2018年5月28日(月)

「水の国」和歌山 捉える 水中写真家 内山りゅうさん(もっと関西)
私のかんさい

コラム(地域)
関西
2018/5/1 17:00
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 ■水中写真家の内山りゅうさん(55)は1999年、東京から和歌山県白浜町に生活拠点を移した。以来約20年、県内の河川にすむ生き物の写真を中心にした撮影活動を続けている。図鑑や写真集の出版に携わるほか、テレビの自然番組制作にも取り組んでいる。

 うちやま・りゅう 1962年東京都生まれ。東海大学海洋学部卒。図鑑「カラー名鑑 日本の淡水魚」で一部の写真を担当し注目される。99年、和歌山県白浜町に移住。代表作は写真集「大山椒魚」「アユ 日本の美しい魚」。

 うちやま・りゅう 1962年東京都生まれ。東海大学海洋学部卒。図鑑「カラー名鑑 日本の淡水魚」で一部の写真を担当し注目される。99年、和歌山県白浜町に移住。代表作は写真集「大山椒魚」「アユ 日本の美しい魚」。

 東京にいた頃、雑誌などの仕事の合間を縫って、アユを題材に作品づくりに取り組んでいた。選んだ撮影の舞台が紀伊半島。森が豊かなイメージがあった。時間を見つけては東京から紀伊半島に足を運んだ。

 実感したのが「自然を撮るには東京にいては駄目」ということ。撮影にはチャンスが大事だ。東京は稼ぐには便利だが、地元の人が「魚が産卵しているよ」と教えてくれても、すぐに現場には行けない。ただ、写真を売るには東京に出向く必要がある。そこで南紀白浜空港があり、すぐに羽田空港に飛んでいける白浜に住むことにした。

 東京では、複数の雑誌に連載を持っていたが、和歌山に移ってから数年してすべてやめた。収入は激減したが、時間ができて自分の作品づくりができるようになった。地元の人も温かい。当初は昼間からカメラを持ってフラフラしている私を「何をしに来たんだろう」と怪しんでいた。今はロケに出かける間、妻を食事に誘ったりしてくれる。

アユをテーマにした撮影を続けるうち、東京から和歌山へ拠点を移すことを決意した

アユをテーマにした撮影を続けるうち、東京から和歌山へ拠点を移すことを決意した

 ■東京都武蔵野市の出身。少年の頃から生き物が好きだった。中学2年のとき、おなかが青に輝く魚を捕ったことで魚の美しさに目覚めた。大学は海洋学部を選んだ。このとき得た知識が、後に水中写真家となったときに生きてくる。

 魚に関わる仕事がしたいと考え、学生時代は「研究者になろう」と思っていた。ところが大学卒業後、研究生として研究室に残っていた22~23歳のとき、著名な自然写真家、桜井淳史さんに出会った。言われたのが「生物に携わる仕事をするなら、写真家という生き方もある。食べていけるかどうかは君次第だ」という言葉だった。

 もともと桜井さんのファンで写真集も持っていた。その人柄にも魅了され、写真家になることを決意。その場で生活拠点を桜井さんのいる北海道に移すことを決めた。アシスタントとして2年間学んだ後、東京に戻り、フリー写真家としてデビューした。

内山さんは紀伊半島の河川の美しさを発信し続けている

内山さんは紀伊半島の河川の美しさを発信し続けている

 当時、水中写真家のほとんどは海が専門。南の島へ行き、鯨などを撮っていれば、随分、稼げたようだ。ただ、私のやりたいことではなかったし、身近な自然に興味があったので海を専門にはしなかった。そのおかげで写真家として生き残ることができた。

 ■和歌山県は豊かな自然を観光資源とする取り組みを進めており、「水の国、わかやま。」をキャッチフレーズに打ち出している。内山さんの写真もポスターに使われた。だが「地元の人は水の豊かさが当たり前になっていて、価値に気づいていない」と訴える。

 「水の国」のポスターに使われた写真は東京ミッドタウンの写真展で展示した。来訪者のなかには感動して泣いている人がいた。川の水でコーヒーを沸かして飲むのは地元では当たり前だが、県外の人にとってはそうではない。きれいな水は豊かさの象徴だ。

内山さんが出版した本の一部

内山さんが出版した本の一部

 和歌山は大都会から離れた不便なところにあるが、不便だからこそ自然が残っている。不便なのは弱点ではない。和歌山の水がきれいなのは、森が豊かだからだ。紀伊半島は山から海までが近く、川の源流と河口の標高差が大きい。雨も多い。多量の雨が一気に海へ流れるから、水がよどまない。日本にそんな場所はあまりない。

 水中写真家は体力が必要だ。今後、どれだけ現役で仕事ができるかを考えている。残された時間で「和歌山だけでなく日本は水がきれい」ということを日本人にも外国人にも発信していきたい。水がきれいなことが、日本の良さの基本ではないだろうか。

(聞き手は和歌山支局長 細川博史)

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