマンのスタンダードから、そろそろ脱してみても良いのではないか。髪の毛でもっと遊んでいい」と提案する。

4月末、大阪に進出して現在6店舗を展開する。単価の低い男性客主体で3月の月商は8700万円だった。1人で月1200万円を売り上げたこともある。客に支持される秘訣は「1分あればその人に似合う髪形が分かり、だれでも格好よくできる」という自信に加え、顧客から「元気がもらえる」と評価の高いコミュニケーション力だ。
美容師は客と一対一で接する時間が長い。就職の面接前なら「君の強みはここ」「ネガティブな考えが表情に出ている。それを出してしまうと受からないよ」など、ちょっとしたアドバイスをすることもある。
「もう少し髪形の自由度を広げたら若い子の発想が膨らみ、気持ちも前向きになるのだと思う」と高木さん。髪の力を最大限に引き出すのがライフワークのようだ。
(編集委員 松本和佳)
[日本経済新聞夕刊2018年5月12日付]
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