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中日・松坂が追い求める ワインドアップの美学

編集委員 篠山正幸

4月19日の阪神戦で、中日・松坂大輔(37)がみせてくれたワインドアップモーションは怪物復活を思わせるものだった。ワインドアップは見栄えの問題で、技術の根幹に関わるものではないと本人も示唆しているが、その見栄えこそ、プロとしての根幹に関わるものではないだろうか。

阪神戦では自らの失策もたたり、負け投手になったが、7回2失点。球数は123。中日移籍後最長イニング、最多の球数を投げ、悩まされ続けた肩の状態のよさをうかがわせた。

松坂は4月19日の阪神戦でワインドアップから投げ込んだ=共同

目を引いたのはワインドアップモーション。「こだわりの一つ」と松坂は言う。「見た目の格好よさから始めた」といい、アマチュア時代からこのスタイルを通してきた。

松坂といえばワインドアップ、ワインドアップといえば松坂。代名詞のようなものになっているといってもいいだろう。

だが、まだまだ長期の不振からの脱却を目指す過程にあり、見栄えにこだわっている場合ではないという事情もある。

3月4日、楽天とのオープン戦ではセットポジションで投げた。

「試合前のブルペンで、あまりにもバランスが悪かった。ちょっと(ボールが)暴れそうだなという感覚だったので、直前にセットポジションでいこうと決めた」と話した。ワインドアップで投げたいのはやまやまだが、という胸の内がみえた。

「その見栄えが好きでやってきた」

やはりワインドアップで投げるのが理想なのか。そう尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「個人的に、ただ見栄えがいいと思っているだけで。僕はその見栄えが好きで、ワインドアップでずっとやってきた」

エンゼルス・大谷翔平のように160キロとまではいかないにしても、セットポジションから150キロ台の球を投げるのが当たり前になった今、ワインドアップにさしたる意味はないとされるようになってきた。

野球評論家の権藤博さんに聞くと「我々の時代はみんなワインドアップだったからやっていただけで」とのこと。

楽天・則本昂大のように「体全体を使って投げたいから」という投手もいるが、今はワインドアップで投げたとしても、リズムを取るだけでほんの形ばかり、とみえるフォームも少なくない。

以前、昔風の豪快なワインドアップモーションが見たい、という趣旨の記事を書いたところ、投手をしていたという読者からお便りをいただいた。

松坂はワインドアップに「美」を見いだしている=共同

「ある試合で、セットポジションで投げたら、審判にそんな軟弱な投げ方をするなと注意された。セットポジションはいけないことなのか」(「軟弱な」の部分は原文では別な表現になっていたが、新聞では使用できない言葉なので変えたことをお断りしておく)

かつて、「ワインドアップ=雄々しい」というイメージがあったのは確かだろう。審判もそういう時代の価値観の持ち主だったのかもしれない。

プロとしての理想考えるヒント

セットポジションでもノーワインドアップでも、要は抑えられればいいわけで、ワインドアップモーションが技術的には必須のものではないことが明らかになってきた今、そこに執着するのは時代遅れということになるのかもしれない。

松坂の言う通り、見栄えだけのことだとすれば、あとは人それぞれ、趣味の問題ということにもなる。

技術的には無用の長物と化しつつあるワインドアップ。しかし、価値がないかといえば、それは違うだろう。

松坂は「できればランナーがいないところでは振りかぶっていきたい」と3月4日の時点で話していた。その「理想」を実戦したのが、4月19日の登板だった。

ワインドアップを格好いいと見るかどうか。そもそものところが今では揺らいでいるが、少なくとも松坂はそこに「美」を見いだし、追い求めている。勝つことも大事だが、見られることをなりわいとするプロは見栄えも大事だ。松坂のワインドアップはプロとしての理想を考えるヒントになる。

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