原油、3年5カ月ぶり高値 70ドルに迫る
【ジッダ(サウジアラビア西部)=飛田雅則】原油価格が3年5カ月ぶりの高値圏にある。ニューヨーク市場の原油先物は1バレル68ドル前後となり、心理的節目の70ドルに迫った。石油輸出国機構(OPEC)主導の協調減産が順調に進み在庫が減少。世界的な需要も堅調で価格が上昇しやすくなっている。

ニューヨーク原油は19日、一時1バレル69ドル台後半まで上昇した。2年前に比べ7割高い。20日にトランプ米大統領はツイッターで「またOPECのようだ。人為的にとても高くなっている」と批判。「受け入れられない」と表明すると、67ドル台半ばまで下げる場面もあった。
「産油国の協力で原油市場は安定に向かっている。より連携が必要だ」。サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は20日、OPECとロシアなどの非加盟の産油国がサウジ西部のジッダで開いた減産監視委員会後の記者会見で、協調減産の成功を語った。ロシアのノワク・エネルギー相も「市場の安定のため生産者も消費者も産油国の結束に期待している」と述べた。
17年1月に始めた協調減産は、参加国が合計で日量180万バレルを減らす約束だ。足元の達成率は100%超。過剰在庫は着実に減り、国際エネルギー機関(IEA)は「1~2カ月後に在庫は目標の過去5年平均を割り込む可能性がある」と分析する。市場が供給減のリスクに敏感に反応しやすくなった。
中東産油国を巡るリスクには事欠かない。15年の核合意で解除された対イラン制裁について、トランプ米大統領が再開するかを判断する期限が5月12日にやってくる。再び制裁を科すならイラン産原油の輸出が滞る。
OPECが供給を絞る一方、世界景気の拡大で需要は堅調だ。米中貿易摩擦が水を差す懸念が浮上したが、警戒感は一時より和らいだ。米ゴールドマン・サックスは19日の報告書で、18年の原油需要が前年を2%上回るとし「米国の保護主義が需要見通しを狂わせる可能性は低い」と指摘した。
サウジが高値誘導に動くとの観測も買いを誘った。ロイター通信は18日、サウジ当局者が「1バレル80ドル、場合によっては100ドルが望ましい」と考えていると報じた。サウジは国営石油会社の新規株式公開(IPO)を控えており、企業価値を高めるには原油が高い方が好都合だ。過剰在庫が解消しても、減産を続けるとの思惑が強まった。
原油高は燃料費の上昇にもつながる。商船三井は航海ごとに契約する取引では先に運賃を決める。「徐々に原油価格が上昇する局面では当初計画に対して採算が悪化する」(同社)。ただ、原油上昇局面では荷動きが活発になる場合も多い。
今後は自動車向けの需要が高まる夏に向けてガソリンなどの需要増も影響するため、「1バレル75ドルに近づく可能性がある」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構の野神隆之主席エコノミスト)との見方が出ている。
もっとも、強気に傾いた相場の今後の重荷になりそうなのが、米国のシェールオイル増産だ。米石油サービス大手ベーカー・ヒューズによると、米石油掘削装置(リグ)稼働数は1年で2割増加。米国の産油量は1割強増え、日量1000万バレルを突破した。
原油価格の上昇に伴ってシェール掘削は従来以上に採算を得やすくなっている。今後もリグ稼働数が増えて増産の動きが続くとみられ、年後半にかけて再び過剰感が意識される可能性がある。