2019年6月17日(月)

オランダ、台頭するポピュリズム新世代 (グローバルViews)
ブリュッセル支局 森本学

2018/4/26 5:50
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世界に広がる右派ポピュリズム(大衆迎合主義)の先導役といわれるオランダで、ポピュリズム勢力の世代交代が進み始めた。2017年3月の下院選で一時は政権獲得も取り沙汰され、世界を揺るがした極右・自由党のヘルト・ウィルダース党首(54)に代わり、ポピュリストの「新星」として脚光を浴びるのが、新興政党「民主主義フォーラム(FvD)」を率いる35歳のティエリー・ボーデ氏。反欧州連合(EU)や反イスラムを掲げ、エスタブリッシュメント(既存体制)による「カルテル政治」に反抗する姿勢が、若者らを中心に急速に支持を広げている。

「カルテル政治よ、一体いつまでおまえは我々に我慢を強いるつもりなのか」。17年3月下旬、議員になったばかりのボーデ氏が下院で初めての演説を始めると、議場にどよめきが走った。突然、ラテン語で語り出したからだ。古代ローマの政治家・哲学者キケロがクーデターの首謀者だった「カティリナ」を弾劾した歴史的な演説をアレンジして既存政党による「カルテル」政治を批判。知識人ぶりをアピールするボーデ氏の振る舞いに、ベテラン議員らは困惑気味だった。そんな予測不能なパフォーマンスがボーデ氏が話題を集める秘訣のひとつだ。

既成政党の首脳ら旧来型の政治エリートを猛烈に批判する一方で、ボーデ氏は自身が「エリート」であることを隠さない。高校時代にラテン語やギリシャ語を学び、大学院修了後はオランダのライデン大学など有力大学での講師や、新聞・テレビのコメンテーターをこなしてきた。現代アートやポップカルチャーへの嫌悪感をあらわにし、19世紀的な西欧文化を理想に掲げる。愛読書はシュペングラーの「西洋の没落」。近代ヨーロッパ文明の危機を論じ、第1次世界大戦後のベストセラーになった古典だ。「古き良き欧州」の復活を目指すボーデ氏の姿勢に、既存政治に批判的な知識層の一部も吸い寄せられる。

法的拘束力もつ国民投票求める

政治的には「民主主義は強力な国家の下でのみ繁栄する」というのが信条。欧州統合による国家主権の弱体化で民主主義が損ねられてきたという立場で「反EU」を掲げる。さらに合意を重視するオランダの政治文化をエスタブリッシュメントによる「カルテル政治」と断じ、民主主義の復活へ、重要な政治課題についてはスイス型の法的な拘束力を持つ国民投票の導入を求めている。

15年にシンクタンクとして発足した民主主義フォーラムが政党になったのは17年の下院選のわずか半年前。それでも初の国政選挙挑戦となった下院選(定数150)で2議席を獲得し、ボーデ氏自身も下院議員となった。18年3月21日の地方選(市議会議員選)では最大都市アムステルダムで候補者を擁立して3議席を獲得した。さらに同党の勢いを示すのが世論調査だ。世論調査サイト「Peil.nl」の4月15日時点の調査によると、現時点で下院選を行った場合の予想獲得議席は15議席に。最大与党・自民党(VVD)に続く第2党の座を緑の党などと争う人気ぶりだ。多くの主要政党が17年の下院選に比べて支持を落としたり、横ばいにとどまったりする中で、民主主義フォーラムは7倍超と急速な支持拡大をみせる。

都市部の若者から支持

一方、これまでオランダを代表するポピュリストだったウィルダース氏率いる自由党は予想獲得議席が12議席と、17年下院選(20議席獲得)からの大幅減に苦しむ。下院選で第2党になったものの連立政権に参加できず、ウィルダース党首には政権獲得の意思がないとの失望感が支持者に広がる。「反EU」や「反イスラム」の主張は自由党と民主主義フォーラムで大きな差はないが、ウィルダース氏と違ってボーデ氏は「誰かがオランダを救わなければならない」と首相の座を狙う姿勢も隠さない。

高齢者や地方からの支持が厚いウィルダース氏と違い、都市部の若者層の支持を得ているのもボーデ氏の特色だ。「反イスラム移民」に攻撃の的を集中して有権者の不安に訴えるウィルダース氏に対し、ボーデ氏は「仮想敵」の幅を、古き良き西欧を損ねているとみなす脅威すべてに拡大。現状に不満を抱く若者らの「白人優越」の発想や自国中心主義を巧みに刺激しているとの懸念がオランダ国内で広がる。

17年の下院選でウィルダース氏の政権獲得を阻み、欧州全体にポピュリズム政権が広がる「ドミノ効果」に待ったをかけたとも評されたオランダ。しかし、ボーデ氏の躍進が浮き彫りにするのは、欧州を揺るがす右派ポピュリズムが顔ぶれを変えつつも持続力をしっかり保ち、次のチャンスをうかがっている実態だ。

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