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一杯への情熱 支援広がる 若鶴酒造取締役 稲垣貴彦さん(語る ひと・まち・産業)

ウイスキーの蔵 新生

■北陸唯一のウイスキー蒸留所である三郎丸蒸留所。老朽化した蔵を生まれ変わらせたのは、若鶴酒造(富山県砺波市)の「5代目」にあたる稲垣貴彦氏(30)のウイスキーにかける情熱と、共感した人々の間に広がった支援の輪だった。

 いながき・たかひこ 1987年、富山県砺波市出身。2012年大阪大経済卒、日本ヒューレット・パッカード入社。15年北陸コカ・コーラ入社。17年若鶴酒造取締役。同社ウイスキープロジェクトリーダーを務める。

「ウイスキーに出会ったのは、学生時代に所属した大阪大の体育会『釣部』だ。渓流釣りで山に入る時、最初は日本酒を持参したが、さすがに重たいのでアルコール度数の高いウイスキーに替えた。ただ、その時は単に『ウイスキーを飲んでいる』というだけだった」

「大学卒業後は東京の外資系企業に就職した。仕事は面白かったが、ものづくりが好きで故郷に戻った。(父、晴彦氏が社長を務める)北陸コカ・コーラボトリングの経営企画室で協力会社の若鶴酒造の経営も分析、ウイスキーについても『シングルモルトとは何か』という根本から勉強した」

■昭和初期に建てられ「ボロボロで危ない」と言われていた三郎丸蒸留所。蔵の中に眠っていたウイスキーを口にして、その酒の奥深さを知ることになる。

「初めて蒸留所に入ってみると、雨漏りがするなど老朽化は激しく、『趣もあるが、建物の傾きもあるな』というのが正直な感想だった。一方で、ウイスキー自体は手作業で真面目につくられており、磨けば光るものがあるとも感じた」

「15年末に見つけたのが1960年につくられたモルトウイスキーだ。存在は知られていたが、価値があるとは思われていなかった。一口で『これはすごい』と思った。重厚感や香りに加え、ウイスキーづくりを始めた曽祖父の時代とつながったように感じた。売れるという確信はあった。若鶴が60年以上前からウイスキーをつくっていたことを、世に知らしめるいい機会になると思った」

ウイスキーとの出会いにつながった山登りは今でも続けている

■1年を1万円と計算し一本55万円という価格をつけた「三郎丸1960 シングルモルト55年 カスクストレングス」はインターネットで販売し、即座に完売。満を持して蒸留所の改修に乗り出す。

「総事業費約1億円の一部は、ネットで小口資金を募るクラウドファンディングを活用した。皆の力で一つの大きなことをやりとげるやり方がふさわしいと考えた。2500万円の目標を超える3825万5千円の支援が寄せられた」

「資料を読み、自分で設計図を引いて、建物は創建当時の形に仕上げた。製造ラインの完成度は今のところ50%くらい。製造開始100周年には自分の仕込んだ30年超えのクラフトウイスキーで祝杯を挙げたい」

■17年7月にリニューアルした三郎丸蒸留所には、見学者用のスペースも作った。

「北陸は日本酒文化ではあるが、ウイスキー文化も広めていきたい。樽(たる)が違えば味が違う。地元のミズナラの樽でウイスキーをつくるというプロジェクトも進めている」

「産業観光のために、蒸留所単独でできることには限界がある。支援をしてくれた方々への恩返しの意味でも、地域の伝統産業と連携しながら富山のものづくりを発信していきたい」

日本海側で唯一の蒸留所

《一言メモ》 江戸時代末期の1862年から酒造りを続ける若鶴酒造。1952年にウイスキー製造免許を取得した三郎丸蒸留所は、北陸のみならず本州の日本海側にある唯一のウイスキー蒸留所だ。

当初からの銘柄である「サンシャインウイスキー」に加え、「シングルモルト三郎丸」やブレンデッドウイスキー「MOON GLOW」なども製造する。

今年は新たな「糖化タンク(マッシュタン)」などの設備も入れ、6月から9月までウイスキーを仕込む予定。40樽(約8000リットル)の製造を見込む。

若鶴酒造はJR城端線の油田駅から徒歩1分という交通の便のいい場所に位置し、三郎丸蒸留所は、敷地内にある大正蔵とともに見学可能な「産業観光施設」という側面も持つ。見学は予約制で、年間約1万5000人が訪れるという。

(富山支局長 伊藤新時)

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