マザーズ上場のHEROZ AI開発、原点は将棋

人工知能(AI)開発のHEROZ(ヒーローズ)が20日、東証マザーズに上場した。投資家の期待は大きく、終日買い気配で初値はつかなかった。将棋ゲームで名高い同社は、NEC出身の2人が2009年に創業。メンバーには将棋有段者のエンジニアも多い。将棋AIの開発で培った技術や知見を惜しみなく産業応用に注ぎ込む。
「AIの可能性は無限大だ」。ヒーローズの林隆弘最高経営責任者(CEO)は、20日の上場セレモニー後の会見でこう語った。ヒーローズは、将棋ソフト「将棋ウォーズ」などで知られる。これまで実績を持つB2C(消費者向け)サービスに加え、B2B(産業向け)の事業の柱に据えて、AIを建設業や金融業などに活用する。
ヒーローズが提供するAIプラットフォームは「HEROZ Kishin(キシン)」。その名の由来は「棋神」、つまり将棋の神だ。同社が抱える将棋AIのエンジニアらが、互いに腕を磨き合って得た技術や知見を産業用AIに持ち込む。
「僕らは血へどを吐くような実装をしているんですよね」。リードエンジニアの山本一成氏は笑う。東大将棋部出身の山本氏が開発した将棋AI「Ponanza(ポナンザ)」は、17年に名人に勝利した。
山本氏が「血へどを吐く」と話す心はこうだ。ヒーローズのエンジニアは、パソコンに向かってコードを打ち込んでソフトを開発するだけではなく、CPU(中央演算処理装置)やメモリーなどのハード要件といったAIの実利用に必要な知識を、社内外のライバルとぶつけ合える環境があり、いわば「殴り合いながら」、そして「手を取り合いながら」開発を進められる。
ここで得た知識は、将棋AIの開発以外でも活用ができる。ヒーローズは、竹中工務店やバンダイナムコエンターテインメントなどと資本業務提携している。竹中とは構造設計支援AIの開発、バンダイナムコとは新たなエンタメの創出を目指す。
創業者の2人、林CEOと高橋知裕最高執行責任者(COO)はNEC内定者だった早稲田大学時代からの旧知の仲だ。「自分がやりたいことを突き通したい」という高橋氏は、NECの入社面接で「10年後には辞めます」と話すほど胆力がある熱血漢だ。
高橋氏が林氏に独立を誘われた当時、ちょうど米アップルがiPhoneを発表し、スマートフォン(スマホ)が普及の兆しを見せ始めた頃だった。「スマホで世界が変わる。これまでとは景色が違う」(林氏)。2人でNECを飛び出して09年に起業した。
「AI市場の成長率以上の企業成長率を維持する」。林氏の目標は高い。国内のAI市場は20年度には約1兆円、30年度には約2兆円に膨らむと予測するリポートもある。将棋AI開発で培った実戦力を今後のビジネスで生かしたい考えだ。(矢野摂士)