2018年10月17日(水)

I&C、家具+福祉で新たな価値
(アントレプレナー) 佐田幸夫社長

コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/4/27 6:30
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I&C(大阪市)は縮小する国内の家具市場で成長を続ける数少ないスタートアップだ。社長の佐田幸夫氏(41)の実家は木製建具屋。知見のある家業の周辺領域で起業し、ボタン一つで自由に高さを変えられる洗面台など、機械や電子制御を組み合わせた家具を開発、販売している。人に優しい家具を通して見つめるのは、世界的な高齢化社会の到来だ。

■デザインも重視

佐田幸夫社長 2000年、リフォーム会社に就職。04年、実家の木製建具屋に戻る。08年、I&Cを立ち上げる。13年、電動昇降家具LAP開発。

佐田幸夫社長 2000年、リフォーム会社に就職。04年、実家の木製建具屋に戻る。08年、I&Cを立ち上げる。13年、電動昇降家具LAP開発。

昨年秋、ドイツで開かれた医療機器の展示会。来場者の注目を集めていたのが、I&Cの電動昇降機能付きの洗面台「LAP」だ。台座部分にアクチュエーターが仕込まれており、ボタンを押すだけで車いすに乗る人が使いやすい62センチメートルから110センチメートルまで1センチメートル刻みで高さを調節できる。車いすに乗る人や、つえをつく人でも使いやすいと好評だった。

高さを変えられる洗面台が市場になかったわけではないが、福祉機器の色合いが濃くデザインは二の次だった。LAPでは天然石や天然木を使い、無機質さを薄めた。最新モデルは昨年の秋の発売以来、国内の介護施設や病院などで400台以上採用され、台湾や中国からも引き合いがある。

I&Cは佐田社長が2008年に設立し、当初はオフィスや商業施設の内装設計、家具のオーダーメードを手掛けてきた。ただ、足元で力を入れているのは「LAP」のような家具と福祉機器の融合製品だ。自社の強みであるデザイン性の高い家具に、昇降などの機能性をかけあわせて、新市場を開拓する。

目下、LAPのさらなる進化に向けて奮闘中。カメラで口の中を撮影して、集めたデータから状態を解析する洗面台の開発が目標だ。最近は病院や介護施設向け製品に知見があるとの評価が関係者の間で浸透し始めた。大手ゼネコンと組んで病室向けの多機能家具の製品化も進めている。

「家具に新しい価値をふき込みたい」と語る佐田社長。専門紙「ホームリビング」を発行するアイク(東京・台東)の推計によれば17年の日本の家具市場は約3兆2000億円。新設住宅着工戸数の減少で、規模は1990年代前半の半分ほどに縮小した。

「家具業界は使う材料も機械も商流も、何十年変わっていない。衰退産業と言われても仕方ない」。既存の家具の延長では本場の欧米には勝てない。日本ならではの家具を考え抜いた末、高齢化対応にたどり着いた。

今でこそ明確な戦略を描くが、起業までは曲折があった。

実家は岡山県の木製建具店。自宅の横に工場があった。「両親の会話は注文が入ったとか、資金繰りがどうだとか、仕事のことばかりだった」と振り返る。

幼い頃はロードレースの選手を目指していた。高校生になりプロになることはあきらめたが、大学生になってもアマチュアのレースには出続けた。就職活動の期間中もバイクに夢中。結局、二次募集している会社の中から家業に近いリフォーム業者を選び入社した。

実績評定の厳しい会社だったが、入社2カ月でトップセールスを達成。「飛び込み営業はいつもゼロからのスタート。できるかどうか悩む前にやってみる姿勢が身についた」と話す。

入社から4年後、姉にから家業を手伝って欲しいと頼まれ、実家に帰ることを決めた。「経営に関わってみたい」という漠然としたあこがれがあったという。

設計や現場管理、新規開拓の営業を担当。3年ほどして、自分で新しいものを作り上げたいという気持ちがふつふつとこみ上げてきた。「ゼロをイチにする仕事をしたかった。(家業とは)目指す方向が違った」。実家を飛び出し、大阪でI&Cを立ち上げた。ただ、けんか別れしたわけではなく、実家には製造を委託する。

■家具業界を変えたい

日本には欧州の有名ブランドの製造を手掛ける技術の高い工場もあるが、全体としては価格競争に陥り、疲弊している。これが佐田社長の国内家具業界の見方だ。「現状を変えたい」との思いから、国内約800の家具製造や樹脂メーカー、金属加工業者と製造面で協力する体制を築いた。

海外の家具の本場にも足がかりを築こうとしている。17年末、デンマークにデザインや商品開発を手掛ける現地法人を開設。高福祉国家のデンマークで採用が決まれば、世界中でI&Cのブランドが広がるとの狙いだ。米国ニューヨークにもショールームを開いた。

I&Cの17年11月期の売上高は約5億円で、空間設計や家具のオーダーメードが中心。LAPが占める割合は1割ほどだが、今後引き上げていきたい考えだ。「あと20年もたつと世界中で高齢化の問題が顕在化する。自社の製品を解決に役立てたい」。佐田社長の目には、家具業界は成長産業に映っている。 (香月夏子)

[日経産業新聞 2018年4月27日付]

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