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引き技食う原因は稽古不足 落ちた力士が悪い

5月13日に初日を迎える大相撲夏場所(両国国技館)で横綱鶴竜が初の連覇をめざす。4度目の優勝を飾った先場所は引きが目立ち、決まり手は13勝のうち6勝がはたき込みだった。とかく批判されがちな引き技について語ってみたい。

体が動いていたからこそ

春場所の鶴竜は優勝を決めた14日目の豪栄道戦もそうだったように、確かに引きが目立った。これを「いかがなものか」と批判的に言う人もいると思うが、引き技だけではそうそう勝てないのが普通だ。横綱が毎場所引いてばかりで、負けていたら確かに大問題だと思うが、先場所の結果は13勝2敗での優勝。鶴竜は立ち合いから当たって押し込んでいるように見えたし、よく体が動いて反応もよかったからこそ、流れの中で出た引きを相手も食ったのではないか。引きは一気に押し返されるリスクもある。そのなかであそこまで引きで勝てたというのは、たいしたものだとさえ思う。絶対的に引き技が悪いとは言えない。100%完璧な相撲で勝てる日はなかなかないし、そうした引きでの白星が15日間を終えたときに大きな成果にもつながるのだ。

先場所の横綱鶴竜(奥)は優勝を決めた豪栄道戦もはたき込みだった=共同

引き技で勝負がついた場合、引いた方の力士を批判する人は多いと思う。ただ自分はどちらかと言えば、引かれて落ちた方の力士が悪いという印象がある。引きが決まりやすい場面を挙げると、(1)腰が高くて上体だけが前に行っているとき、(2)足が前に出ていないとき、(3)手を下からではなく上から使っているとき、など、自ら「引いてくれ」と言っているような体勢ばかりだ。いわば相撲の基礎がおろそかになっているから引き技を簡単に食ってしまう。日ごろの稽古が不足しているということなのだ。

稽古場で「引け!!」と指導する親方は一人もいない。わざわざ教える必要はないし、自然に力士は引き技を覚えてしまうから、親方は口酸っぱく「前に出ろ!!」と大声をあげ続けるのだ。前に出る稽古を繰り返すことで相手は引いてくれるようになるし、その引きにも付いていけるようになる。だから相手に引っ張られながら足を出す、ぶつかり稽古は特に大事なものだ。押す力、前に出る力をつければ、引き技はなかなか食わないはずなのである。

立ち合いから前へ前へと相手を押し込んでいくことがもちろん基本だが、踏ん張る相手を押し切れない場面はどうしても出てくる。そんなとき自分は稽古場で「引くんだったら、いなせ!! 相手を崩せ!!」と指導している。引きといなしは違う。引きは自分の方に真っすぐ引くことで、相手を呼び込んでしまうリスクもある。いなしは相手の体を横に崩してから前に出ること。相手のバランスを崩してから押せば、間違いなく押し切れるはずだ。

基本は前に出る相撲

相手に圧力をかけたうえで、相手が押し返そうとする力を利用して引く分にはいい。だが立ち合いから当たりもせずに変化したり、引くことばかり考えていてはダメだ。自分も墓穴を掘った苦い思い出がある。立ち合いが合わなくて思わず引いたり、立ち合いで迷っている間に軍配が返って横に逃げ、みじめな負け方をしたこともある。お客さんから「なんだあの相撲は。やる気ないんだったらやめてしまえ!!」とヤジを浴びて花道を引き揚げるのは恥ずかしかった。当然、部屋に帰れば師匠にも怒鳴られた。「こんな相撲ではダメだ」とひどく落ち込んだことをいまでも覚えている。

高田川親方の指導のもと、竜電(右)はいい相撲をとっている=共同

やはり前に出て勝つことが本当の強さなのだ。相手がどんなことをしてきても前に持っていく相撲が取れれば、向こうは引くか逃げるかしかなくなる。前に出る相撲を取り続けることで自信につながるし、結果として白星にもつながり、番付も上がっていくのだ。それでも不思議なもので、どれだけ稽古場で前に出る相撲を体に染み込ませても、本場所になると体が自然に動いて引いてしまうことがある。ただ、そんな楽な勝ち方を覚えてはいけない。自ら逃げるように引いてばかりいては先々につながっていかないし、ひいては現役生活も長くは続かないだろう。

だからこそ、幕内で相撲を取るだけでもすごい39歳の安美錦や38歳の豪風といったベテラン力士はともかく、これから強くならないといけない若手は安易に引くべきではないのだ。攻防もない取組の最後に引き技を見せられたら、お客さんもあきれるだけだろう。こざかしい力士が目に付くなか、輝や竜電はいいなあと思う。押し切れないこともままあるが、不器用ななかにも前へ前へ出ようという気持ちが伝わってくる相撲をとっている。師匠の高田川親方(元関脇安芸乃島)の厳しい指導が現れているのだろう。ぶち当たって一発で相手を吹き飛ばすような取組、見る人に「お相撲さんってすごい」と思われるような力士が増えていってほしい。

(元大関魁皇 浅香山博之)

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