源泉漏れ長良川温泉ピンチ 配管老朽化、対策難航
春の観光シーズンに旅館の湯船が空っぽ――。こんな信じられない事態が3月、岐阜市の長良川温泉で起きた。老朽化した配管から源泉の湯が漏れ、供給がストップしたのだ。漏水はこれまでに何回も発生。安定供給は温泉街の生命線だが、費用負担が課題で抜本的な対策は講じられていない。専門家は、全国の温泉街で同様の問題が起きる可能性を指摘する。

長良川温泉は1959年、市が水道工事中に発掘。高度成長期の68年、「ウ飼いの他にも観光資源を」と旅館組合が導入を決めた。現在、温泉を利用できる宿泊施設は6軒だが、年間約30万人が来訪。写真映えする古い町並みなどが評価され、環境省や観光庁が後援する「温泉総選挙2017」の女子旅部門で1位に選ばれた。
ただ、近年は源泉地と宿泊施設を結ぶ配管の老朽化で漏水が相次ぎ、17年度は9回も供給が停止。そのたびに市が補修するが、敷設から50年、大規模な交換はしていない。「長良川観光ホテル石金」の永瀬章社長は「抜本的な対策の時期に来ている。配管の交換や新たな温泉掘削も検討したい」と焦りを隠せない。
同温泉の配管は市が所有し、使用量に応じて各施設が料金を支払う。年間約300万人が訪れる草津温泉(群馬県草津町)と同じ方式だ。施設数や湯量が違い単純比較はできないが、自治体が得る収入は、岐阜市の年間150万円に対し、草津町は約2億円だ。
町の担当者は「以前は配管整備に力を入れておらず、湯の花が詰まってパンクしていた」と言い、近年は安定供給を重視。毎年約1億5千万円かけて補修、トラブルも減った。
草津温泉の配管は、静岡県のメーカー「富士化工」が製造するパイプ。ガラス繊維を熱加工した特殊素材で、高温や腐食に強く、全国の温泉街から注文がある。敷設環境によるが、本体と工費合わせて、長さ1キロ当たり1億円を優に超える。
長良川温泉の配管は塩化ビニールや鋼製で全長約8.7キロあり、市は「多額の費用負担は難しい」と配管交換は行わない方針。温泉街からは「もう少し歩み寄りを」との声が上がるが、打開策がないのが現状だ。
長良川温泉は3月の供給停止時、タンク輸送の応急処置を実施。ただ、温泉設備の調査や研究を行う日本温泉総合研究所(東京)の森本卓也統括は「タンク輸送は供給量などから配管には劣る。自治体の補助金も限度があり、今後設備の維持が困難になる施設は相次ぐのでは」と指摘する。〔共同〕