スタディプラス 学びを見える化、受験の友
(アントレプレナー)広瀬高志社長
勉強した内容をスマートフォン(スマホ)に記録するサービスを手掛けるスタディプラス(東京・渋谷)。今や利用者は300万人を超え、大学受験生の3人に1人が利用する「勉強のプラットフォーマー」に成長してきた。原点は広瀬高志社長(31)が高校時代に先輩の助言から三日坊主から脱した経験にある。
自分の経験がビジネスに

きっかけはバスケットボール部の先輩からのアドバイスだった。「練習で疲れ切ってしまい、家に帰ると寝るだけの生活。勉強しようにも、どうしても続かなかった」と振り返る広瀬氏。2004年、高校1年が終わった頃に、東京大学に現役で合格した2つ上の先輩に助言を求めたところ、伝授されたのは意外な学習法だった。
毎日、「勉強記録ノート」をつけるだけ。
それなら簡単そうだとさっそく始めると、目に見えて成績が上がってきた。寝る前にどの参考書や問題集を何ページ進めたか、学習時間とともにノートに書いていく。簡単な手書きのグラフにする。作業時間は5分もかからない。しばらくすると、不思議と勉強量が増えていた。
自学自習の効果に気づくと学校の授業に疑問を感じるようになる。「先生がしゃべっていることなんて全部、参考書に書いてあるじゃん」。浪人生となり大手予備校に通うと疑問はさらに膨らむ。名物講師の板書をひたすらノートに書き写す学習に「これでは写経と同じ。知的な作業じゃない」と痛感する。
慶応大学に進学すると受験生時代の疑問は起業のタネへと変わっていった。「俺の経験がそのままビジネスになるんじゃないか」
両親がリクルートで働き、同社創業者の江副浩正氏の「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉を家訓として聞き続けたという広瀬氏。小学1年の時に七夕の短冊に「将来は社長になりたい」と書いたほど、起業への思いは強かった。
大学3年で「スマホで学習管理」のアイデアで、あるコンテストに優勝した。優勝者には最大500万円出資するという条件だったが、大会後に主催者が広瀬氏にささやいた。「さっき緊急会議で1000万円出資すると決めたから」。その日のうちに起業を決め、大学も中退した。
1年近くかけてアイデアを形にし、11年3月にリリースした「スタディログ」は、まさに自分自身が受験生時代に書きつけた勉強記録ノートをスマホに移したものだった。ところが登録者数が思ったほど伸びない。ユーザーの声に耳を傾けると、中高生の本音が見えてきた。
当時のサービスは学習記録を付けてツイッターなどで発信する仕組み。これに対して「勉強の記録を公開して自慢しているみたいと思われるのが嫌」という不満があることが分かった。友人同士だと勉強や志望校については話しにくいという。一方で、同じ志望校の受験生などとは交流して勉強のヒントを得たいというニーズもある。
社会人・塾も活用
広瀬氏はSNSの機能を、ツイッターなどに頼らず自ら作り直そうと決意する。また1年の浪人生活。この間、ウエブサイトの作成代行などで日銭を稼いだ。
12年3月にサービス内容を一新した「スタディプラス」を開始。匿名だがSNS機能は拡充させたところ、登録者数は面白いように伸びていった。
ただ、収入の柱である広告にはすぐには結びつかない。3年間は我慢が続いた。ベネッセや大学などからの広告が舞い込むようになったのは15年ごろからだった。
受験生の間で「スタプラ」の愛称で定着した勉強記録アプリ。ユーザーは勉強のログを付けるだけで、志望校別などに分かれて交流できる。やる気を刺激する仕掛けだけでなく、参考書のレビューなど実用的な機能も持たせた。
利用者は社会人にも広がり、英語能力テストや資格試験、教養などカテゴリーを増やしている。今夏には記事コンテンツの配信も始める計画だ。大学情報や合格体験記、卒業後のキャリア紹介などを検討している。17年夏からは学習塾などとの提携も本格化。塾側は生徒の勉強の進捗をスタプラを通じて把握する。
ようやく軌道に乗った勉強記録のビジネス。20年までに500万ユーザーを目指すが、広瀬氏は「本当は数値目標は掲げたくない」と言う。
原点は「今の日本は教育の格差がそのまま将来の希望への格差となって現れている」との思いだ。格差を埋めるためにはどうすればいいのか。IT(情報技術)で教育を進化させる「EdTech(エドテック)」のスタートアップ企業が挑むテーマと、広瀬氏も真正面から向き合っている。 (杉本貴司)
[日経産業新聞2018年4月23日付]