ベテラン超える農機の目、センサー駆使し失敗防ぐ

2018/5/10 6:30
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ベテランの腕と勘を頼りとする農業を「科学の目」で変える――。井関農機は人の目では見えない農地や作物の状態を診断する新技術を相次いで生み出している。水田や植物工場で超音波センサーなどを駆使し、コメや野菜などの生育不良や育ち過ぎを防ぐ。経験の浅い若手でも失敗せず効率的に栽培できるようにする。目指すのは人の力だけでは実現できない新たな農業だ。

今年も田植えの季節を迎えた。全国の水田で田植え機が活躍しているが、井関農機が開発した「可変施肥田植機」はただ苗を植えるだけではない。田植え機に組み込まれたセンサーが絶えず土壌の状態を診断し、肥料の量を調整できる。

この田植え機には「人間を超えた目」が2種類付いている。1つが機械の前方にある超音波センサーだ。水田を走行中にどれだけ車体が沈んだかを測定。稲を育てるために耕した「作土」と呼ばれる土壌の厚さを把握する。作土が厚い部分は稲の根が張りやすく、成長し過ぎる可能性があるため肥料の量を減らす。

■人間を超えた2つの目

もう1つの目が前方の車輪のリム部分に備えた電極だ。左右の車輪の間に電流を流し、抵抗値から土壌がどれだけ養分を含んでいるかを判定。養分が十分な場所は肥料の量を減らす。勝野志郎執行役員は「電流の抵抗値から肥沃度を測るノウハウは当社の独自の技術」と胸を張る。

2つの目は肥料を減らしてコストを抑えるためだけにあるのではない。

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」とも言われるが、稲は倒れてしまうと刈り取る際に無駄な作業が必要になったり、コンバインの故障につながったりする。コメの品質低下の要因にもなる。

1つの水田でも場所によって土の深さや栄養分布が異なるが、人の目では判別が難しい。ベテラン農家でも運に頼る部分が多いという。稲が倒伏するかどうかは収穫の直前にならないと分からず、一般に栽培過程で修正することは難しい。

農業でもICT(情報通信技術)の活用が広がりつつある。最近ではドローンを飛ばして空中から田畑を撮影し、農作物の生育状況を分析する手法などが注目されている。ただ、手間やコストがかかるうえ、ドローンを飛ばせない地域があるなど課題も多い。

井関農機の可変施肥田植機はその場で肥料の量を調整できるなど、現場の農業者にとって使い勝手が良い。耕作放棄地などを所有者に代わって耕すといったケースも増えるなか、収量の安定につながるメリットは大きいという。標準タイプで1台500万円強と通常よりやや高いが、年100台の販売を目指す。

井関農機のターゲットは水田だけではない。今後の拡大が見込まれる植物工場で働く新しい「目」も生み出した。

青色LEDで病害発見

同社が松山市で運営するモデル植物工場。作業員がいない夜間にトマトの栽培棚の間を青白い光を発する装置が自動で動き回っている。愛媛大学と共同開発した植物生育診断装置だ。トマトやパプリカの葉の表面に青色発光ダイオード(LED)の光を照射。特殊なフィルターを装着したCCDカメラで反射光を撮影し、計測値をグラフ化して蓄積する。

夜間に無人稼働し、自動で診断する

夜間に無人稼働し、自動で診断する

計測するのは「クロロフィル蛍光」という葉緑素の反射光。植物は太陽光などを葉緑素で吸収し、光合成をして養分を蓄える。健康で光合成が多ければ、食べ残しにあたるクロロフィル蛍光が少なくなる。逆に反射光が多ければ弱っている証拠といえる。この装置を使えば、病害などの予防や早期発見につながり、肥料などを用いた治療も容易になるという。

通常は栽培に慣れた人でも、葉の色あいが悪化するなど生育不良が明らかにならない限り、具体的な対策は打ちようがないとされる。「クロロフィル蛍光は人の目ではほとんど見えないといっていい」(施設事業部の中田次郎氏)

画像から生育状況が読み取れれば、植物や実の部分に触れることによる物理的なダメージも無くなる。太陽光などの影響を抑えるため夜間に計測するため、農作業の邪魔にもならない。

植物工場は栽培環境を細かく調整することで、品質や出荷量を安定させる。次世代型農業の有力な手段として期待も大きいが、導入が進むオランダなどに比べて、日本は夏場の高温などから効率的に運用するハードルが高い。新装置を通じて新しい植物工場の形を示したい考えだ。

井関農機の2016年の特許出願登録件数は「その他の特殊機械」分野で182件と首位。出願数のうち特許として認められた件数を示す特許査定率は100%で、5年連続で全産業ベースで首位を誇る。

農機各社は無人運転で省力化できるロボットトラクターなどの開発を競っているが、生育の効率化はさほど進んでいないのが現状だ。井関農機は専業メーカーとして培ってきた独自の技術力を生かし、日本の農業の未来を描こうとしている。

(企業報道部 牛山知也)

[日経産業新聞 2018年5月10日付]

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