iPS創薬で遺伝性の病気治療 慶大が治験へ
慶応大学の研究チームは24日、進行性の難聴を引き起こす遺伝性の病気の治療薬候補をiPS細胞を使い発見し、実際に患者に投与する臨床試験(治験)を近く始めると発表した。iPS細胞を使った創薬の治験は、昨年に京都大学が骨の難病患者を対象に始めたのに続いて国内2例目。動物実験を経ないで治験に進むのは、iPS創薬では国内初の事例になる。
治験は、進行性の難聴やめまいを引き起こす「ペンドレッド症候群」という遺伝性の病気の患者を対象とする。慶応大学病院で、7~50歳の男女16人に既存薬の免疫抑制剤「ラパマイシン」を投与して効き目や安全性を確かめる。
ペンドレッド症候群の患者は国内に約4000人いるとされるが、内耳組織を患者から取り出しづらい上に、マウスで病態を再現するのが難しいため、治療法の研究が進んでいなかった。
慶大の岡野栄之教授らは患者の血液からiPS細胞を作製し、内耳細胞に変えて病態を再現。異常なたんぱく質が内耳に集まることで細胞が死にやすくなり、症状が進むことがわかった。たんぱく質の分解に役立つとみられる治療薬の候補を数十種類試したところ、ラパマイシンで細胞が死ににくくなるなどの効果があった。
免疫抑制剤としてラパマイシンを使う場合の10分の1の量で効果が期待できるとしている。
従来の創薬研究では、遺伝子操作などで作ったマウスで病態を再現し、効果を確かめるのが一般的だった。iPS細胞を使って動物実験を省ければ、創薬の期間短縮やコスト削減につながる。iPS創薬で今後、ほかの種類の難聴や神経疾患など、動物で病態が再現できない病気で同様の試みが広がりそうだ。