2019年9月16日(月)

能を身近に 大槻文蔵、自主公演650回(もっと関西)
カルチャー

2018/4/27 17:00
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人間国宝の観世流能楽師、大槻文蔵が自ら運営する大槻能楽堂(大阪市)で開いてきた「自主公演能」が、6月に650回目を迎える。自主公演を始めるきっかけとなった能楽堂の建て替えからは35年の節目にあたり、5月と11月に記念公演も催す。「映画を見るように気軽に親しんでもらいたい」と、誰もが足を運びやすい公演を模索し、ファンを拡大してきた。

「隅田川」を舞う大槻文蔵

「隅田川」を舞う大槻文蔵

冷えたる能――。淡々とした無心のなかに深さをたたえた美を能の大成者、世阿弥はこう例えた。現代の名手とうたわれる文蔵の芸はこの形容に一段と近づいているように思える。舞台を降りても静かな落ち着きをたたえつつ「(私の)今の芸は自主公演能の取り組みによって得たものが力になっている」と話す。

■建て替え35周年

650回目となる「大原御幸」は、観世流梅若万三郎と喜多流塩津哲生が珍しい異流共演で飾る。「企画も尽きてきたから」と冗談めかして笑うが「千回を目指して」と先を見据えた言葉には強い力がこもる。

建て替え35周年の記念公演は文蔵と梅若実、2人の人間国宝が舞台に並ぶ。まず5月に大槻がシテ、梅若が地謡で「隅田川」を、11月には役割を入れ替え「恋重荷」を上演する。気心の知れた盟友との舞台は円熟の美をたたえる。

外国人にも親しんでもらえるよう、日英2カ国語のイヤホンガイドを初めて用意する。「2020年の東京五輪に向け、世界中の人に能に親しんでもらいたい」。より多くの人に能を。文蔵の一貫した姿勢だ。

自主公演能は1984年に始めた。文蔵が企画から配役、収支の管理まで運営面も一手に担った。平日夜や週末昼に能や狂言を1曲上演する構成は「今なら当たり前だが、当時は全国を見回しても斬新な取り組みだった。能の見方を確実に変えた」と、京都造形芸術大学の天野文雄教授は高く評価する。

自主公演能で天野文雄京都造形芸術大教授(左)と対談する大槻文蔵(2014年4月)

自主公演能で天野文雄京都造形芸術大教授(左)と対談する大槻文蔵(2014年4月)

80年代、一般的な能の公演は良くも悪くも閉鎖的だった。謡の愛好家や弟子、関係者に向け、午前から夕方遅くまで3~4曲を上演。演目の選定も演者が自身の芸を磨くことに主眼が置かれ、客に見せるという意識に乏しかった。

演者と能楽堂の運営者という2つの立場で文蔵は「親切な公演」を追求した。1年間の通しテーマを掲げ、講師を招いてお話のコーナーを設けた。様々な文化人を招き「曲の背景など(客が)イメージを膨らませられるようなお話をお願いしてきた」。一方で「見方を限定してしまう」と、能公演で一般的な解説を付けることは嫌う。

■多彩な講師招く

哲学者の梅原猛が講師を務めた「梅原猛 能を観(み)る」シリーズは満席が相次ぐヒット企画となった。今年度の講師は宗教学者の山折哲雄、歌人の馬場あき子、歴史小説作家の井沢元彦らと豪華な顔ぶれが並ぶ。

自主公演能は大槻能楽堂の収容人数約500席に平均7割強と、能の公演としては高い動員力を誇る。それでも安定運営には9割近い客入りが必要といい、公的な助成で不足する分は文蔵が負担する。客層の拡大は「今では頭打ち」と言いつつも、人々のライフスタイルが多様化するなかで「どういった公演がニーズに合うのかは今なお難しい課題」と、今も模索を続けている。

30年以上の歴史を刻み、数多くの名手が上がってきた舞台。大槻能楽堂は来年以降の大規模改修で、一時休館する予定だ。新しくなった能楽堂が再開する際には、文蔵がさらなる能の魅力を引き出してくれるに違いない。

(大阪・文化担当 佐藤洋輔)

おおつき・ぶんぞう 1942年大槻秀夫の長男として生まれ、祖父大槻十三、父、観世寿夫、八世観世銕之亟に師事。62年に一人前への「卒業試験」とされる「道成寺」を初演。2016年に人間国宝に認定された。

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