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人民元覇権構想、円高80円も

トランプ米政権の出現はドル一極集中体制への不安を醸成させている。その間隙を突き、習近平国家主席は世界の貿易面のみならず、通貨面でも主導権を握るべく、長期的戦略で動いている。人民元をアジアの決済通貨に仕立て上げる構想はすでに東南アジアや中央アジアで実行に移されている。一帯一路構想から派生する貿易は人民元建てが原則だ。

さらに一帯一路の最終地点ともいえる欧州では、人民元建て売買のインフラを固めつつある。ドイツのメルケル首相がトップセールスでフォクルスワーゲン首脳たちを率い、北京を訪問したときも「ドイツでの人民元取引所創設」をお土産として提示した。ブレクジットで存在が揺らぐロンドン市場も、人民元取引インフラを拡充することが重要な生き残り策の一つとなっている。

中国国内でも人民元建て原油先物が上海先物取引所に上場された。

すでに、国際通貨基金(IMF)からは「合成通貨である特別引き出し権(SDR)」の構成通貨としてドル・ユーロ・円・ポンドに次ぐ第5の国際通貨としてのお墨付きを得たことは記憶に新しい。

課題の人民元自由化も、香港経由ながら中国のインターバンク債券市場に非居住者の外国銀行も参加できる「債券通」を「開通」させた。まだ第一歩にすぎないが、中国債券市場の開放は人民元取引増加のために必須の命題だ。海外投資マネーの参入は国内市場の流動性確保のため欠かせない。

とはいえ、人民元をドルに代わり基軸通貨の座に据えるとの野望は実現のハードルが高い。世界中に構築されたドル決済のインフラを変えるためには膨大なエネルギーと時間が要る。

最も現実的シナリオはドル圏・ユーロ圏・人民元圏の通貨3極体制だろう。マンデル・コロンビア大学教授が提唱した「最適通貨圏構想」という経済理論的な裏付けもある。世界共通通貨は政治的に非現実的ゆえ、主要地域で最適通貨を創出する構想だ。この考えがユーロを生んだので「ユーロの父」と呼ばれる。ちなみに日本と中国でアジア通貨地域をつくるべしと提言している。

今後、ドルから人民元への分散が進行すればドルへのニーズが低まり、長期的に見ればドル安傾向が予想される。80円まで円高が進行しても不思議はない。ただし、この視点は通貨レジームチェンジを見据えた歴史的視点での予測で、2018年為替予測の類とは次元が異なる。

相場を見るには3つの目が必要だ。現場を見る「虫の目」。潮流を見る「魚の目」。そして歴史的に俯瞰(ふかん)する「鳥の目」である。通常は虫の目と魚の目の視点での予測が多いが、時には一歩引いて「鳥の目」で見直すことも必要であろう。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・公式サイト(www.toshimajibu.org)
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuo.toshima@toshimajibu.org

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