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「得点獲得力」で測る打者の価値 現役最強は柳田

野球データアナリスト 岡田友輔

前回はセイバーメトリクスがどのように守備力を評価するかを紹介した。今回は打撃を取り上げたい。打撃に関する数字といえば、すぐに思い浮かぶのは打率、本塁打、打点だろう。いずれもタイトル争いが注目され、三冠王ともなれば球史に名を残すことになる。だが、これらの数字だけで打者の価値は十分に測れるだろうか。

チームにより多くの得点をもたらす打者は

例えば本塁打を1本打っても、走者の有無によって打点は1~4まで変わる。つまり打点は本人の打力だけでなく、前を打つ打者たちの出塁能力に大きく左右される。それに比べれば、打率や本塁打数は本人の打力を端的に示していることになる。では3割打てるが本塁打はシーズンに1桁ぐらいしか期待できない巧打者タイプと、打率は2割5分だが20本塁打を期待できる一発屋はどちらに価値があるのか。セイバーを使えば、こうした違うタイプの打者を同じ尺度で測れる。

いうまでもなく、野球は点取りゲームだ。得点が増えるほど勝率も上がる。こうした前提に立つと、価値の高い打者とは「チームにより多くの得点をもたらす打者」ということになる。最近は球団の年俸査定でも、打率以上にこの「得点獲得力」が重視されるようになった。

この能力を測るカギになるのが「出塁率」と「長打率」だ。出塁率の高い打者とは「アウトにならない打者」を指す。安打を打てなくても四球を選べれば、出塁という点では同等の価値がある。プロ野球が2リーグ制となった1950~2017年のチーム打率と得点数の関係を調べると、相関係数(多いほど相関性が高く、1で完全に一致)は0.79。それが出塁率と得点になると0.84となる。これは打率以上に出塁能力が得点に結びつくことを意味している。

打率のもうひとつの死角はすべての安打を等価として扱ってしまうことだ。しかし本塁打に単打以上の価値があるのはいうまでもない。塁打数(本塁打が4、以下三塁打は3で単打が1)を打数で割ったのが「長打率」。走者を進塁させる能力といいかえてもいい。得点との相関係数は0.88と出塁率よりさらに高くなる。

出塁率+長打率、柳田がトップ

出塁能力と長打力を兼ね備えたソフトバンク柳田は現役最強打者である=共同

出塁率と長打率を足した数字を「OPS(On-base Plus Slugging)」と呼ぶ。双方の要素が入っているため、得点との相関係数は0.94と非常に高い。この数字が.900以上なら一流打者、1を超えれば文字通りの超一流といえる。17年の規定打席到達者で両リーグ最高のOPSを記録したのは柳田悠岐(ソフトバンク)で、数値は1.016(出塁率4割2分6厘、長打率5割8分9厘)だった。打率3割1分、31本塁打でタイトルには届かなかったが、持ち前の選球眼でリーグ最多の89四球を選んだ。高い出塁能力と長打力を兼ね備え、15年から3年連続でパ・リーグ最高のOPSを残し、うち2年は球界最高という柳田は、得点獲得力という点で現役最強の打者といえる。

野球の質や環境は違うものの、参考までに付け加えると、過去最高のOPSを記録したのは三冠王を獲得した1974年の王貞治(巨人)で1.293を記録している。60本塁打を放った13年のバレンティン(ヤクルト)は1.234だった。今季はまだ試合数が少ないが、山川穂高(西武)が4月27日現在で1.281。驚異的な数字が好調西武を支える一因となっている。

数値の上でも昨季のセ・リーグMVPは広島・丸だった=共同

簡単に計算できて、精度も高いOPSはセイバー黎明(れいめい)期から重宝されてきた。しかし今では、さらに改良を加えた指標も使われている。前回のコラムで、例えば単打なら約0.4点、二塁打なら約0.8点と各プレーを得点に換算するというセイバーの考え方を紹介した。こうした安打や四死球ごとの「得点価値」という調整を加え、打者の得点獲得力を算出したのが「wOBA(weighted On-Base Averege)」だ。打者が1打席あたり、どれぐらいの得点増に寄与したかを示し、現在最もポピュラーな指標として使われている。17年の最高はやはり柳田で、0.435だった。つまり3打席立てば、確実に1点以上をもたらすということだ。

西武・秋山、一人で116点

これを基に、ある打者が実際に何点獲得したかを示す指標を「wRC(weighted Runs Created)」という。17年で最も多かったのは秋山翔吾(西武)で、彼ひとりで116.1点を生み出した。1打席あたりの質を測った「wOBA」では.409と柳田に及ばなかったが、打席数が多いため得点の数では柳田の109点を上回った。セのwRCトップは丸佳浩(広島)の106.7。こちらもwOBAでは.400と同僚の鈴木誠也(.408)の後じんを拝したが、終盤戦に戦列を離れた鈴木を量で超えた。数値の上でも文句なしの最優秀選手だったといえる。

こうした数字に基づき、「ある選手を1番から9番まで並べて打線を組んだら1試合何点取れるか」を計算することもできる。「RC27」と呼ばれるこの指標はもちろん空想上の産物だが、直感的に分かりやすく、様々な時代の名選手を比較できるので興味深い。

盗塁などの走力も加味して算出すると、1950年以降の歴代トップはやはり74年の王で14.5点、2位は86年の三冠王ランディ・バース(阪神)で13.7点となる。50本塁打を放った02年の松井秀喜(巨人)は11.6点、17年の柳田は10.7点だ。

史上最高の安打製造機といっていいイチロー(マリナーズ)をセイバーで評価するとどうなるか。長打が少ないため、OPSではオリックス時代の94年に記録した.999が最高で、大リーグ最多を更新する262安打を放った04年も.869だった。走力も加味したRC27では94年の9.9が最高だ。

T―岡田のような、穴はあっても長打力を持つ打者がもっと評価されていい=共同

偉大なイチローでもこの数値にとどまると考えると、得点への貢献度という点では、思われている以上に長打力がカギを握ることが分かるだろう。例えば17年のT―岡田(オリックス)はリーグ最多の141三振を喫し、打率も2割6分6厘と平凡だったが、31本塁打を放った長打力と83四球でOPS.862、wRC91.9を記録した。これは両リーグ最高の打率3割2分3厘を残したセ・リーグ首位打者、DeNAの宮崎敏郎(同.856、77.3)をも上回っている。だが日本ではどうも、穴の多い長距離打者が過小評価される傾向があるように感じる。三振が少なく、打率が高い選手が好まれる一方、確率は低いが当たれば大きい打者はなかなか信用されにくい。

得点力アップには長打が有効

穴が少なく、長打が打てるのはもちろん理想だが、現実的にそんな選手は限られている。セイバーは、打率や凡打で走者を進める進塁打を打つ能力以上に、長打力が得点を左右することを教えている。最近の大リーグの潮流がパワー重視なのはこうした知見と無縁ではない。三振は長打を打つためのコスト。当たれば飛ぶと割り切って目をつぶる。日本では敵なしだったダルビッシュ有(カブス)や田中将大(ヤンキース)、大谷翔平(エンゼルス)が8番、9番といった下位打線にあっさり被弾するのは、外国人ならではのパワーばかりが理由ではない。得点力を上げるには長打が有効という考えが浸透し、ラインアップには一定以上の長打力を備えた選手を並べているからだ。

機動力や右打ちといった小技が日本野球の強みであることに異論はない。巧みなバットコントロールで難しい球を安打にする名人芸もプロ野球の魅力だ。しかし点取りゲームという野球の本質を考えた場合、攻撃力の根幹はあくまで出塁能力であり、長打力である。機動力などの枝葉の部分はあくまで、力量が均衡した2チームのはかりをどちらかに傾ける分銅にすぎない。チーム編成や選手起用においては、この優先順位を間違えないようにしたい。(敬称略)

 岡田友輔(おかだ・ゆうすけ) 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTAを立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。著作に「デルタ・ベースボール・リポート1」など。野球界への就職に興味がある人向けのセミナーも主催する。42歳。

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